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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編ーいつか君のそばへー
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眠れるお姫様

こんにちは。また一月空いてしまった(驚)。日々はなんてすぎるのが早いのでしょう。

読んでくださってありがとうございます。

「リルティ様、記憶を失っていた間のことは覚えていらっしゃるのですか?」

「アンナさん、全部というかほとんど覚えていないのだけど、ぼんやりと断片的に・・・・・・。夢を見てたような感じだわ。音もなくて、場面場面が本当のことなのかもわからないのだけど」


 アンナは、呼ばれた敬称で、そのことはなんとなくわかってしまった。記憶のない間は、アンナと呼んでもらっていたからだ。


「ジュリアス様がその・・・・・・婚約者ということは?」

「婚約者? えええ・・・・・・。そうね、確かに夢の中の私はあり得ないくらいいい服を着ていたし、何だかアクセサリーとかも・・・・・・。グレイス様もいらっしゃったのだけど、ここは・・・・・・どこなのかしら? 何がどうなっているのかしら」


 今さらだが、リルティは自分の今いる場所のことすらわからなかった。ただ、それを問い正せる場面ではないから、黙っていたが――。


「どうぞ、こちらを――。痛むところはありませんか?」


 仮設の病院のようになったお菓子店の店先で、怪我をした人を手当しつつ、飲み物を勧める。これはジュリアスが手配したもののようだ。

 テオはもうリルティの側を離れないようにしたらしい。テオが怪我の手当をして、アンナとリルティは飲み物を配る。


「ドレスが汚れてしまいますよ、奥方様」


 ジュリアスは、この領地の時期跡取りだと思われていて、先程そこで熱烈な抱擁を皆の前で繰り広げたので、リルティは奥方だと思われているようだ。お菓子店の店主に奥方様と言われて、ブンブンと首を横に振りたいが、今の状態がわかっていないので曖昧に微笑むことしか出来ない。


「綺麗な格好というのも動きにくいものね」


 侍女の服は機能性がいいので、些か介護には向かないようだった。


「脱ぐとかおっしゃいませんよね?」

「アンナさん、今はいいです」


 アンナはリルティの言葉がむず痒くて仕方がなかった。


「アンナとおよびくださいませ」


 リルティは、呆然とアンナを見つめた。


「およびくださいませって・・・・・・」


 お姫様ごっこをしていたあの離宮とは違うのに、これは本当にどうなっているのか早く聞いたほうがいいようだとリルティは思った。


「リル、そろそろ一度屋敷にもどろう」


 大きな怪我をしたものはちゃんとした病院に運ばれていったし、軽いけがをしたもの達も少しずつこの場を去っていった。


「そうね」

「奥方様、ありがとうございました。皆、奥方様の優しさに感激しております」

「ん・・・、いえ、こちらこそお店をお借り出来て助かりました。ありがとうございます。いずれ、主からも・・・・・・」

「いえ、私どもは当然のことをしたまでです」


 リルティの前に頭を下げた店主にもう一度礼を言ってから、リルティはテオに連れられて街の中の屋敷に戻って来たのだった。


「リルティ様! お怪我はございませんか?」


 玄関で待ち構えていたグレイスの態度もやはりリルティには、むず痒かった。


「グレイス様、リルティ様は記憶を取り戻されまして・・・・・・、そして記憶がなかった間のことは、あまり覚えていないのです」

「・・・・・・まぁ・・・・・・。記憶が戻って何よりでございますね。少し、休憩いたしましょうか。お部屋にお茶をお持ちしますわね。アンナ、少し楽な格好にお着替えしていただいて――」

「はい。リルティ様、少し埃っぽくなりましたから、お召しかえの前に入浴いたしましょう」


 グレイスとアンナに誘導されるままにリルティは、部屋に戻っていった。


「テオ様、リルティ様はどうやって記憶が――?」

「街でリリアナ達がリルティを狙って・・・・・・危うくリルティは殺されそうになったんです」

「なんてこと・・・・・・! テオ様もジュリアス様も何をなさっておいでなのですか」


 酷く興奮したグレイスを、テオは初めて見たような気がした。


「グレイス様、大丈夫です。ジュリアス様が助けたのです」

「ジュリアス様が――」

「はい。格好良かったですよ」


 それでもグレイスは納得がいかなかったらしい。テオの幸運の神様に愛されている説を信じている人間は結構多いのだ。


「あの時は、とても焦りましたが・・・・・・。あの時、おれが間に合わないことが、リルティの記憶を取り戻す機会だったんだと思うんですよ。死という危機感が、頭の靄を取り除いたのでしょう」

「・・・・・・そうですね。そうとしか・・・・・・」


 グレイスも考え込み、テオの言葉を鵜呑みにしたようだった。


「それで、リルティ様は・・・・・・ジュリアス様のことは・・・・・・」


 グレイスが心配なのは、リルティがジュリアスを拒否することだった。それだけのことをジュリアスはリルティに対してしてしまっている。国のためだとはいえ、リルティを弄んで捨てたように見えていても不思議はないのだ。

 そして、記憶がないのをいいことに婚約者として領地に連れてきて、騙したまま彼女を手に入れようとしたことを知っているだけに、グレイスはリルティに対して申し訳ない気持ちで一杯だった。


「さぁ、おれにはよくわかりませんが、山のような人々の前で口付けを交わしていましたよ。あのリルが、ジュリアス様を詰りもせずにね」


 テオは、あの瞬間悟ったのだ。もう、小さかったリルティはいないのだと。一人の女性として、成長したのだと。寂しさが溢れたのは内緒だが、グレイスにはばれてしまったかもしれない。


「リルティ様が――。ああっ、良かった・・・・・・」


 グレイスは心から、ホッとしたようだった。ほんの僅か目尻に光ったのは、安堵の涙だったのかもしれない。テオは見なかった振りをして、「少し部屋に戻ります」と自身の兄であるリルティの父親にリルティの記憶が戻ったことを報告するべく手紙を書くためにその場を後にしたのだった。



「リルティ様、今日の夜会は・・・・・・残念ですけれど、おやめになったほうがいいと思います」


 命を落としそうになるほどの危険や怪我人を手当てするために駆けずり回ったリルティは、湯船に入るとウトウトと瞼が落ちてきそうになっていた。ジュリアスの過保護のために随分体力が落ちていることもある。

 ただ、リルティが今日のお出かけをとても楽しみにしていたからアンナは恐る恐る伺ってみたのだが・・・・・・。


「え、夜会があるの? あまり気が進まないわ・・・・・・」


 非常に困ったように呟いたので、アンナは心の中で万歳をした。

 

「リルティ様、今日はお疲れですし、そのまま少しお休みになってはいかがでしょう?」

「まだ日も暮れていないのに? でもそうね、自堕落だけど、お昼寝してもいいかしら?」


 リルティの瞼は、自然とくっついてしまいそうだった。


「ジュリアス様には、連絡しておきますわ」

「お願い・・・・・・。私、ジュリアス様に聞きたいことが沢山あるのよ」


 リリアナが自分を殺そうとしたのは、何故なのか。ジュリアスは何故自分を婚約者だというのか。

 

 自分の心が、いつの間にかジュリアスに対して警戒心をなくしていることが、リルティには信じられなかった。

 

 口付けは、気持ちがよかった。抱きこまれた時、安心感に満ちた気がした。


 やはり自分は何かが変わってしまったのだと、リルティは今更ながらに思った。


「どうしてこんなに眠いのかしら――」


 リルティは、アンナに手伝ってもらって何とか寝台にたどり着くことができたが、横になった途端意識を放りだすように眠ってしまった。


「リルは?」


 ジュリアスが屋敷に戻ったのは、リルティが眠って二時間ほどたったころだった。薄く夕闇が押し寄せてくる黄昏の時間。


「お休みになられておりますわ。先程医師せんせいに様子を診ていただいたのですけれど、記憶が戻られて意識が混乱されているのを抑制するために眠りを必要とされているのだろうとおっしゃっておりました」


 アンナからリルティの浴室での様子を聞いたグレイスは、心配になって診療してもらったのだった。王都から連れて来た医師は最初からリルティの怪我からみているので、よくわかっているのだろう。因みに医師は、ジュリアスの父である国王から派遣されている。


「ああ、なるほど。なら、今日の夜会は俺だけで行くよ。リルの顔を見てから行きたいんだが」


 ジュリアスは、やはりグレイスに駄目だろうかと伺うように視線を送る。


「リルティ様を起こさないようにお願いいたしますよ」

「・・・・・・努力する――」


 ジュリアスは、リルティの寝顔を見て、ホッとした。リルティが怪我をしてから、ジュリアスはリルティの寝顔を見るのが少し怖かった。


 生きている――。


 胸の上下する様を見て、安堵するのは、やはりトラウマなのだろう。


 隣に入って、リルティを抱きしめたい。頬に口付けて・・・・・・、と思いながらリルティの頬を撫でていたところで、グレイスがゴホンと咳ばらいをする。


 顔に出ていたのだろうかと少し顔の緩んだところを引き締めて、「行ってくる」とリルティの頬に触れるだけの口付けをして、ジュリアスは部屋を出て行った。


記憶喪失になったことはないのですが、記憶が飛んだことはあると、以前にお話ししたでしょうか。

麦茶を飲んでいて、「あれ? なんでここに?」と目が醒めたような瞬間がありました。馬に乗っていて、落馬したんですよ。結構派手におちてしまって、脳震盪でも起こしたんでしょうね。

応接室で、麦茶を飲んでいましたが、夢のような感じで落ちたところ、フロントの人や他の指導員が走って近寄ってくるところなんかは音のない映像で残っていました。ほんと夢を見ていた感じです。でもこの普段入らない応接室で麦茶を飲んでいる、ということで夢に思えたあれが本当のことだと自分で気付いたんですよね。

でも、自分で歩いて、喋りながらここに来たらしいですが、そのあたりはすっぽり何も残っていません。何を言っていたのか、非常に気にかかるところですが(笑)。その後病院でCTかなんかをとりましたが、問題なし、普段の落馬よりも全然痛みもなく、怪我もない、そんな出来事でした。

何人かやはり落馬で記憶が飛んだ人の話を聞きましたが、やはり同じような感じでした。


勿論、記憶喪失とは大違いだとは思いますが、全くしらない出来事を書くよりはリアリティが出るかなと思って書いたので、その辺はご容赦くださいませ。

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