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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第三章 復讐のビート
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 ワームホールを抜けると、夏のものとは思えない程ひんやりとした大気が肌に触れた。視界は悪く、何も見えない。

「ペペさん……! ペペさん!」闇に耐えきれず僕はすぐさま声を上げた。間髪入れずに人肌の感触が右手に触れる。一人じゃないことを認識すると、僕は詰まっていた息を外気へと流した。

「明晴、大丈夫だよ」彼女の声が伝わると体がじんわり暖かくなる。

「今、トンネルの中ですか?」

「うん。瘴気がマジで気持ち悪いよ。今回はバイザーで確認しない方が良いね。こんなのこの時代の人が視認すべき光景じゃない」ペペさんの左手の力が強くなる。

「まったく、なんでこんなことになっちゃうのかな……。ま、この時代の人達の生き方に口出しする気は無いけどさ」

「無駄話をしている暇があるなら早く領域に入ったほうがいい。まだこの時間は電車が通るぞ」

「おっと、そうだね。それじゃあ明晴、一緒に入るよ。手を離しちゃダメだからね~」

 奪われた視界の中、繋がれた右手の先でペペさんが侵入に必要な何かをする。


 瞬間、目の前から闇という闇が一点に吸い込まれ、その空白としての白が空間を埋める。もう既に見慣れてきていた白。しかし今回は今までのようなまっさらな白ではないようだった。

「んん……?」果てしない白に幾つかの黒が混じり、空間全体が斑点模様になっている。

「人柱なんてするから場がケガレてこんなに集まってきちゃうんだよ」ペペさんは僕と同じ方向を見てそう言う。

「こんなにって……」僕はペペさんの言葉から今の状況を筋が通る様に解釈する。「もしかして……、この黒い斑点、全部?」僕は空間に点在する黒い影に目を凝らす。

「そのまさかだ明晴」ペペさんの頭の上からハセガワさんが僕の嫌な予感を現実の物へと固定させる。「これら全部が目標だ」

「な、何匹いるんですかこれ……?」

「ざっと万はいるだろう。場が悪いのだ。ここにいるべき者以外もあらゆるところから紛れ込んでいる」

「気にしないで明晴。今回はハナから私がやるんだからっ! さっ! 明晴も」

「うわあああああああああああ!」ペペさんは間髪入れず僕の存在を繋いだ左の掌から吸い上げていく。

 体は切り離されバッジとなり、彼女の胸に装着され、魂は彼女の中に溶けて広がる。そしてビートは刀となる。

 ――ペペさんの意思だけで、バッジの段階から僕をどうこう出来るんですね……――

「え? ああ、昨日と違って、私が明晴のこの形を知ってるからね」ペペさんは刃に指を這わせ、刀の様子を適当にチェックする。

「そんじゃ……、私のはとりあえずブーツでいいかな……」ペペさんは自分のビーヅを胸に寄せ、ビーヅを光に変換させる。変換された光は彼女の両足に収束し、それぞれ小さな羽根飾りのついたかわいらしいブーツとなる。

 つま先で片足ずつコツコツと地面を叩き、彼女はブーツの調子を点検する。「よし。ハセガワ!」「応!」ハセガワさんはペペさんの頭上で大きく羽根を広げると、その体をバッジにして彼女の胸元に張り付いた。魂は彼女に溶け、ビートは彼女の周りを円形に薄く包み込む。

「ハセガワ。目と耳と三半規管。お願いね」

 ――そう急かすな―― ハセガワさんの応答を期に、ペペさんの視力聴力が極端に強化される。無論その影響は彼女と同化している僕の世界にも同様に発生する。

 奇怪な鳴き声がすぐさま鼓膜を揺らし始める。きっとゴーストのそれなのだろう。

「ほらっ、明晴見える?」そう言ってペペさんは強化された視力で上空に浮かぶ黒の一つにフォーカスを当てる。

 ――……見えました――

「そう? しっかりシンクロしてるみたいだね」

 空に浮かぶそのゴーストは、昨日の便器のゴーストとは違い、実に馴染み深い形をしていた。

 ――蠅……ですよね―― ゴーストの複眼が光を映す。

 ――蠅の王ベエルゼブブ。奴一種類のパターンなら暴食型だが――

「どうやら違うみたいだね」ペペさんはハセガワさんの台詞を横取りし、その視界を大きく下方向に揺らす。僕らと同じ上下座標、白の空間の、所謂地上には蠅とはまた違う何かが大量にいた。

 ――……こっちは昨日のと似たものを感じますね―― それらは人型の体に鶏の頭部が二つ、人のそれの代わりに窮屈そうに付いていた。

 ――あれはマモン。貪欲型だ。こいつと暴食型が混在する空間は包括して貪欲型として見なされる――

 ――つまりこの人たちはなにか『貪欲』に関して未練があるということですか?―― 昨日の少年がそうだったように。

「違うよ明晴。霊道から大量のゴーストが押し寄せてきているせいで一体一体のアイデンティティが失われてるんだよ。ゴーストが集まると大体は貪欲型に収束するんだ」

 ――数は多いが一体一体の意識は既に無いに等しい。昨日の少年のように単独の領域でなければ意識は怨念にまで素直に育ちづらい。つまりこのパターンのゴーストの集団は雑魚だ。ペペ! マモンの方がベエルゼブブに比べ発する瘴気が濃いぞ! マモン掃討を優先するんだ!――

「了解! そんじゃ、適当に片付けるよっ!」そう言うとペペさんは真っ先にマモンの群れに飛び込み、躊躇なくそいつらを切り付けはじめた。


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