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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第三章 復讐のビート
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「つまらなそう」。彼女はそう言った。言葉の真意を口にすることは無かった。いや、それこそが真意なのかもしれないが、どちらにしろ僕にはよく分からなかった。つまらなそう。それを彼女が口にした時、僕に焦点が合っているように見えなかった。ぼんやりと、宙を眺めるようにしてそう言ったのだ。彼女は恐らく僕にそれを言ったわけでは無かったのだ。僕だけにそれを言ったわけでは無かったのだ。この時代の人間全体に向かって言ったのだろうな。

「ごちそうさま……」昼食の冷や麦を全て胃に入れ、僕はそう言う。

「どうしたの明晴。ボーっとしちゃって」母は食卓の向かいの席からそう疑問を投げかける。ごちそうさまとは言ったものの、僕は席から立ち上がることはしない。

「ボーっと……、してるかな……?」

「その返事が何よりボーっとしてるわよ……」母さんは呆れたような表情を浮かべていた。

「あ、母さん。僕今日昼から織媛と出掛けたいんだけど、いいかな?」

「あら、織媛ちゃんと? 全然いいわよ、頑張ってね!」母さんはそう言う。彼女はいつもそうやって僕を肯定するのだ。そしてその度、僕は自分の小ささがとても嫌になる。

「手伝い、出来なくてごめん」僕は母さんの気持ちを探るようにそう言う。しかし返答は分かっている。探った先にはいつも何もありはしないのだ。

「え? いいのいいのそんなこと。それより頑張りなさいよ!」母さんの中はいつも深淵で、僕の心を静かな闇の中に沈めていく。母さんは僕のことをどう思っているのだろうか。僕をどう感じ、何者だと思って生きているのだろうか。そしてそれらの探索はいつも、他でもない彼女によって打ち切られるのだ。いつも、いつも。

「……明晴? 母さんの顔になんかついてる?」

「え?」体がじんわりと暖かくなる。

「……大丈夫?」母さんは僕の顔を覗き込み、僕の中に何かを探る。

「あぁ、大丈夫だよ母さん」僕は力を込め、それだけをはっきりと言う。

「母さんの事なら心配しなくていいんだよ?」

「え……?」意識が体に定着される。現実の匂いが咄嗟に鼻を突く。

「明晴は明晴の好きなことをしなさいよ。それが私の幸せなんだから」母の言葉。僕には理解できない言葉。

「母さん……」

「ん?」

 選び、繕おうとしたが、そんなことが通用しない言葉だということに僕は気付き、口を開き、喉を鳴らす。

「母さんは、僕がつまらなそうに見える……?」言ってから少し後悔した。やはりこれは聞く必要のないことだった。少し驚いた様子だったが、やがて母は答えるのだろう。既に言霊を纏ってしまった僕の音は容赦なく母へと飛んでいく。

「……うん」母は誤魔化すように笑いながら続ける。「ちょっと、ね」と。


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