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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編ーいつか君のそばへー
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お姫様は王子様を想う

こんにちは。今日、投稿しようと決めていたのですが、間に合ってよかった。読んでくださってありがとうございます。

 リルティとゲルトルードは、アンナ達がもってきてくれた荷物を整理することにした。ドレスなどは掛けておかないと気になるのが侍女の性分というか習性のようなもので。


「リルのドレスってどれもジュリアス様が選んでいるって知ってます?」

「グレイス様とかアンナさんじゃないの?」

「ほら、また様とかさんとかついてますよ」

「トゥルーデも敬語になってるんだけど・・・・・・」


 リルティは、中々敬称をつけずに呼ぶことが出来なかった。元々呼んでいたと嘘を吐かれていたときならともかく。


「駄目ですよ、私は敬語を使っているほうが落ち着くんです。でもリルは慣れないと――」


 ゲルトルードのいうこともわかる。けれど、リルティはあの毅然としたグレイスを呼び捨てにする勇気が出なかった。

 


「そうですね、リルは誰かの上に立つとかいうタイプじゃないですからね。でも彼女達を困らせたくはないのでしょう?」

「もちろんよ。とてもお世話になったし、優しい人達よ」


 自分の尊敬している母親を褒められて、ゲルトルードも嬉しさを隠さなかった。


「ありがとう、リル、大好き――」


 ガン! と扉が開いて、両手が塞がったメリッサが「何してるの?」と怪訝な顔をするから、リルティは慌ててゲルトルードから離れた。


「リルが可愛いから抱き着いていたの」

「・・・・・・私が一人でおつまみを運んでいるというのに――」


 メリッサの強い瞳にゲルトルードは、慌ててメリッサの持ってきた料理を受け取った。


「美味しそう――」

「リルは飲まないからシチューとパンを持ってきたわ」

「ありがとう。よく持てたわね」


 何気に力自慢のメリッサは、あれこれとテーブルに運んだ。


「お酒はここにあるわ」


 アルコールに強すぎる二人は、ゲルトルードの持ってきていたワインを端から開けていくことにした。


「酔わないなら、お酒じゃなくてお水でもいいんじゃないかしら?」

「・・・・・・酔うために飲むんじゃないのよ。リル、美味しいから飲むのよ」

「口当たりもいいし、強いやつじゃないから、リルも飲んでみますか?」


 差し出されたグラスに揺れる心だったが、リルティは誓ったことを忘れていない。


「ううん、お酒はね。止めておくわ」


 リルティもお酒の味は嫌いではないから、出来れば飲むのは誰もいない本当に一人きりの時にこっそり飲もうと思っている。


「そう? じゃあ、ジュースでね」


 三人はグラスを掲げて、「リルの記憶が戻って帰って来たことに乾杯!」と持ち上げた。


 グラスの端を少しだけかすめて飲む味は、リンゴジュースだったがとても美味しかった。


 リルティは、メリッサの楽し気に笑う声に、やっと帰ってこれたのだと実感するのだった。




「リリアナの話よ。内密って何?」


 酔いはしなくても、口の滑りがよくなるのは、酒のお蔭だろう。


「絶対に言っちゃ駄目よ。宰相補佐様にもよ」


 メリッサの恋人である男にも内緒だというからには、本当に秘密なのだろう。


 ゴクリとメリッサは唾を飲み込んだ。


「・・・・・・わかったわ。リルとの友情にかけて、誰にも言わないと誓うわ」


 リルティとメリッサは目線を交えて頷いた。


「リリアナの祖父があやしいという話は出ていたの。元々ジュリアス様のお祖父様である宰相閣下と仲が悪いのと、王妃様を嫌っていらっしゃるというのは有名だったから」

「まって、どこまでさかのぼるの?」


 メリッサやリルティのように王室と関係が少ない末端の貴族にとっては、有名だという話ですら、噂話の領域だった。


「・・・・・・貴族が、ライアン様を次の国王にするのを・・・・・・」


 ゲルトルードは、そこで二人が何を言っているかわからないという困った状態に陥っていることの気がついた。


「・・・・・・えっと」

「何かの陰謀のようね」


 そうなんです、陰謀なんですよとゲルトルードは言いたかった。

 ゲルトルードは、ジュリアスのお蔭で陰謀の最中にいたから知っていることだった。

 今回の王宮を狙った国家を揺るがす騒動だって、リルティ達にしてみれば、何が起こったのかわからなかったと言っていい。

 リルティ達は、水面下はともかくとして、平和な時代に生きてきたのだった。


「ライアン様と敵対する勢力が、ジュリアス様を持ち上げようとしていたといえばわかりますか?」

「ジュリアス様は持ち上がらなそうよね」


 ジュリアスの強い意志は、他者の思惑で動くようなものではないとリルティは思った。


「ええ、でもライアン様がお亡くなりになれば、ジュリアス様が王位を継ぐことになるでしょう? それを狙っていたが、リリアナ様のお祖父さまであるマストウェル侯爵だったのです。その確証を得るために、ジュリアス様はリリアナ様と婚約して、懐に入るように陛下に指示されたの」

「離宮から王都に帰った時・・・・・・?」

「ええ。突然帰って来たジュリアス様が、陛下に呼ばれて行ったの。戻って来たジュリアス様は、部屋に籠るなり、家具を破壊していったわ。椅子を放り投げ、花瓶を叩き壊し、カーテンを引きちぎった――」

「ジュリアス様が――?」


 リルティは驚いた。


「あの冷たい氷の王子様が――?」


 メリッサの意外そうな声にゲルトルードは、真剣な話だというのに噴出した。


「それは作られた顔よ――」


 ジュリアスが優しく温和であると、ライアンを排斥しようとする貴族が扱いやすそうだと誤解するから、ジュリアスは昔から一線を引くように育てられてきた。


「作られたって――」

「本当のジュリアス様は、リルならわかっているでしょう?」


 リルティに対するジュリアスは、まるで子供のように意地悪をするかと思えば、情熱的にリルティを翻弄し、そうかと思えばリルティを大切で仕方ないのだと優しく振る舞う人だった。


「私にはよくわからないけれど、ジュリアス様は氷とは程遠い人よ」


「ジュリアス様が暴れていて、部屋に入れないから、側妃シェイラ様に助けを求めたの。国王陛下のお部屋に行かれてからおかしいと告げたら、シェイラ様は直ぐに陛下のところに行ってくれたわ。戻って来たシェイラ様は、剣と銃をもっていらっしゃった――」


 ジュリアスの剣と銃は、彼自身を護るために大事にしているはずだった。リルティは、ジュリアスが銃の手入れをしているところを見たことがあるが、とても慎重に的確だったと思う。


「剣と銃って、騎士になったらもらうのでしょ? それを返したってこと?」


 メリッサも剣と銃が騎士である証だということを知っている。ただの武器ではないのだ。


「ジュリアス様は、リリアナとの見合いの話を陛下と宰相に持ち掛けられて、酷く傷ついたのだと思うわ。ジュリアス様は、多分、昔からリルティのことを知っていたのでしょう?」


 リルティは、ジェフリーのことをメリッサには言っていなかった。ジェフリーのことがわかった後は、リリアナとジュリアスの婚約の話が上がり、もうジュリアスのことを何も言いたくなかったからだ。 


「・・・・・・ええ。小さな時にあったのよ。ほんの短い間だったけれど、ジュリアス様はとても優しくて、私は大好きになったわ。幼すぎたし、ジュリアス様は変装されていたから、彼だということを気付いたのは、離宮でジュリアス様が戻って来たときだったけれど」

「ジュリアス様は、リルと結婚したかったのよ。だから離宮にも着いていった。なのに、リリアナとのことを強制されて、全てに嫌気がさしたのでしょうね」


 リルティは、離宮でジュリアスに翻弄され、変な男に酷いことをされて堪らなく傷ついた。

 

 ジュリアスが、寝台でリルティに手を出した振りをしたことも、リルティと距離を縮めようとしていたことも、全て嘘ではなかったのだ。


 リリアナとの婚約の話がなければ、ジュリアスは、リルティを裏切ったりしなかったのだろうか――。


 リルティはわからずに頭を振った。


「リル?」

「わからないわ――。ジュリアス様が何をしていたのか・・・・・・教えて――」


 リルティの望む答えがくるとは限らないけれど、ゲルトルードに強請らずにはいられない。


 多分、ジュリアスは自分では言い訳はしないだろうから――。

危うく、女達の宴会&恋バナに終始してしまいそうでしたが、ちゃんと戻れてよかったです(笑)。美味しいものを食べながら、無駄な話をするという誰得やねんみたいなのを書くの好きなもので。

立場がかなり違うので、ゲルトルードとリルティ&メリッサには深い溝が(笑)。年齢もね少し離れているので。ゲルトルードのほうが半年くらいジュリアスより上なんですよ。

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