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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第二章 ファンクの鼓動
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 朝飯を済ませ、シャワーを浴びた後に部屋に戻る。昨日の一件にて砂埃で汚れてしまった物とは別の、新しいワイシャツに袖を通す。汚してしまった方は謝罪も添えて、後で母さんに渡しておこう。

 母のノロケ話を聞く羽目になるとは夢にも思わなかったが、まぁ、それ以外はいつもと変わりのない朝だ。

 なんだかんだ、ルーティンを安心して繰り返せるって幸せだよな。

「おはよう明晴少年。今朝もファンキーだな」

 ルーティンの外側を往く鳥が、僕の頭上から朝のあいさつをする。

 セットしたばかりだから、あまり髪に乗って欲しくはないのだが……。

「おはようございますハセガワさん。睡眠はもう十分なんですか?」

「あぁ、十分だ」頭上からばさぁっと羽の開く音が聞こえる。睡眠が十分だということを証明したのだろうが、残念ながら人間の視野はそこまで広くはないし、たとえ見えていたとしてもナリがナリな為、あまり雄々しいといった印象は受けなかっただろうが。

「フクロウって夜行性じゃないんですか?」

「だから昨日も言っただろう。フクロウでは無く、アナホリフクロウであると。私たちは昼行性だ」

「そうなんですか?」

「そうだ。あぁ、それと……」

 ハセガワさんは話を途中で中断し、僕の肩へと着陸する。

「その喋り方はやめろ」首をこちらに九十度回し、ハセガワさんは言う。

「え、なんか変でした?」

「間違いではないがむず痒いのだ。その敬語」ハセガワさんが目を細める。

「未来の人間は敬語など使わん。それにこの時代でもニッポンとカンコクぐらいだぞ? そんな方言を使う国は。それに、私はともかくペペに敬語を使う必要は少なくとも無いだろう?」

「年上の人間には敬語を使っちゃうんですよ、日本で真っ当に生きていれば。癖みたいなもんですかね」

「知っている。だからおかしいと言っているんだ」

 ハセガワさんが頭をあらゆる角度に曲げていき、僕へと視線を戻す。

「アイツもお前と同じで、生後十三年目じゃないか」

「……は?」

 その時玄関のチャイムが鳴る。

「は~い!」チャイムに母さんが反応する。上の階でもはっきりと聞こえる程の大きな声だ。

「あら~、毎日ごめんなさいね~。明晴~! 織媛ちゃんよ~!」

「は~い!」僕は扉を開けて、大きな声で返答する。

「おや、学校か?」

「ええ、学校です」荷物を準備しながらハセガワさんの質問に答える。

「明晴。私も連れて行け」

「いや、ダメですよ。時間軸とかそれ以前の問題になります。動物を学校に連れていく奴なんてこの時代にはいませんよ」

「つまり問題は、認識か?」

「よくわからないですけど。まぁ、そうですよ」

「三次元存在から身を隠せれば、付いて行っても良いということだな?」そう言ってハセガワさんは、ポシェットからハート・ビーヅを取り出す。

「……何する気ですか?」

「姿を消すのだ。融通の利く道具だと言っただろう?」ハセガワさんは、ビーヅを持ったまま心臓をトンと叩く。

 ビーヅは昨晩の彼らと同じようにふっと空気に溶け、代わりに小さなバッジがハセガワさんの右翼に握られていた。

「……なんすかそれは」

「コイツはビーヅのフォールド形態。装着すれば、それに付着した三次元物質の体を四次元から折り畳み、その実態を小型化することができる。学校に持って行っても怪しまれないグッズは何かな?」

「……ついてくる気満々ってわけですか」

「そうなるな」ハセガワさんがバッジを体にぺたっと貼り付ける。羽毛にどうやってバッジが付くのかという疑問は、未来の技術だろう、と自己完結で終わらせることにした。いちいち訊くのも馬鹿らしくなってきたのだ。

「そうですね……。それこそ缶バッジとかなら、バッグにつけられるし、怪しまれることも無い、ですかね」ちょうど小学生の時に織媛から貰った缶バッジもバッグに付けているんだ。今更一つ増えたところで、珍しがられることも、冷やかされることも無いだろう。

「缶バッジか。デザインは適当にこちらでやるぞ」そう言うと、ハセガワさんは目をふっと閉じ、姿を消す。

「……あれ?」何も出てこない。

 ――右手だ―― ハセガワさんの声が聞こえる。

 指示に従って右手に注意を向けると、何やら手の中に違和感を覚える。どうやら何かを握っているようだ。

 右手を目の前に持って行き、中に入っているものを確認すると、案の定、缶バッジだった。

 どんなマジックだよ……。これ使えば金儲けだってできるんじゃ……。――未来の技術での金儲けは死刑だぞ――

「え、心読めるんすか?」

 ――脳波走査(スキャン)という技術だ。発声器官無しで会話しなければいけないからな。明晴も私に話したいことがあれば、頭の中で話しているふりをすればいい。こっちで勝手に読み取って答えてやる――

「ほんと、便利なんですね」適当な感想を述べながら、恐らくフクロウをモチーフとしたのであろう抽象画が描かれているそのバッジを、スクールバッグにつける。場所は、昔織媛から貰ったアメリカのアニメキャラが描かれているバッジのすぐ隣にした。

 そしてそのタイミングで一つの異変に気が付く。

「なんですか? この光?」

 直径五センチほどの光の球体が、僕の周辺を浮遊し出したのだ。

 ――そいつは私の魂だよ。私の本体。肉体をバッジのサイズまで圧縮してしまうと、魂が入るだけの容量が無くなってしまうのだ。何もしないし誰にも見えないよ。気にすることは無いさ――

「……わかりました」そう言って僕はバッジに注意を戻す。

 しかし、妙にバッジのデザインが良いな。

 かっこいい。良い趣味してるな。フクロウの癖に。

 ――聞こえてるぞ――

「……すいません」心が読まれるというのは随分厄介なものだな。いかん、これも聞こえるのか。


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