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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第三章 復讐のビート
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 朝飯を済ませ再び部屋に戻ってくると、案の定彼らの姿は無く、そこはとても静かだった。

 休日の午前中は、いつも母さんの家事を適当に手伝いながらテレビの情報を受け取る時間に充てている。その為、僕が朝飯を済ませた直後、部屋に戻ろうとしたとき、母さんは少し戸惑った表情を浮かべていた。戸惑った表情と同時に、寂しい表情を浮かべていた。咄嗟に、「午後になったらいつも僕がしている分の手伝いはするから」とは言ったものの、結局午後も織媛と出掛けてしまうので、家に僕は居ない。皮肉にも天気がいい。美雪は今頃天文小でクラブ活動に躍起になっているのだろう。クラブ活動が終わったとしても、ひょっとしたら、いや、かなりの確率で彼女は夕方まで友達と遊んでくるのだろう。それがいつもの彼女だ。

 昼から家は母さん一人か……。

 いやいや、いつもは友達からの誘いも、日曜日だけは母さんに寂しい思いをさせないために断っているのだ。

 今日くらいいいだろう。今日くらい。

 決意を固め、僕はミクロゲルを二つ手に取る。左右の位置関係上、ペペさんが入っている方は大体目途は付いてはいるが、まぁ、折角名前を書いてくれたのだ。それを無下にすることもあるまい。

「わかりやすい……」

 二つのミクロゲルには、それぞれ二面に渡りマジックか何かで名前が刻み込まれていた。ふにゃふにゃのカタカナ文字で「ペペ」、「ハセガワ」である。

 ハセガワと書かれたミクロゲルを窓の縁に戻し、もう片方の表面を、中指の第二関節でこんこんと優しく叩く。

「お? 明晴? ご飯終わった?」小さな立方体から彼女の声が響く。

「はい。どう入ればいいんです?」

「目を瞑って心臓に箱を叩き付けて。ビーヅの時と同じようにね。そしたら私とハセガワのイメージで引き寄せるから」

「了解です」瞼を閉じ、子馴れた手つきでミクロゲルを左胸にとんと叩き付ける。すると僕の意識が瞼の裏からどんどん上方向へと移動を始め、彼らのイメージが僕の脳内へと流れ込む。脳内で混沌とした何かがぐるぐると踊り出す。

 こんなものを僕は知らない。そうか、これは彼らの時代に生きる生物が持つイメージ。理解しようとしても無駄なのか。まずもって知識が無いのだから。

「よ~し、成功。明晴、目、開けて良いよ!」

「…………」驚きは無かった。目の前の景色は、昨日体験した真っ白の空間と、とても似通っているように見えたから。

「似てる……」しかし心地いい。瘴気が無いからだろうか、昨日のそれとは全く違い、どこか凛としていて、光を感じさせる白である。

「へへっ、似てるでしょ。これは人工の疑似霊域だからね」

「人工……? 未来の人間はこんなものまで造れるんですか?」

「まだ不完全だがな」

「そ、不完全。ナチュラルな霊域と違って、こちらでは時間が流れるんだ」

「え、昨日入ったあそこでは、時間の流れが無かったんですか?」

「うん。明晴は疲れてて時計見る暇無かったかもしれないけど、間違いなく時間の経過は無かったよ」

「どうしてそんなことが起こるんです?」

「意識が空間の要素を独占するためだとか言われているけど、実際のところどうなんだろうね」

「無駄話はそれくらいにして、計画を立てるぞ。今日は明晴も時間が無いようだし」ハセガワさんはそう言って、ペペさんの頭上で大きく翼を広げる。すると空間は歪み、真っ白な空間から茶色がかった壁が四面現れ、僕らの四方を包み込んだのち、天井もまたそれらに追従する形で現出する。地上からは無駄に太く長い机が一台登場し、その周りに立派な皮椅子が十脚ほど空中に現れ、音を立てて地面に落下する。

「会議室の完成だ。さぁ、話し合いを始めよう」

「うえぇ……、白の空間で良かったのに。形式ばらせないでよ。気持ち悪いなぁ……」

「儀式を毛嫌いするな。これらは立派な人類の歴史だ。広く造ってやったのだから我慢しろ」

「じゃあせめて青空を……!」ペペさんは右手を天井へ、左手を壁へ向かって勢い良く伸ばす。すると、天井はひび割れ、色を失い、そこには青空が広がった。壁には正方形の穴が突如ボコボコと幾つか現れ、その穴を塞ぐように窓が無から完成される。そしてその窓は完成した直後にその封印を解き放ち、外の青空から優しい風を流し込んでいった。

「ふむ、これはこれで悪くないか」

「無茶苦茶ですね……」

「でもこれも歴史であり、進化だよ!」ペペさんは万歳をして、満面の笑みを浮かべながらそう言う。

「さぁ座れ」「うわぁ……!」「ひゃっほ~!」

 ハセガワさんが片翼を大きくはためかせると、体が途端に軽くなり、宙に浮く。体の進行方向は空中で急激な変化を連続し、一つの革椅子の上空でその動きを止め、落下する。正面の席にはペペさん、そしてペペさんの上にはハセガワさんという配置である。使わない席が机の前にたくさん陣取ってはいるが、まぁ、開放感を出すためだろう。

 ハセガワさんは両翼を大きく広げ、それをそよ風になびかせる。

「では、タイラノマサカド討伐作戦についての会議を始めるぞ」

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