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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第三章 復讐のビート
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「そんでハセガワ、結界の話だったよね」

「その通り、人間によって張られた五重結界の話だ。五つ全てがマサカドの住処を包むように張られている」

「僕がご飯を食べに行く前、ペペさんはそれについて『ドギツい』って言ってましたよね」

「うん、ドギツいよ。結界の役割っていうのは、対象をその場に封じ込めるといったものじゃない。正確に言えば、対象と世界との間に壁を造るというものなんだ」

「……つまり、どうマズいんです?」

「こちらからもコンタクトが取れないのだ。結界を崩さなければな」

「この時代からしたら結界のみで十分霊的に安定しているから、勿論明晴は気にする必要はないよ!」ペペさんは右手でピースマークを作る。

「でもマサカドを成仏させなければ、そちらの時代の世界は崩れるんでしょう? なら結界を一度壊して昇華させるべきでは?」

「う~ん……、どうしようかなぁ……」

「明晴。結界のサイズは、恐らくお前の想像しているものに比べ圧倒的に大きい。崩したりすれば摩擦もまた大きいぞ」

「え、御札とかそういったものじゃないんですか?」

「残念だけど、そんなちゃっちいもんじゃないよ。若干手荒な真似をしなくちゃならなくなるサイズさ」

「被害が出るということですか?」

「そうだね。だから私もハセガワも頭を抱えてる」

「…………」

「ペペのプランの方が良いかもしれないな」少し間を置いた後、ハセガワさんは吹っ切れたかのようにそう言う。

「『全国幽霊ボコボコ作戦』ですか?」

「『全国のゴースト滅多打ち。異常感じてこっちこいこい作戦』だね!」

「明晴の命名の方が語感が良いな。これから私はそちらで呼ぼう」

「え~⁉」

「でも、それはそれで摩擦が大きいんじゃ……?」

「どちらにしろ摩擦は大きいさ。しかし何もしない時間を作ってしまうというのも勿体ない。マサカドについて何もわからない以上、もう一つの、私たちにしかできないことをしよう」

「なんですか? それ」

「迷える魂の救済、とでも言おうか」

「雑魚ゴーストをボッコボコってことだね⁉」

「でも、それじゃあ暗黒エネルギーの急増に繋がりますよ?」

「急増? 馬鹿言え、その判定が世界から下るほど、短時間に、尚且つ大量のゴーストを昇華させる技術など、今の私たちは持ち合わせてはいないさ」

「え、そうなんですか? 刈れるだけ刈っていいと?」

「明晴嬉しそうだねっ」ペペさんの言っていることを僕は一瞬理解することが出来なかった。

「嬉しそう? 何言ってるんですか?」が、ペペさんがその感想を口にすること自体には何も間違いなど無かった。

 筋肉の様子で分かる。僕の口角が明らかに上がっている。

「あれ……?」

「気にするな明晴。それが人間の普通だ」ハセガワさんは淡々とした口調でそう語る。

「そいじゃ、近いうちはボランティアってことだね」

「近いうちってことは、結局、将門討伐は長期戦になりそうなんですね」ゆくゆくは、家族に打ち明けることになってしまうのだろうか……。

「時間旅行のリミットは、こちらの日付で一ヵ月いっぱいとあらかじめ決めてはいるが……」

「ひと月ですか……。間に合いますかね……?」

「何とも言えんな、このままでは」

「ま、とりあえずできることだけするよ。使わない時間は有効活用するのが一番だよね!」

「作戦会議とか言っておいて、将門の件については何も決まりませんでしたね」

「仕方がないさ。とりあえずは前に進むしかあるまい」

「じゃあこの話はおしまい! ここからは今日の予定について会議しよう!」

「予定? 昨日のように明晴に付いて回ればいいだろう。そうすればノーリスクでゴーストと遭遇できる」

「あーもう! 折角過去に来たんだから観光しようよハセガワ! 綺麗な地球をこの目に焼き付けられるのは今だけなんだよ⁉」

「遊びに来たわけじゃないんだぞペペ。私とお前の双肩には人類の未来がかかっている。そのことを忘れるな」ハセガワさんはペペさんの提案を一蹴する。

「でも~……」

「やはり一番妥当な行動案は明晴と同行することだ。お願いできるか?」そう言って、ハセガワさんは僕を凝視する。

「そ、そうですよね。やっぱりそれが一番安全ですよ」

「む~……」

「そういえば明晴。先程、今日は学校ではないと言っていたが、具体的には何処に行くのだ?」

「えっと、電車を使って、友人と二つ三つ隣の町の動物園まで……」

「動物園⁉ ハセガワみたいのが大量に保存されてるところだね⁉ 行きたい行きたい! やっぱ付いてくよ明晴! それが一番安全だもんね!」

「まったく現金な奴よ。それでは明晴、本日もよろしく頼む」

「りょ、了解です」

 そう言葉を漏らした直後、先程から気になっていたことを僕は口に出す。

「ハセガワさん、あの、道端でゴーストを発見したら、昇華はしますか?」僕は、ただそれだけが気になっていた。織媛の前での妙な行動は、できる限り控えておきたい。

「怨念が入っていないゴーストだけ、お願いできるだろうか」ハセガワさんはそう言った。

「ビンタで何とかなる程度のゴーストですか?」

「その通り。勿論、無理強いはしない」

 一瞬僕は考え、そして答える。

「織媛に悟られない程度なら……」

「十分だ。ありがとう」

「で、何時からなの? 動物園」

「お互い昼食を摂った後連絡する予定ですから、一時くらいですね」

「ふ~ん。昼食までにはまだ時間があるね。よ~し! スポーツだ!」

「え、スポーツですか? 僕、ご飯食べた直後ですよ? 余所行き用の服に着替えちゃいましたから、汗もかきたくないですし……」

「安心しろ明晴。人口とはいえ霊域。ナチュラルのものと違い全てとまではいかないが、肉体への負担のほとんどを精神が担ってくれる。しかも楽しいことをするのだから、精神的ダメージもほとんど表面化しないだろう」

「そういうことだから! えいっ!」ペペさんは僕に許可を得ることなく革椅子からすっくと立ち上がり、右腕をおもむろに前に出したのち、それを勢いよく空中で右方向に振るう。すると、会議室の椅子から机から壁までがガタガタと震えだし、間も無く竜巻にでも攫われたかのように遥か上空へと舞い上がり始めたのだ。それらは重力の影響を受けることなく上へ上へと移動を続け、遂には見えなくなってしまった。僕は腰掛を失い尻餅をついた状態でその光景に圧倒されていた。

「なにしてるんです……?」周りの様子が落ち着いたのを見計らいペペさんにそう問いかけるが、ペペさんは返答をすることなく、先程とは逆の方向に右腕をスライドさせるだけだった。

 第二の異変は空のほうから訪れた。大量の緑色と微量の白が混じったニ種類の微粒子が突然青空の中に出現し、ゆらゆらと浮遊を始めたのだ。「ペペ……さん?」僕の二度目の問いかけにもペペさんは答えることはなく、その細い右腕を微粒子同様ゆらゆらと揺らすばかりだった。僕はしばらくペペさんと微粒子を交互に確認していたが、しばらく時間を置いた後、ペペさんの右腕は突然勢いよく下方に振り下ろされ、彼女の挙動に呼応するかの如く、空中の微粒子たちは一斉にこちらに向かって急接近を始めた。

「うわああああああああああ!」

 虫の大群が急接近するような不気味さと恐怖に、僕は思わず自らの顔を両腕で覆い隠す。が、それらが接触したような感触を僕が受け取ることは全くなかった。ただ風が吹き抜けた、という感じだった。

 風の通過を感じ取り、僕は両腕をゆっくりと開き、片目で恐る恐る霊域の様子を確認する。

「ペペさん……、これって……」気付けば声は漏れていた。

「じゃっじゃ~ん! テニスコートだよっ!」見ると、霊域の地面にはテニスコートが完成していた。なるほど、芝生の緑とラインの白だったわけか。

「粒子が地面を塗り潰したのか……」

「あまり明晴を驚かせるなペペ。それにネットもラケットもボールも出し忘れているぞ」

「任せて! せいやっ!」ペペさんが右腕を上方に天高く突き上げると、ネットは空中より舞い降りたのちに所定の位置に付き、ラケットとボールは、僕がネットの挙動に注意を向けていた隙にペペさんの手中に現れていた。

「レトロなスポーツはいいねぇ……。さ、始めよ明晴」そう言ってペペさんは一方のラケットを僕の方へと差し出す。

「まぁ、あくまで疲れない程度に」僕はラケットを受け取る。

「二人ともスポーツマンシップに則って楽しむように。私はフィールドの隅にて十二時までゆっくりさせてもらおう」ハセガワさんはパタパタと翼をはためかせ、テニスコートの外、白の空間の中を遠くへ遠くへと移動していった。ハセガワさんの姿は次第に小さくなっていく。元々小柄な彼である。満足に視認できなくなるまでにはあまり時間は掛からなかった。

「そいじゃ、こっちからサーブいかせてもらいま~す!」ペペさんの声は随分遠くから聞こえたような気がした。ハセガワさんの姿を目で追っていた僕は、ペペさんの声のする方に振り向く。すると彼女はこの一瞬の間に向こう側のベースラインまで移動を完了していた。

「素人なのでお手柔らかにお願いしますよ~!」僕はペペさんの耳に届くように大声でそう言う。

「私も初めてだよ~! こちらこそお手柔らかにね~!」ペペさんは両手にラケットとボールをそれぞれ持った格好で、大声でそう返した。

 それからその日の十二時まで、僕とペペさんはビート全開、フォーム無視、ルール無用の超次元テニスを心ゆくまで楽しむこととなるのだった。


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