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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編ーいつか君のそばへー
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王子様は悶える

こんにちは。火曜ではないですが、せっかくの連休ですので書けた分を投稿しますね。楽しい連休をお楽しみください。

 リルティは、ジッとジュリアスが語る言葉を遮ることなく聞いていた。


 ライアンのところで大きくなったリルティを見た時、直ぐにずっと会いたかったリルティだと気付いたこと。ライアンにとられたくなくて、思わずキスしてしまったこと。

 それ以前に、アルハーツ国へ行くにあたって国内の誰にも連絡をとることを許されなくて、リルティに忘れられるんじゃないかと不安だったこともジュリアスは淡々と感情を込めないまま告げた。

 ギュッと握った手に力をこめると、ジュリアスは目尻を下げてリルティに微笑んだ。


「情けない男でごめん――」


 こんな立派でどこの誰と比較しても優れている男が情けないと言うのは、どんな気持ちなのだろうとリルティは思う。


「初めて好きになったんだ」


 幼いといってもいいくらいの女の子が、一生懸命もっと小さな子供達を励ましているのをみて、この子なら自分を見てくれるんじゃないかと思ったと言う。優しいだけじゃなく、意地悪をする男の子をしかり飛ばす姿も見ていて頼もしく思えた。話していると心が温かくなって、この子をお嫁さんにしたいと思ったんだと少し照れながらジュリアスは微笑む。


 離宮についていったのは、タイミングが悪かったとジュリアスは後悔を滲ませた。


 ジュリアスを王にと狙っている貴族がいることはわかっていたが、国王と宰相が健在な間は行動を起こさないだろうと読んでいた。まだ時間はある。そしてその間に内定をすすめるつもりだった。マストウェル侯爵のことを国王達が掴まなければ、ミッテンがジュリアスから離れた事でセドリックが迷いを捨てなければ――。


「いや、あのタイミングでなかったら、リルを奪われていたかもしれない」


 ジュリアスを取り込みたいマストウェル侯爵か、嫉妬したセドリックにかはわからないが、想像は難くない。


「国内の反乱勢力をつぶしたことで、もうリルが狙われることはないと思っていた。リルが記憶を失ったあの時、俺は傷つきながらも何とか生きていてくれたリルを絶対に離さないと決めた。誰に罵られても、誰に反対されても、リルを失っては生きていけないとわかったから――。リルが俺の事をわからないことをいいことに、国王に承認をもらい、リルのご両親に会いに行ったんだ。テオの後押しもあって、ご両親は許してくれたよ」


 リルティは、ジュリアスの気持ちを聞いて、悲しくなった。ジュリアスの想いがリルティが思っていた何倍も深いことは理解できたが、それだけに切なくなった。

 リルティの気持ちはジュリアスにあったのに、何故待ってくれなかったのだろう。

 

 歩みが自然と止まってしまった。振り返ったジュリアスの瞳が疲れたかと聞いてくるので、リルティは首を横に振った。


「リル、俺はわかっている――。俺がしたことは最低のことだ。例え国王の命令だったとしても、リルの命を守るためだったとしても、許されないことだとわかっている。リリアナの前で、君を傷つけた。リルが傷ついて、リリアナの自尊心を満足させるために見世物のように君をいたぶった。例え、俺が事件が終わったからとリルに愛を囁いたとしても、許してくれないとわかっていた――。だから・・・・・・これ幸いと、リルの気持ちを無視して、俺は君を逃げられないように婚約者にしたんだ――」


 リルティの記憶が戻ってしまっても逃げられないように婚約者という名の枷を嵌めて囲い込んだのだと自虐的にジュリアスは告げた。


 やっとリルティは、ジュリアスの行動が腑に落ちた。


 最初からやり直すのではなく、出来上がったところから始めたのは、ジュリアスの自信のなさからだったのだ

。ジュリアスはリルティが許さないと信じているのだ。


「リル!」


 ジュリアスは慌てたように声を上げた。


 精悍なジュリアスを抱きしめるのにリルティは精一杯手を伸ばした。抱きしめられたことはあっても自分から抱きしめたことはなかった。舞踏会用のドレスは人を抱きしめるのには不向きなようで、少しジュリアスが遠かった。


「ジュリアス様が、そんな風に思っているなんて――」


 自分がどんな気持ちでいても、ジュリアスは気にしないのだと思っていた。そもそもリルティの気持ちを考えているなんて思いもしなかった。


「リル、怒ってないの?」


 怒っていないとギュッと力を入れると、ジュリアスは上からリルティを抱きしめる。


「怒ってます・・・・・・」


 口からは反対の言葉が出たけれど、ジュリアスはわかってくれたようだった。


「リル・・・・・・」

「だから、変態だけど好きだって――言ってるのに・・・・・・」

「あんな世界の終わりみたいな顔で言われたら・・・・・・何があったのかと思うじゃないか。ちゃんとリルに求婚して、返事をもらったら――、もう何があってもリルを離さなくていいと思ったんだ。ずっと求婚の仕方だって、考えていた。リルが喜んでくれることはなんだろうって、それこそずっと――。不器用ななのは許して欲しい。リルしか欲しくなかったから、他のひとのように気の利いたセリフも甘い言葉も、リルを安心させる術も何もない」


 あれが恋愛経験のない人のすることだろうかと、リルティは疑問に思う。


 いきなりキスをするとか、目覚めたら寝台の上だったとか、キスだって上手だった。


「嘘、ジュリアス様は嘘ばっかり吐くから――」

「信じて欲しい――」


 覗き込んでくるジュリアスの瞳は真剣そのもので、リルティには嘘か本当かなんて見分けることは出来なかった。


「はい・・・・・・」


 けれど、結局ジュリアスのことを許してしまうのだ。傷ついても、悲しみにくれても、信じたいと願ってしまう。


「ありがとう。リル、返事は――」


 切羽詰まったという風情のジュリアスに、リルティは思わず笑ってしまった。


「もう一度言ってくれますか?」


 あまりに近い距離にリルティは、一歩ジュリアスから距離をとった。


「貴女に・・・・・・愛を、告げることを・・・・・・許して下さい――」


 ジュリアスは、跪いてリルティの手をとった。絵本の最初からと思ったのに、気持ちが溢れて震える唇から全てを紡ぐことは出来そうにないと最後の一文を口にした。


「許します――」


 ジュリアスはリルティの手の甲に口付けを落として、もう一度見上げた。


「リル、愛してる――」

「私も、愛してます」


 ジュリアスは、立ち上がるとリルティを抱き上げた。

 気持ちの高揚するままリルティを抱き上げて何度もクルクルと回ると、遠心力で体勢を崩して、庭の芝生の上に倒れ込んだ。


「きゃっ」


 二人で芝生の上に座って一頻ひとしきり笑うと、ジュリアスは途端に真面目な顔になってリルティを驚かせた。


「リル、目を閉じて――。恥ずかしいから」


 公衆の面前で長々と口付けをした人間とは思えない言葉がジュリアスの口から出る。けれど、恥ずかしいのはリルティも一緒だったから、そっと目を閉じた。

 唇に触れる温かい感触が、離れては近づいて、何度も啄む様に触れる。


 うっすらと目を開けると、嬉しそうな顔でリルティを見つめるジュリアスと目が合った。


「悪い子だな――、目を閉じていてって言ったのに」

「ジュリアス様」

「でもこれ以上リルティに触れていたら止まれそうにないから、良かったかもしれないな。リルティをこんなところで押し倒したとばれたら、グレイス達に殺されてしまいそうだ」


 押し倒されたわけではないが、お尻が汚れたかもしれないとリルティはジュリアスに手を引かれて立ち上がってドレスの後ろを払った。


「リル。俺のこと、許してくれてありがとう。それから、ジュリアスに様をつけるのはなしで――。ジュリアスと呼んでほしい。いや、いっそアスとでも――」


 ジュリアスは、感謝とともにリルティの頬に口付けてお願いをする。


 ジュリアスは、どうしてもリルティには特別扱いしてほしかった。記憶を失った時は、『ずっとそう呼んでいた』と口裏を合わせさせてリルティに名前だけを呼んでもらっていたが、それはとても幸せな響きだった。記憶が戻って一番辛かったのは、ジュリアスに『様』がついていたことだった。


「・・・・・・アス?」


 リルティの躊躇いがちな呼びかけは、ジュリアスを悶えさせるには最高の響きだった。


「いい――。それでお願いします」

「どうして敬語なの? ジュリアス様?」

「戻ってる――」


 ガックリと肩を落としたジュリアスに、リルティは訳も分からず動揺するのだった。

やったー! イチャイチャしてるよ、してるよね? 一度完結しようと思ってからが長かった。さて、何となくお気づきでしょう。そろそろ完結ですね。いつもそろそろ完結といってからが長いので、今回は出来るだけ言わないように頑張りました(頑張る場所が違いますか、そうですねw)。

やっと想いが通じて、私も嬉しいです♪

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