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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第三章 復讐のビート
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 混線、混線、混線。ハセガワさんのその言葉は止まらなかった。

 それから、体感ではあるが、追加で五分ほど経った。が、ペペさんの必死の活動むなしく、目標の数は一向に減ろうとはしなかった。

 僕が失望の念を混ぜてしまったせいか、刀の切れ味も心なしか悪くなっており、ゴーストを斬り損じる現象も多々見られた。

「さ~て、どうアプローチをかけようか……」ペペさんは一瞬刀に力を込め、彼女を中心として、上空を含めた半径5メートル程の敵を波動のようなもので一掃すると、声に出して考えを巡らせた。

 ――撤退しても構わないぞ―― ハセガワさんは選択肢を彼女に与える。

「いやいや、それはまだ早いでしょ」しかしペペさんは何を言っているのかと言わんばかりにその選択肢を一蹴する。

 ――……瘴気に飲まれたな。まぁ、確かにダメージを負うことはないから、今回はそこまで焦る必要もなさそうだが――

 ――大丈夫なんですかペペさん。これって昨日の僕みたいな状況ですよね?――

 ――いいや、昨日より遥かに瘴気は濃い。数が違い過ぎるからな。瘴気の濃淡はゴーストの質だけで無く、量にも比例するのだ――

 ――な、なら昨日のものとは比にならないんじゃ……?――

 ――その通り。昨日明晴が喰らっていたものに、この数の半分を乗じたものをペペは今喰らっていると考えて良い。とっくに冷静な判断力は飛んでいるだろうな――

「へっへ~! 敵が減らないってのはこれはこれで面白くなってきたよ~!」ペペさんは遂に本来の目標を見失い、刀と体を躍らせ、戦闘そのものにその身を沈めていく。

 ――まぁでもこうやって瘴気が脳内麻薬として強く機能してくれていた方が、自分に対しての失望は気にならなくなるだろうな――

 ――じゃあこのまま三重奏を連発するってのはどうです?――

 ――ペペを戦闘狂にする気か。確かにそろそろ自分に対する興味は消えているだろうが、ここまで自我が飛んでいる状態で三重奏連発は揺さぶり過ぎだ。心自体が飛ぶ。この領域では体の代わりに心を使って戦っているのだぞ――

 ――要素が多すぎますよ。もっと簡単にならないんですか?――

 ――人の心に単純を求めるな少年――

「おりゃおりゃおりゃ~!」彼女はゴーストの中を無邪気に踊る。彼女の表情は、とても心を擦り減らして戦っている人のものには見えなかった。

 ――三次元世界に戻れば、心が元通りになるように世界そのものが引っ張ってくれる。しかし、その力にも限界はあるのだ。それで戻れなければ心は壊れたままになる。少年、昨日は領域から出た後、心が苦しくならなかったか?――

 ――……なんだか呼吸することが辛いような感覚はありました――

 ――それが三次元世界の引力。不快だろうが、あの痛みは我らが三次元存在でいるために必要なものなのだ。我々の心は体と世界に縛られていて当然なのだ――

「なぁ~に二人で難しいこと喋ってるのさぁ! ビートに正直になろうよ! もっと一緒に気持ち良く踊ろうよ!」彼女の表情は時間の経過とともにより一層晴れやかになっていく。ゴーストの体に刃を入れながら彼女は笑う。

 ――やられてるな――

 ――……やられてますね――

「やられてないよ!」彼女は大声を張り上げる。「やられてないもん! これが私の本当だよ! もっと見て二人とも! 私のありのままの姿をもっと見てよ!」

 ――ペペ。それはお前じゃない―― ハセガワさんは当然のことのようにそう言い捨てる。


「意地悪…」ペペさんはそう呟くと、ピタっと踊りを止め、歯をギリギリと鳴らし始めた。「ハセガワの……」彼女の両手の爪が掌に深く傷をつける。「ハセガワのバカアアアアアアア!」

 彼女は叫んだ。意識を増大させ、既に見飽きた白の空間を彼女の空の色に染め上げながら。その青は、彼女の悲痛な叫びとは正反対に、昨日と同じ鮮やかな青だった。

 ――領域変化⁉ このタイミングで⁉ やめろペペ!――

「うるさいんだよっ! この……、クソ猛禽類が!」

 ――なっ⁉――

 ペペさんの叫び声にビートが込められているのか、彼女に接近していたゴーストは、叫びに応じてそれぞれ彼女を中心に十メートルほど吹き飛んでいった。

 ――明晴も()めろ!――

 ――()めろって何をですか? 瘴気のせいかペペさんの意識に焦点が合いません。何を考えているのか読みづらくて……――

 ――キミがわからないのか⁉ 未完成な双子(フレ)(イム)にこの瘴気じゃあ連れ添った時間の長い私の方が鼻が利くか……。状況がマズいのだ! ペペが領域変化を発動した。アイツの癖だとこの流れで決めにいくはずなのだ!――

 ――決めにいく……。まさか⁉―― 僕がハセガワさんの言葉の指し示す先に感づいた時には事は既に始まってしまっていた。


「ファンキー・ビート……。三重奏……!」

 脚部と周囲に張られた光が球となり、ペペさんの握る刀へと溶けていく。彼女は両の瞳に、強く、強く力を込め、対象たちを見据える。

 事態が発生してしまってから、僕は自分が他人に対して鈍感な人間であることに気付いた。

 何もかもが後追いだ……。

 こんなものビート云々で読み取らなくても分かった筈だ。

 彼女は怒っているじゃないか。

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