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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第三章 復讐のビート
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 昼食を済ませた後、自室に戻り、都合を合わせるため織媛の携帯へとメールを一通入れる。バッジになったペペさんとハセガワさんを休日用の適当な肩掛けバッグに装着していると、返信は一分と経たずにやってきた。メールの内容によれば、どうやら彼女も丁度昼飯を済ませたところであり、間も無く我が家にやってくるそうだった。

 ピ~ンポ~ン。

 我が家のチャイムが鳴り出すまでにもまた、メールの返信から一分とかかることは無かった。母さんがチャイムに応答し、玄関のドアを開く音がする。

「キャー! 織媛ちゃん、可愛い~!」母さんが下の階でアホみたいな奇声を上げている。織媛が可愛い? いったい何を言っているのだ。いや、確かに彼女は可愛い部類に入るとは思うが。彼女の面などあなたも毎日拝んでいるだろうに……。一日や二日で人の顔が劇的に変わるわけがない。ひょっとして化粧でもしてきたのだろうか……。

 僕は母さんの言葉について特に思考することなく、腕時計を左手に巻き付けながら階段を降り、本日二度目の玄関へと向かった。

 階段を一段二段と降りていくと、彼女は足元から順々に僕の視界へと入って来る。そして彼女の全身を捉えた時、玄関へと辿り着いた時、僕は彼女の姿に釘付けになっていた。

「お、おはよう明晴……! どう……、かな?」そう言って彼女は少々雑にポーズを決める。僕はその姿を見て、ここ何年か彼女の私服を見ていなかったことを思う。小学生の頃の彼女といえば、いつも適当なTシャツに、膝が隠れるほどの長いスカートや、七分丈のカーゴパンツというのが普通だった。カラーや柄にこそ変化はあったが、いつも似たような格好をしていたことをよく覚えている。彼女の両親が、最低限の可愛さと上質な安全、適度な動きやすさを追求した結果に編み出した格好だったのだろうが、如何せん色気には欠けているように思えた。まだまだ色気を求められる年頃では無いことぐらい分かってはいた。しかし小学生の頃から既に、米国アニメのお姫様を思わせるようなフリルの付いたスカートや、太ももまで大胆に露出するショートパンツなどを着用している女子も幾らかいた為、それも相まって彼女の姿はあまりにも見応えがないように思えたのだ。

 しかし、今日の彼女からは、そのような感想が出ることは少なくとも期待できそうに無かった。

「織媛……、その格好は……?」喉元に詰まった声をやっとのことで外へと吐き出す。

「ど、どうかな……? これ、一昨日買ったヤツ……」そう言って彼女は自らが纏うデニムのホットパンツに目をやる。

 僕は返答をすることなく、引き続き彼女の全身を機械の点検でもするかのように丁寧に見回す。彼女の太ももの肉を締め付けるホットパンツ。そこから伸びるスラリとした白い生足。下半身の先にはキラキラと光る白のスニーカーが装着され、上半身では白のブラウスがそれに負けじと穢れの無い輝きを放っていた。

 今日の彼女は…、とても夏らしかった。

「変……、かな?」

「変じゃない」間違った認識をさせないためにもその発言だけはしっかりと否定する。ぼんやりとした意識の中、強く否定する。

「いいわよねぇ~……。明晴こういうの好きでしょ?」

「そ、そんなことないよ! 何言ってるんだ母さん!」

「えぇっ⁉ もしかして嫌いなの⁉ なんで? 淫乱っぽいから⁉」

「違う織媛! 嫌いじゃない! むしろ好きな部類だ! そして変な言葉を口にするな! 意味わかって言ってんのか⁉」僕はただ、その姿を肯定することによって、女の下尻や太腿を見るのが大好きな変態野郎だというレッテルを幼馴染に張られたくないだけだ。

「明晴が嫌いなわけないじゃな~い。部屋にある本にもホットパンツのページ全部に折り目つけてたし、ねぇ~?」母さんが全てを見透かしたような憎たらしい目でこちらを見る。

「お母さん。僕の部屋に勝手に入らないでください」

「あらあら、母さんの楽しみを取らないの」僕は母さんに対して過剰なストレスを感じる。彼女に対してこんな気持ちは長らく経験していなかったように思えた。

「明晴ママに教えてもらったんだよ? 明晴がこういうの好きだって」織媛はデニムの生地を両手で左右に伸ばす。

「織媛ちゃんとはメル友だもんね~?」

 いつの間にそこまで仲良しになっていたのか。それについて彼女らを問い(ただ)したかったのは勿論だったが、なにより長時間母の前で織媛と話すことが僕にとっては堪らなく不快だった。

「そろそろ行くぞ織媛。じゃあ行って来るよ母さん」「ちょっ、明晴! うわぁ!」僕は茶色のスニーカーをそそくさと履き、強引に織媛の手を取り玄関のドアを開く。

「いってらっしゃ~い!」玄関にて母さんが大きく手を振る。先程の件もある。ウザったいからと彼女を無視して出て行っても僕の方に落ち目が生じることは無いだろう。しかし、それにしたって、やはり彼女を無視するなんてことはとても僕には出来なかった。

「い、いってきま~す!」体勢を崩しながら僕の台詞を織媛が先取りし、それに続けて僕は言う。「いってきます……」と。母は静かに笑っていた。彼女の笑顔を確認し、僕は家の扉を閉じる。


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