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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第三章 復讐のビート
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 七月五日 午前九時。僕は再び目を覚ます。カーテンの間から漏れ出す日の光を、寝起きの細い目で確認する。

 外は晴れているだろうか、太陽は雲に隠れてはいないだろうか、そんなことをぼんやりと考える。

 しかしいい朝である。目覚まし時計で起きるのとはまるで訳が違う。体が十分だと思ったタイミングで自動的に目を覚ますのだ。こんなに快適なことは無い。

 何事も自然に、流れるままにが一番なのだ。

 さて、ゆっくりと支度をしよう。時間はまだまだたっぷりある。

 体の調子もいい。今日はすぐにでもシャワーを浴びてしまおうか。


 ―――

 

「はろー明晴!」

 シャワーを済ませ、余所行き用の服装に着替えて部屋に入ると、彼女が突然無の中から像を結んだ。

「あ、ペペさん。おはようございます」

「うん! おはようおはよう! 今日はいい天気だよ~!」ペペさんが僕に背中を向け、カーテンを両手で思いっきり開くと、屋外から日の光が差し込み、部屋を隅々まで照らしていく。

「今日も学校? 私も付いて行くよ~!」

「今日は違いますよ?」

「んん? じゃあなんで衣服を変えてるの?」

「いや、休日でも普通に変えますけど。今日は友人とお出掛けです」

「おぉ! お出掛け! 青空の下長時間だね! 私も行く!」ペペさんは青空を仰ぐように両手をいっぱいに広げて喜びを表現する。

「どうしましょう。またバッジの状態で付いてきますか?」内緒で知らない人を連れていくのは織媛に失礼だろうか。

「バッジかぁ……。また魂から見るのぉ?」

「嫌なんですか?」

「嫌じゃないけどさぁ……」ペペさんが言葉を選ぶ。「魂から観測しちゃうと、どうしても俯瞰的になっちゃうんだよね」

「……何か不都合なんですか?」

「私は世界と関わっていたいの! 私の中から綺麗なものを見たいんだよ! 眼球に映したいのさ! 眼球に!」彼女はそう言いながら僕に近づき、自分の空色の眼球を至近距離で指し示す。

「な、なら、ハセガワさんとデートするとかどうです……?」

「おぉ! 悪くないかも!」

「この時代の人とでも、日常会話くらいなら影響も出ないでしょう?」

「あぁ、影響の事も考えて動かなきゃいけないんだった……。まぁ、大丈夫だと思うけど。その程度なら関わった事にならないだろうし。はぁ、窮屈だなぁ……。頭なんて、できることなら使いたくないよ」ペペさんはそうぼやくと、僕のベッドに向かってうつ伏せの格好でダイブする。

「この時代からしたら規格外の事をしているわけですし、それくらいは責任として当然でしょう?」

 適当なことを言いながら、勉強机の椅子に座り、ドライヤーで髪を本格的に乾かし始める。

「ちぇ~、レトロなドライヤー使っちゃってさ~」

「そりゃあ、ペペさんから見たら何もかもレトロでしょうよ」

「そうだよ! だからこそ色々見て回りたいんだよ! 昨日だってワームホールで駆け付けたから、あんまりこの時代の校舎も見れなかったしさぁ……」

「そんなに急ぐことなんですか? ひょっとして、将門討伐近いです?」

「それがねぇ……、さっぱり目途が立ってないんだよねぇ……」

「……討伐が近すぎても熟練度的に焦りますけど、遠すぎてもそれはそれで困りますよ。一応家族にも隠してるわけですし」

「いやぁ、それがびっくりなんだよ。マサカドの奴、どこにいるか判らないんだ」

「よくそこまでノープランで時間旅行しましたね……」

「ちょっ! 馬鹿にしないでよ! アイツが住み着いてる場所ぐらい目途は立ってたさ! 人間はどんどん合理的に進化してるよ!」

「住処が分かっているのに、どこにいるのか判らないんですか?」

「そうなんだよね。奴は絶対にトウキョウにいる筈なんだよ。なのに、トウキョウ方面から全く奴の反応がない」ペペさんの目つきが真剣なものになる。

「いない、ということですか?」

「いない、というより感じないという方が近いよ。あれほどのゴーストキングがそう簡単に存在を消せるとはとても思えない。瘴気が何かに遮断されてるだけ。彼とは別の、何らかの力が働いてる」

「トウキョウにいることは間違いないんですか?」

「アイツは死んでから住処を変えたことは無いよ。変える必要が無いからね」

「退治は出来そうなんですか?」

「ど~なんだろ。ハセガワが今熱心に調査中」

「ペペさんは手伝わないんですか?」

「ハセガワが私のマサカド討伐作戦を真っ向から却下しやがったからいじけ中~」

「へぇ~、どんなんですか? 聞かせてくださいよ」ペペさんの話をしっかりと聞きたくなったので、髪の乾き具合を確認し、ドライヤーの電源を切る。

「ん~、いやいや、こっちからコンタクト出来ないんなら、あっちから来てもらおうかな~って。名づけて! 『全国のゴースト滅多打ち。異常感じてこっちこいこい作戦』!」

「まぁ……、つまりそういうことですね?」バラエティ企画のようなネーミングセンスについては、掘り下げたくないのでスルーしよう。

「そういうこと。黄泉返りには人間やゴーストから発生される膨大な意識が必要だから、ゴーストを昇華させられちゃうとマサカドは困っちゃうわけ!」

「将門の作戦を妨害することによって、構ってもらおうという訳ですか。ゴースト関連は詳しくないですし、作戦の一つとしては全然ありだと思いますが。何が駄目なんです?」

「ゴーストの昇華による一部地域の暗黒エネルギー急増の危険性と、費用対効果の悪さ。その二つが引っかかってるみたい。簡単に言えば、ゴーストとの均衡とコスパだよ。あ、暗黒エネルギーっていうのは完全な四次元存在、成仏した人間が発生させるエネルギーだよ」

「ゴーストを昇華させ過ぎても問題があるんですか……。でも、ゴーストとの均衡は刈る量を調整すればいいですし、コスパだって昨日みたいにワームホールでの移動ならタダなんじゃないんですか?」

「ワームホールの使用にはその地域の暗黒エネルギーを消費するんだ。科学の過剰成長による世界の抜け道だよ。一つの地域で暗黒エネルギーの大量消費もとい大量生産が行われると、少なからず世界は揺れる。悪いことが起こるってことね」

「移動しただけ分だけ刈るっていうのは……?」

「エネルギーの総量だけ調整したって意味ないよ。問題は一部地域での急激な数量変化そのものだから」

「そうですか……」

「移動無しに、マサカドが恐れるレベルまで、世界全体のゴーストを同時に減らす方法があればいいんだけど。ま、そんなのあるわけないし」

「昇華しても、ゴーストのままでも、世界には少なからず影響するんですね……。それで、ハセガワさんの作戦は……?」

「分析が終わった。面倒なことになったぞペペ」ベッドでうつ伏せになったペペさんの頭の上にハセガワさんが現出する。

「おやまぁハセガワ。どうしたの?」

「マサカドとコンタクトが取れない理由が分かった。どうやら結界が張られているようだ」

「あれま、マサカドの野郎が張ったの?」

「そっちの方がまだ良かったのだが……。人間が張ったものだよ」

「ありゃあ、そうかぁ……、ドギツいなぁ」

「まずいんですか?」

「おや、おはよう明晴。学校か? また私を連れて行け」

「違いますし、連れて行きもしませんから……」

「明晴~! 朝ごはん食べないの~⁉」母さんの声が、部屋の外から僕たちの話を遮る。

「いま食べるよ母さん!」母さんに聞こえる程度の大きな声を、部屋のドアに向かって浴びせる。

「明晴は朝ごはんの時間か。よしハセガワ! 私達もご飯しながら作戦を練り直そう!」ベッドに寝転がったままペペさんは手をポンと打つ。

「そうするか。場所はお前の寝床でいいな?」

「あの……、僕もその話聞きたいんですけど」純粋に興味が湧いてきた。

「そうだな。情報を開示しないままに手伝えと言っても、信頼関係の方が出来上がらないか。いいだろう、準備が出来たらペペのミクロゲルをノックしてくれ。すぐに中に入れよう」

「わかりました……!」

「そうだ! 目で見てすぐわかるように、それぞれのミクロゲルに名前を書いとくね!」

「ありがとうございます! じゃあ、母さんが心配するんで、ご飯行って来ますね」

「おっけぇ~、ばぁ~い」一人と一匹は僕に手を振った格好のまま、その姿を空間に溶かしていった。


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