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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第四章 うねり狂うビート
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 偽物の五百円硬貨をポケットの中に潜ませたまま、僕は代わりに財布から本物のそれを消費し、たこ焼き六個を手に入れた。

 値下げの話は出てこなかったので、価格はいつものもので承諾した。

 おばちゃんのことだから値切れば幾らか値下げしてくれただろううが、この前に続けてそれを要求するのは流石に強欲すぎるように思えたのでやめた。

 ――たっこ焼っきたっこ焼っき!―― ペペさんの意識は弾む。

 たこ焼きと彼女のおかげで僕の気分も心なしか良くなっているようだった。織媛の件はこの際仕方がない。年頃の女子の心にいつまでもズカズカ踏み込むのもきっと良いことでは無いだろう。それに、何故だかは解らないが、彼女は僕の侵入を酷く拒んでいる。

 方策も無しに無駄なことを続けるのは得意じゃない。

 僕はたこ焼きの包みを持ったまま、いつもの公園へと向かう。

 そういえば幼いころはあそこで織媛とよく遊んだものだ。それが何時しか彼女は商店街の閑静なエリアを避けるようになり、買い物や暇つぶしはお洒落な方のエリアで頻繁に済ますようになっていた。

 それに関しての寂しさはもう無い。それはきっと悪いことじゃない。彼女が女性として着実に進化している証拠なのだ。男の僕がどうこうと口を挟む問題じゃない。


 ――ちょ、ちょっとハセガワ……―― 公園への途上、ペペさんは何かを呟き出す。彼女の声は、先程までのおもちゃを買ってもらった子供のようなものとはまるでトーンが違った。が、僕は周囲の状況の変化を認めることが出来なかった為、歩を進めることを止めなかった。

 ――明晴、瘴気だ―― ハセガワさんは静かに、かつ力強くそう呟いた。

 瘴気。ゴースト。

「……いるんですか?」歩き慣れたはずの道の環境を隈なく調べる。僕の踏む地面は土では無い。靴の下には石。ここは公園に至るために通らなければいけない石橋の上なのである。その下を流れる名も知らない川の周辺には緑が残され、草が生い茂っている。空は青。遠く後方には商店街の端が見え、前方の道をまっすぐ歩けばすぐに公園に辿り着ける。

「不思議な感じ……」ペペさんは僕に許可を得ずに、その体をバッジから人間のものに変形させる。彼女は静かに目を瞑る。何かを感じようと試みているようだった。

「ちょ、ちょっと! 確かに人通りは少ないですけど、それは…」

「問題ない」ハセガワさんもまた姿をフクロウのものに変換し、ペペさんの頭部にちょこんと乗っかる。

「きっと誰かが通ってもあまり我らに興味を示さないだろう。君の生活を四日間見ていてわかった。この世界の人間の大半は心を縛り、閉じ込めている。ペペと私は確かに目立つ。しかしそれに気づいたとても、彼らは我らに接触したりはしない」

「確かにそうかもしれませんけど、存在を認識されるだけでもマズいですよ。知らない人同士のコミュニティは未来人からは弱く見えるかもしれないですけど、知り合い同士のコミュニティはしっかりと生きてるんです。口コミで存在が広く認知されてしまうかも……」

「なるほど、言われてみれば明晴も既存のコミュニティだけは良く使っているな」

「友達少なくてすいませんね」別にクラスの人間と話せないわけでは無い。話し始めても、何故だか終始お互いの表面を撫で合うような会話が続いてしまうのだ。

 きっと彼らのような青春真っ盛りの人間から見れば、僕のような陰鬱オーラ全開の帰宅部員は、学校を卒業するその時まできっとよくわからない存在のままなのだろう。

 僕は彼らにとってゴーストのような存在なのかもしれないな。

 いや、それは皆同じだ。


「見つけた!」ペペさんは空色の瞳を見開くと、突如石橋の欄干目掛けて弧を描くように走り出した。それと同時に彼女の頭で羽休めしていたハセガワさんは軽く浮遊し、僕の頭の上に着陸する。

 安全装置として機能するはずの欄干の上を、彼女は走り高跳びの背面跳びのフォームで軽快にするりと通過していく。

 落ちた!?

「ペペさん!」僕は彼女の通過した欄干に駆け寄り、その姿を探す。

「ハセガワ~! ここだよ~!」彼女は僕らの方に向かって右手をはらはらと振る。川の流れに削り取られていない部分。流れの脇に残る陸地の上に彼女は居た。

「ふむ……」ハセガワさんはぼそりと呟き僕の頭の上から飛び立つと、橋の下にいるペペさんの頭上へとその身を移した。

「変なことしないでくださいよ!」僕はそう叫び、石橋の脇のなだらかな土手から彼らと合流することにした。


 厄介な人達ばっかりだ。昨日の占いは大当たりだな。

「わざわざ目立つようなことしないでください!」再び大声で彼女に注意を呼び掛けながら、僕は土手を下り終える。するとそこには、石橋の足の部分を熱心に観察する彼らがいた。

「何を見てるんですか?」

「ねえ明晴。これさ、ヤバいヤツ?」ペペさんは橋脚に接着している何かを指差す。

 ペペさんのきょとんとした青い目から透き通った指先にかけて流れるように眺めていく。

 そしてその指先が向く方向。橋脚に接着している異物。

 その正体は、古式ゆかしい藁人形だった。


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