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ペペさんは刀を杖替わりにして立ち上がろうとする。
――綱介!――
――知り合いか⁉――
――友達です! ハセガワさん、アイツ、瘴気は大丈夫なんですか⁉――
――大丈夫な訳ないだろ! マモン全滅で一気に瘴気は薄くなったが、ベエルゼブブにも瘴気はあるのだぞ! この時代の人間の心なら持って五分だ!――
「五分もあれば充分だよ……!」ペペさんは綱介に吹き飛ばされ、ボロボロになった体で立ち上がる。ペペさんの声にはいつもの落ち着いた雰囲気が戻っていた。ちょっとお調子者で、しかし頼りになる響き。
「二人とも心配させてごめん……。あの子には感謝しなきゃいけないね。いや、感謝しきれないほどだよ。だって今、この領域にはこの時代のビートが二つ揃ったから。これで確実に、かつ安全に混線量を上回れるよ……」
「何をブツブツ喋ってる! 俺はお前を敵と見なしたぞォ!」綱介はそう言うと、両手を気合いで燃え上がらせ、こちらへと疾走する。
――ペペさん、ハセガワさん。後は僕がやります……!――
――明晴⁉――
――ペペさんは随分ダメージを喰らってしまいました。休ませてあげたいです。それに、鋼介が瘴気の中にいるのに僕が引っ込んでるなんて嫌です!――
「うん。おっけ」ペペさんはノータイムでそう答える。「今の明晴のビートなら余裕だよ! 瘴気も敵の消滅に連れて弱くなるしね!」
僕はそれ以上返答することなく、ビートを刀の状態から使い慣れた人型へとその形を変える。
「ハセガワさんはアイツのところに行ってレクチャーをお願いします! 僕は先にペペさんと二重奏で片付けてますから!」
――わ、わかった!―― ハセガワさんは僕の消失によって短くなった刀から、光球の状態を経由して体をアナホリフクロウのそれへと変形させる。「すぐに説明してくるからな!」ハセガワさんはそう言って綱介の元へと飛んでいった。綱介は、敵だと思っていた女のそばに突然僕が現れたことに驚き、足を止め混乱しているようだった。
「大丈夫ですかペペさん」僕は空間に膝をつく彼女に手を伸ばす。「立ち上がらなくていいですよ。手を取って、そのまま僕の中に入ってください」
「うん。ごめんね頼りなくて……。イメージの支援はするから。お願い……」ペペさんは僕の手を取ると、彼女の姿は缶バッジとなり、僕のパジャマの右胸の部分に装着される。
――ふえ~、疲れた~……。快適快適……―― ペペさんのくつろぐ声が聞こえる。
「無理させてすいません。時間も無いですし、行きますよ!」僕はペペさんのバッジを強く叩き、彼女のビートを刀の形に変換させる。
――ほらっ! 明晴も来て!――
「はいっ!」僕は目を閉じ、自分のビートが刀の方向へ移動するイメージをする。僕のイメージをメインにして二重奏をするのは初めてだったが、ペペさんのイメージも追加されており、あまり難しいことでは無かった。
――繋がったよ!――
「はい! ファンキー・ビート! 二重奏!」瞼を開け、声をだし、ヒーローさながらに格好をつける。
恥ずかしさなどは無い。意識が重要なのだ。これくらいせねば。
――さぁ! あの少年の為に時間を稼ぐよ! 目標は空中、ベエルゼブブ群!――
「はい!」僕は滞空するベエルゼブブの群れに向かい、勢いよく跳躍する。
ペペさんの創った偽物の空を、僕は全力で飛んだ。




