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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第四章 うねり狂うビート
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「なぁペペ。その人形、お前に似てるな」ハセガワさんは言う。

「えぇ⁉ 似てるかなぁ……? 髪と目の色しか似てないと思うけど。いくらなんでもここまでスレンダーじゃないし、私、お腹に釘なんて刺さってないよ?」 

 恨みの代名詞にも数えられるような人形を前にして、彼らのトークは実に平和なものだった。

 恐らく彼ら未来人は藁人形の役割を知らないのだろう。

「……ペペさん。この町にあなたみたいな髪や、目の色をした人は他にいませんよ」天文町のような田舎には、容姿も中身も典型的な日本人しかいない。観光名所と言えるような場所なども無く、この町で外国人など生まれてこの方毛ほども見たことが無いのだ。

「え⁉ てことは、これほんとに私なの?」彼女は驚いた表情を見せると、人形をまじまじと観察し始める。

「……ペペ。お前誰と接触したんだ?」ハセガワさんは呆れたようにそう言う。

「え? やだなぁハセガワ。流石の私でもそこまでおっちょこちょいじゃないよ~」彼女は右の掌をはらはらとはためかせる。

「目はクレヨン。髪は市販のドールのものですかね……」顔を寄せ、冷静に分析してみるが、近くで見るとそれは本当に不気味だった。力を込めた為か、青いクレヨンで描かれた丸い瞳はところどころ大胆に乱れていた。

「ドール! ということは、作ったのは女の子かな? ちょっと雑な感じだけど……、一生懸命作ってくれたんだね~……」

「ふむ、女の子か。なかなかほっこりするじゃないか。心臓に刺されている釘は、もしかしたらビートを意味しているんじゃないのか? もしそうならば、この時代の人間も隠された力に気付き始めているのかもしれないな」

 違う。それはただ単に心臓を貫いているだけだ。

 僕は人形についての説明を渋る。これについては知らんぷりをしてやり過ごすのが一番だと、そう直感的に感じた為だ。

 間違っても他人の恨み辛みなどに巻き込まれたくは無い。

「で、この可愛らしい人形がどうかしたんですか?」

「それがね~。この中に一人閉じ込められてるんだよ」彼女は言う。

 閉じ込められている……?

「どういう意味です?」

「言葉のままの意味だ。この人形の中に小さな霊域のようなものが生じていて、その中に一人居るのだ」

 嫌な予感がする。

「なんでだろうね。ただの可愛い人形だよ?」

 可愛いわけあるか。人の憎悪の行き着く先だぞ。

「……ゴーストが中に居るってことですか?」僕は逃げ道を探す。

「男の子だよ。明晴くらいで十三歳だから……、そうだな、九歳くらい?」

 僕は彼女の言葉を見失ったしまったようだった。てっきりまたゴーストについての話が真っ先に出て来るものかと思っていたから。

「小学生の……、ゴーストですか?」

「生きてるよ。小学生の男の子」彼女の言葉はブレない。

 生きている。小学生。 ……行方不明。

 パズルが思わぬ形に嵌っていく。

 しかし僕はその結果に納得しない。これはきっと僕の早とちり。そんなに簡単に繋がる筈がない。物語やゲームでは無く、これは現実なのだ。

「明晴。お前の師。そういえば何か言っていたな?」ハセガワさんはパズルの最後のピースを知っていた。「昨晩から小学生が一人行方不明になっているとか……?」

「……言ってました」

「小学三年生」

「……えぇ」

「明晴よ。この人形はなんだ?」

「これは藁人形と言う人形です……」

「この時代の人間は人形に釘を刺して遊ぶのか?」

 きっと彼はもう感づいている。これが何か不吉なものだということに。どうやら逃げ場は閉ざされたようだ。

「これは人を呪い殺すときに使うんです。この釘をハンマーで打ち付けるんですよ。僕も詳しくないんでそれくらいしか知りませんけど……」

「えええええええええええええええええええええ⁉」ペペさんは大声を張り上げる。「じゃ、じゃあ! 私……、死んじゃうってこと……? いつ⁉ 死ぬときって痛いの⁉ やだよ……。マサカドは⁉ 私達の時代はどうなるのさ!」頭を抱え、彼女は混乱する。

「オカルトですよ! 落ち着いて! しっかりと結果として現れる確率はきっと限りなくゼロに近いですから!」

「そ、そうなの……? いきなり心臓止まったりしない……?」ペペさんの空色の瞳が少しだけ潤んでいるように見えた。

「……多分」

「多分なの……?」彼女の表情が再び崩れ始める。「絶対痛いよ……。だって心臓に刺さってるんだよ? 絶対苦しいよ……」

「大丈夫ですって死にませ……」その時、僕の思考は再びとんでもない方向へと飛ぶ。

 言葉を飲み込み、話題を変える。

 パズルのピースがまだある。そして僕は新しいピースが嵌らないことを今すぐ証明する必要がある。

「ハセガワさん。ペペさんってよく朝方うなされたりってします……?」

「いいや。そんなことがあればペペの母君が話すはずだ。母君は心配性だと言っただろう?」

 パズルのピースが外れない。

「明晴。隠すんじゃない」

 彼の言う通りだ。これは隠していてどうこうなる問題では無い。

「ペペさん、朝方うなされてるんですよ。凄く苦しそうな声で」

 ハセガワさんは怪訝そうな顔をする。

「馬鹿なことを言うな。ミクロゲルの防音は完璧な筈だ。しっかりと外側に意識を飛ばさない限りは漏れたりしない」

「そんな……。一回目は一昨日で、今日で二回目ですよ?」

 沈黙が流れる。

 きっと僕と彼の考えていることは一緒だ。

 ハセガワさんは『防音は完璧』と言ったが、皮肉にもその言葉でピースが嵌ってしまったように思えた。

 この時代のゴーストは彼ら未来人の計算を既に二度も超えてきている。ならばその『完璧』を超えられる存在もまた、彼らだけでは無いのだろうか……?

 

「うわああああああああああああああああああああああん‼」

 沈黙を切り裂いたのはペペさんの号哭だった。


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