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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編―王宮にてこんばんわ―
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王女様は十歳です

読んでくださってありがとうございます。

 リルティとメリッサがフレイア王女の私室にいるセリア・マキシム夫人に話があると伝えると、ふとリルティの髪飾りを見たような気がした。


「ええ。そうね。もう少ししたらフレイア様を起こす時間ですから、姫のお勉強の時間に膝掛けを完成させながら、お話を聞きましょうか」


 セリア・マキシム夫人は、にっこり笑って、無茶をいう。


「完成ですか……?」


「国王様にお目にかかれる日にちが少し早まったと連絡が来ました。今日は、がんばりましょうね」


 母親のような歳なのに、セリア・マキシム夫人の笑顔はその歳を感じさせない。楚々としていながら、それだけでないことは二人もわかっている。


「はい――」


 勿論、二人は溜息を殺して笑顔で頷く。



 =====


 フレイア王女が自国の歴史について勉強している間に、二人はセリア・マキシム夫人に色々なことを隠しつつ、ジュリアスのことについて報告することにした。


「リルティが第二王子殿下の逢引の場に遭遇してしまって、昨日の王太子殿下の部屋でついつい変態呼ばわりしてしまったんです。まだリルティは子供ですから……」


 子供を襲っているように見えたというよりは良いだろうと思って、メリッサはそういった。変態の想像はセリア・マキシム夫人に任せることにした。

 子供といわれて憮然としそうになるが、そこは頷いておく。


「王太子様の前で、リルティは無理やりキスされてしまって……。恥ずかしくてリルティは逃げたんです。それでこけてしまって……」


「額と、足かしら?」


 歩き方が変だと思ったとセリア・マキシム夫人はリルティのほうをみる。


「はい。こんな額で恥ずかしいのですが……とるともっと恥ずかしくて」


「可哀想に――」


 その間も指は止めない。


「お付の方が謝ってくれたんですが。王子殿下は、リルティのことが気に入ったのか髪飾りを……」


 メリッサの瞳に怒りが浮かぶ。意外そうにセリア・マキシム夫人は、手を止めてメリッサを見た。

 気は強いけれど、こんな風に怒る子ではないのに、よほど腹に据えかねたのだろう。


「私達の食堂の人ごみのなかで、リルティの髪にさしたんです」


 それは、怒るわねとセリア・マキシム夫人は納得した。


 リルティは、意外なほど無表情だった。自分が面倒ごとに巻き込まれたことに気付いているのか気付いていないのか、ただ手を動かしていた。


「その薔薇の蕾の髪飾りは、殿下のいらっしゃってた隣の国で今一番の人気のアイテムよ。そうね、それほど高いものではないけれど、小さな宝石くらいの値段はするんじゃないかしら」


「リルティの唇の値段ってことですか……?」


「そうは言ってないわ。リルティの髪に良く似合っているし。でも殿下も面倒なことをしてくれたわね。侍女に手を出していると公言されたようなものだもの。リルティには、可哀想だけど、しばらくお家に帰ったほうがいいかもしれないわね」


「まさか、それが目的――」


 メリッサが目を見開く。


 リルティは、そんなことになるとは思っていなかったのだろう、止まった手が震えていた。


「別にリルティを責めてるわけではないのだから。そうね、お家に帰るともう王宮に戻ってきにくいでしょうから、明後日から離宮にバカンスにいかれる王太子様の侍女にまぎれれるように、手配してあげるわ。フレイア様は寂しがるでしょうけど、二週間のことだもの、噂の主がいなければ、火も燃え上がらないでしょ」


 セリア・マキシム夫人に相談してよかったと二人は頭を下げた。


「とりあえず、今日は二人とも徹夜でしあげるのよ。私もフレイア様についていないときは、がんばるから」


 三人は、思い思いの想いを込めて、必死に指を動かすのだった。


 =====


 フレイア王女が部屋にもどってくると、セリア・マキシム夫人はお茶を入れながら、勉強のことについて尋ねることにしている。どんな勉強をしたか、何を思ったか。


「リルティとメリッサは?」


 国の成り立ちについて勉強したことを話ながら、いつも側にいる二人がいないことをフレイアは不思議そうにセリア・マキシム夫人に聞く。


「編み物をがんばってくれてますよ」


「申し訳ないわね。わたくしが自分で編めればいいのだけど」


「王妃様も無茶をおっしゃるから」


 元々この膝掛けは、王妃であるエミリアがフレイアに「お父様に編んで差し上げなさい。誕生日プレゼントしたら喜ばれるわ」と言って押し付けてきた宿題だった。ところが、何事も器用にこなすフレイアが「絶対無理」と根を上げたのだった。

 目が揃わない。美しく仕上がらない練習をみて、早々にセリア・マキシム夫人が、二人に投げたのだった。


「お母様は自分もお出来にならないことをおっしゃるから」


 きっとお茶会かどこかで、娘の作ったという膝掛けをみたのだろう。


「明後日からの王太子様のバカンスにリルティを同行させることにしました」


「あら、お兄様、リルティのことを気にいってたと思ったけれど、ついに?」


 十歳とも思えない言動にセリア・マキシム夫人は、嗜める。


「ごめんなさい。でも、そうじゃなきゃどうして?」


 よく訪れる一番上の兄は、自分の騎士の姪であるリルティを何気にみていることがある。熱い情愛とかそんな生々しいものではなく、小さな可愛らしいものをみるような瞳だったから、意外に思えて聞いたのだ。


「リルティに手を出そうとする殿方が別にいるのですって」


「リルティ、顔は平凡なんだけど、雰囲気? が可愛いのよね。でも付き合っている彼とかいないっていってたからいいんじゃないの? 何? ろくでなしなの?」


 フレイアはそれは駄目よと、憤慨している。お茶を噴出しそうな勢いだった。


 本当に、話だけ聞いていたらリルティやメリッサと同じ年頃に聞こえるから不思議だと、お茶を頂きながら思うセリア・マキシム夫人であった。


 わたし、育て方、間違ったかしら――?


 そう思えて眉間に皺を寄せると、雰囲気に気付いたのかフレイアは大人しくなって、ケーキを切り分けるのだった。

やっと王女様登場。何気に女率の高いこのお話です。

早く色々進めたいです~。しばしお待ちください(笑)。

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