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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第三章 復讐のビート
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 その日の夜。僕はいつも通り自分の部屋にいた。

 電車を降り、織媛と特に何もするわけでもなく二人の家の前まで歩いた後、別れの言葉を発し、お互いの家へと入っていった。

 時間はたくさんあったはずだが、結局織媛の心に入り込むことは敵わなかった。

 ――まったく明晴はチキンだね~―― 机の上に置かれた肩掛けバックから、ベッドで横になる僕へとペペさんの意識が届く。

「チキン……」僕は彼女の言葉を反復し、それを頭で咀嚼する。

「そう! 女の子にはもっとガツンと踏み込んでやるべきなんだよ!」ペペさんの声が鼓膜を揺らす。ベッドに埋めた頭をぐいとあげると、そこにはペペさんの実体があった。腰に手を当て、偉そうに話す彼女の瞳はやはり綺麗だった。

「女の子の心は誰かに見てもらわなきゃダメになっちゃうの! 明晴ももっと見てあげなきゃダメ! このビビり!」人差し指でこちらを指差し、彼女は僕を罵る。

「トンネルごときでギャーギャー言ってた人の言うことですか。帰りなんてトンネル抜けてからもしばらくパニックだったじゃないですか。アイツの言うこと聞き取りづらくて大変だったんですからね」僕は空色の瞳から目線を外し、彼女を煽る。

「ひ、昼寝中にあんな濃い瘴気喰らったら誰だってしばらくの間パニクるよ!」銀髪に隠れた頬が赤く染め上がる。

 ――まったく、ペペには堪え性がないからな―― 実体に戻ることなくハセガワさんは意識を飛ばす、

「ハセガワさんも相当でしたけどね」

 ――……就寝中にあれは無理だ――

「そ、そんな話はいいんだよ! 女の子の心の話をしようって!」

「いいですよそんな話。僕は疲れました。もう寝ます」僕はわざとペペさんのいない方向に寝返りを打った。

「寝るって……、やだなぁ明晴。まだ二十時と半分だよ?」

「ペペさんは今起きたから元気でしょうけど、僕は帰ってから勉強もしましたし、もう風呂にも入ったんですよ。もういい感じに気怠いです……」

「あ~寝ちゃダメだって~」ペペさんが駆け寄り僕の体を揺らす。

「なんです? なにかやることあるんですか?」

「幽霊ボコボコ作戦だって! 今日のトンネル! あそこ片付けちゃおうよ!」

「おお! ナイスアイデアだペペ!」ハセガワさんの声までもが実体となり、視界の外から鼓膜を揺らす。

 一対二では多数決で負けてしまうな。僕はそんなことを考えた。

「ねえねえ明晴~」体の揺れが激しくなる。

 僕はペペさんの方に寝返りを打ち「……ワープですか?」と聞いた。

「移動? 勿論! あの空間に入ったら疲れないことは明晴も知ってるでしょ? お願い! 出来ることは早めにしたいんだ!」彼女は両手を合わせて懇願する。

 曲がりなりにも人類の運命を背負ってるんだもんな……。

「……わかりました。良いですよ」僕は覚悟を決め、上体を持ち上げ、ベッドに座り込む。

「やったあ! ありがとう明晴~!」彼女は僕の体に抱き付き、自分の顔を擦り付ける。

「……昨日みたいな危険は無いですよね?」

「勿論! 昨日の後半戦の体勢でいく! 私がメインで明晴が刀、ハセガワがバリアね!」ペペさんは振り向き人差し指でどこかを指す。

「問題ない」ペペさんの人差し指の示す先ではハセガワさんが勉強机のスタンドライトに留まっていた。

「わかりました。格好は別にこのままでいいですよね?」両腕を広げ、ハセガワさんに承認を求める。僕の格好はパジャマである。着替えるのも億劫なのだ。

「構わん。動いてくれるだけで我々は頭が上がらないのだ。出来る限りは君に合わせるよ」

「どうもです。じゃあ早く行きましょうよ」僕は一つ伸びをしながら言う。

 織媛の件で自分に腹を立てているせいだろうか、ゴースト戦の刺激を体が欲しているように感じた。

「オッケー! ハセガワ! 明晴の分のビーヅ!」ペペさんは僕の体から腕を解き、すっくと立ち上がる。

「ほれ」ハセガワさんはポシェットからビーヅを取り出し、こちらに放り投げる。

 僕はそれを受け取ろうと試みたが、空中を飛ぶビーヅは、位置関係により先にペペさんによって捕獲された。

「はい!」ペペさんはそのビーヅを僕に渡す。

「ありがとうございます……」

「うん! 頑張ろうね!」と彼女は微笑んだ。

「よいしょ!」ペペさんは続けて自分の胸に付けられた缶バッジを叩き、それをビーヅ形態に戻す。「よっ!」そしてそれを巻き付けた手を再び心臓に叩き付け、その手を空中に翳し、昨日と同じ真っ黒な穴を創り出した。

「よっしゃ! ぶっ殺すよ~!」ペペさんは真っ先にそれに飛び込む。彼女を追いかけるようにハセガワさんも視界の外から無言で穴の中へと滑空し、消えていった。

「二人とも血の気が多いな……」そう呟き、右手を先行させながら、僕もまたその穴にゆっくりと全身を飲ませていった。


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