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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第二章 ファンクの鼓動
14/62

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 ――しかし快適だ。まさかとは思ったが、ノイズがゼロじゃないか。ずっとお前のバッジでいるのも悪くないかもしれんな――

 タチの悪い冗談だ。

「どうだ? 昨日は良い服見つかったか?」

 僕は自転車を押しながら織媛にそう話しかける。

 天文中学校に向かう際に必ず通らなくてはならない長い上り坂。そこを二人で自転車を押して歩いている最中である。

 織媛の自転車を先に走らせ並走を避けていたところ、坂に差し掛かった途端に織媛が自転車から降りたため、こういう構図になっている。

 わざわざ歩く程急な坂でもないと思うが……。

「う、うん! なかなか可愛いの見つかった! きっとびっくりしちゃうよ?」

「そうか。楽しみだな」なんだろう。今朝の織媛はどこか気分が落ち込んでいるように見える。口数が少ないのもそうだが、なんというか、ずうっとぼんやりしているようなのだ。話しかけてもおどおどしているし……。

 ひょっとして……、女の子の日ってやつか……?

「織媛」「うん?」言葉を選ぶ。心配してやりたい、というか、織媛の甘えられる場所を作ってあげたいのだが……。こういう場合、女の子はどんな言葉を望むんだ? あれ? もしかして、何も言わないで知らないふりをしてあげていた方が良かったんじゃないか? 何に対してもイライラしてしまう期間だと聞くし……。

「……明晴?」

 当たり障りの無い言葉で乗り切ろう。どうせ女の子の気持ちなんて解らないんだ。自分が万能だとも思っちゃいない。

 餅は餅屋、だ。

「体調悪かったら、無理しないで保健室いくんだぞ?」

「…………」

「あれ?」これでも駄目か⁉ やっぱり話し掛けない方が良かったのか? 心配した時点で終わっていたのか……。難しいよ……。

「ご、ごめん織媛!」

「え⁉ 何が⁉」

「いや……、その……、なんていうか……。お前のことよく知らないのに、知った風な口を利いてごめん!」な、なんだこの返答は! 言いたいこととの差異が大き過ぎて意味が解らないじゃないか……。NGワードが邪魔過ぎる……。

「ちょっ、通学路でいきなり大声で謝らないでよ! 恥ずかしいな。何? 何の話?」織媛が頬をほんのり染め上げながら、小声でそう言葉を返す。

「別に体調は悪くないよ? 生理って訳でもないし……」NGワードをさらりと言ってのける織媛。

 僕の熟孝は一体何の為のものだったのだろう……。

「なら、なんで今朝はそんなに沈んでいるんだ?」

 織媛は一瞬驚いた表情を浮かべると、静かに笑いながら応える。

「ありゃりゃ、解っちゃうんだね」

「解るよ。何年一緒だと思ってんだ」

「さっきよく知らないって言ったじゃん」

「さっきのは違うよ。なんていうか、女子としてのお前を知らないというか……」あぁ……、またよく解らない感じに……。

「ええ? どういうこと?」

「いや、だから……」なんて言えばいいんだよ……。もう生理がどうとか言ってもいいのか?

「いや……」先に声を発したのは織媛だった。

「いいよ、ありがとう。心配してくれたんだよね。実はちょっと昨日から気になることがあってさ。それで気分が乗ってないように見えてるのかも……」

「気になること? 言ってみろよ。力になるぜ?」

「だめだよ」

 言葉が咄嗟に出ることは無かった。ここまではっきりとした拒絶を織媛からされたのは初めてだったためである。

「だめ。これは私の問題だもん」

 織媛の瞳が僕から離れ、しっかりと前を見据える。不思議と不安や寂しさといった感情は芽生えることは無かった。

 僕の目には、彼女がぶれている様には見えなかったから。

「そうか。無粋だとは分かっていてそれでもあえて言うけれど、辛かったら僕を頼ってもいいんだからな」

「うん、ありがとう……」織媛は笑顔を浮かべる。いつもの笑顔だ。安心する。心が芯から暖まっていく。

「へへっ、なんか恥ずかしくなっちゃった。先に行ってるね」

「お、おう」

 自転車に跨り、立ち漕ぎのまま、他の生徒達の波へと入っていく織媛。懸命に自転車を漕ぐ後ろ姿がどんどん小さくなっていく。

 ――青春だな――

「そうですか?」


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