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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第四章 うねり狂うビート
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 七月六日。天気は晴れ。時刻は午後の三時。

 学校の授業を全て適当やり過ごし、現在僕は教室の掃除中である。

「お前今日ずっと欠伸してんな」綱介は椅子の上がっている机に腰をかけ、僕に話し掛ける。

「いいから掃除しろ。箒を動かせ」

「明日になればすぐ汚れるんだから」

 今日も一日、綱介とは沢山の言葉を交わしたが、霊域の影響と呼べるようなものは全く見当たらなかった。彼らの言った通り、綱介はすっかり昨日の出来事を無かったことにしているようだった。

「お前は箒を動かすな。俺は部活に遅れて行きたいんだ」彼は冗談交じりにそう言う。

「……面倒なら辞めればいいんじゃないか?」

「いやいや、俺のどこに力があるかわからんからな。それに、野球やっとけば後々なんでも出来そうじゃないか?」

「まぁ、スポーツやっとけばメリットだらけだろうな」

「そうだろ? だからここで辞めるのは駄目だ」

 スポーツマンの思考回路は、僕のようなぐうたらには理解できないようだった。

「お前、なんか夢とかあるのか?」ふと、僕はそんなことを口にする。自分に無いものを友達が持っていないかを確かめる。

「ヒーローだな」

 時間が止まる。僕は脳を高速回転させ、昨日の出来事を事細かに再生する。ヒーロー。そのワードは昨日の出来事を強く僕に思い出させた。

 昨日の彼らの対応に何か過不足があったのではないのか……?

「おいおい……、そんなマジに取らなくていいぞ? 冗談だ」彼の言葉によって、拘束された時間は解き放たれる。

「な、なんだ。冗談か……」思わず僕は胸を撫で下ろす。

 冗談はやめろ……。心臓に悪い。

 世界の消滅が掛かっているんだぞ。

「お前やっぱ疲れてんな。そんなんじゃあ誘拐犯と会っちまった時一発だぞ?」

 誘拐犯。それは朝のホームルームにて担任が口にした言葉である。

「まだ誘拐と決まったわけじゃないだろ」そう、それについてはあの担任が勝手に口走っただけ。実際に起こっている出来事は、この町に住んでいる一人の男子小学生の行方不明である。

「連続で行方不明が起こってたってわけでもない。今の段階では、誘拐についてはただの賀茂先生の妄言だ」

「賀茂ちゃんも俺らを心配してくれてるんだろ。万が一の為だ」

「あんまり生徒を怖がらせるのもどうかと思うけど」

 ふと目線を泳がすと、同じ班の女子の冷たい目線に気付く。

「さっ、掃除掃除……」箒を動かし、床の埃を適当に集める。

「しかし今日はあれだな……」空気を読むことなく、彼は喋りを続ける。「織媛ちゃんは来ないんだな」

 言われてみればそうだ。いつもならば僕が掃除の時、彼女はその様子を観察しに来るものだが。今日は彼女の姿は一切見えなかった。

「喧嘩でもしたのか?」綱介は言う。

「電話とかメール無視したから怒ってんのかな……」

「うわっ……。まじかよお前最低だな。そういうのが一番モヤモヤするんだって」

「だって深夜の二時に履歴がゴッソリだぞ? 起きてねえって……」そう、今日の朝も僕の携帯はそんな状態だったのだ。しかも朝の目覚めは二日前と同じペペさんの呻き声である。何故僕の周りは不気味な真似をする女性ばかりなのだ……。

「織媛ちゃんそんなことすんのか……。意外とおっかねえな子だな」綱介は茫然とした表情で言う。しかし間髪置かず彼の表情は真面目なものへと変化する。「あれ、お前んちと織媛ちゃんちって隣じゃなかった……?」

「お、おう……」彼の表情の変化に僕は圧される。

「ほう……」綱介は自分の顎をゆっくり撫でると、僕に向かって疑いにも似た目線を浴びせる。

「なんだよ」

「いやぁ…、明晴も春だなぁと思って」彼は机から腰を下ろし、さっさと箒で床を掃きはじめる。

「なんでそのタイミングでやる気が出たんだ?」僕のツッコミに彼は何も返さない。彼の箒が止まることが無かった為、僕も一緒になって教室を綺麗にすることにした。

 同じ班の方々をこれ以上イラつかせるわけにはいかない。

 世界はどうだか知らないが、少なくともこの教室の主人公は僕ではなさそうだ。


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