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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編ーいつか君のそばへー
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王子様はそこにいるだけで

こんにちは。良かったです、読んでもらえて♪前回ドキドキしながら更新しました。

 リルティは、ジュリアスとテオに間を挟まれて、更に後ろにはアンナが、前には犬が何故か陣取って歩くことになった。


「・・・・・・私は囚人じゃないはずよね・・・・・・?」


 思わず零れた吐息のような声に「ん? 何か欲しいものある?」とジュリアスが顔を覗きながら訊ねてくる。


「メリッサに何か選びたいわ」


 折角なんだから楽しまなきゃと気持ちを切り替えて、リルティは王宮で養生している時から、何度も見舞ってくれた女友達メリッサを思い出して、露店に目を移した。

 何も覚えていないリルティの側で泣き崩れながらも「大丈夫、大丈夫だからね」と慰めてくれた。リルティは覚えていないはずのそのメリッサが、泣いていることがとても辛くて、反対に焦ってしまった。メリッサが側で色んなことを話してくれるのを聞きながら、『ああ、私、この人のこと大好きだったんだわ』と思った。

 誰が側にいるよりも気持ちが落ち着くのだ。


「ああ、メリッサね」


 ジュリアスはあまりメリッサと仲がよくないようで、メリッサのことを口に出すと少しだけ眦が上がるのだ。けれど、リルティに口を出してくるようなことはない。


「メリッサは何が好きなのかしら?」


 こういう時、自分の記憶がないのが悔やまれる。どうせならメリッサが好きなものを上げたいのに・・・・・・と、ふと目の先に珍しいフルーツのお酒を瓶で売っているのを見つけた。

 

「これは何が漬けてあるの?」


 小さな丸い果実のようだった。


「これですか? これはキンカ―ンっていう異国の果実なんですよ。そのまま食べても大して美味しくないんですけどね、こうして果実酒にするととても喉によくて、味もいいんですよ。試しに飲みますか?」


 聞いたことのない名前にどうしようかと思ったが、喉にいいと聞いて、リルティは自分にも欲しくなってしまった。リルティは歌を歌うのが好きなのだ。


「飲んでみたいわ。いいの?」

「ええ、もちろんですよ」


 差し出された小さなカップを横から取り上げられて、見上げると渋い顔をしてジュリアスがリルティを見つめていた。


「そうだ、記憶がないんだ――」


 自分に言い聞かすように呟いたジュリアスは、テオにそのカップを渡す。


「おれが飲むんですね」


 毒見かと、テオがもらったカップを飲み干すのを見て「ああっ私が飲みたかったのに」とリルティはジュリアスに非難の眼差しを送った。


「家だったらいいけど・・・・・・」

「味見くらい」


 リルティだって分別くらいある。そんなガブガブ飲むつもりなんてなかったというのに。


「だめ、すぐ赤くなるし、そうなったら俺は自分を抑える自信がない――」


 きっぱりとジュリアスは言い切った。


「ゲフッガハッ!」


 テオは思わず器官に入りそうになって呻いた。


「あー、買ってもらえるんですかね?」


 店主は、二人の世界を作り始めたカップルが面倒で噎せているテオに訊ねた。


「はいはい。美味しいから、三本ください」


 とりあえず、ジュリアスと酒も飲まずに真っ赤になったリルティを放って、テオが三本分金を払った。


「邪魔になりますからね。行きますよ」

「毎度あり」


 店主の機嫌のいい声を後に、四人と一匹は歩き始めた。


「本当に盛大なお祭りね。沢山の人で一杯だわ」

「もう少ししたら花祭の花のお姫様が決まるらしいから、そしたら広場にいきましょう。今日真っ白な洋服を着て、真っ白な花飾りをしているのは、花のお姫様だけらしいよ」


 前半はジュリアスに、後半はリルティに話を振って、テオはあちこちにリルティを導く。


「これなんてメリッサに似合いそうじゃないかな」

「そうね、メリッサは顔立ちがしっかりした美人だから、こういうのが似合いそうだわ」

「こっちはリルに似合いそうだね」


 小さな髪飾りを沢山売っている露店は、女の子達が群がっていた。ジュリアスやテオを見て、「あらこんなところに男前がいるわ」と距離を詰められて、リルティは結局あまり見ることが出来ずに店を後にした。


「ジュリアスも叔父様も・・・・・・とても人気ね」


 リルティは覚えていないがきっと王宮でも凄かったのだろうなと、今の女達の一目見てもらおうと群がってくるのに恐怖を覚えながら、リルティは思うのだった。


「興味のない女がいくら来てもな・・・・・・。リルになら何度抱き着かれても嬉しいけど――」

「おれも知らない人にもみくちゃにされるなら、リルにもみくちゃにされるほうがいいな」


 リルティは、ジュリアスにも呆れたが、叔父にはもっと呆れてしまった。


「姪っ子にもみくちゃにされるのがいいって・・・・・・」


 やはりこの人達の感覚は、もの知らぬリルティにだっておかしいとわかる。アンナにそっと同意を求めると、微笑みながら目を反らされてしまった。


 見てみぬふりが一番ということか・・・・・・と、リルティは諦めて、次の店を探すために視線を彷徨わすのだった。


 雑然とした人の波にふと波紋のようなものが起こったとリルティは気付いたが、その時にはジュリアスとテオは既にその意外性を持った動きをしているのが自分の手下のものだと確認していた。


「もう、ちょっと!」


 人の群れは一定方向を向いているので波に逆らうのは大変そうだった。あちこちから罵声を浴びてやってきたのは、リルティは知らぬ男たちだった。


「ジュリアス様」


 三人の男がジュリアスに向かって頭を下げた。


「どうした?」


 ジュリアスの視線にリルティの知らない類の強いものを感じて、リルティは少しだけ身を引いた。


 後ろ手にジュリアスが手を差し伸べてくれたから、ジュリアスの背後にまわり、リルティはその手を握った。ゴツゴツしている男らしい指が、ジュリアスをただの優しいだけの男ではないことを教えてくれる。


「残党らしきもの達を捕まえました。どうやらこの祭りで騒ぎを起こそうとしていたようで、大量の火薬を押収しました」

「よくやった――。人数は?」

「五人です。そのうち騎士らしき男が二人。もしかするとほかにも隠れているのかもしれません――」

「そうか、他の捜索は――?」

「くまなく」

「概要を知っているかもしれないな・・・・・・。吐かせるか」

「今、街の会館の一室を借りて、吐かせてますが――」


 少し迷いながら、ジュリアスは背後のリルティに「一度屋敷にもどらないか?」と訊ねた。


「・・・・・・いや・・・・・・」


 リルティの精一杯の反論だった。やっと祭りに来れたというのにメインイベントも見ずに帰りたくない。ジュリアスが困っているのもわかるが、リルティは素直に頷けなかった。


「ジュリアス様、おれもいますし・・・・・・」


 テオも正直迷いはしたものの、唇を引き結んで顔を強張らせているリルティを無理に連れて帰りたくなくてそう言った。


「・・・・・・卑怯者――」


 テオの耳元にジュリアスは息を吹き込んだ。


「ひゃっ!」


 耳を抑えたテオが、変な声を上げてジュリアスから遠ざかる。


「おれはそういう趣味はありませんよ」

「奇遇だな――、俺もだ。自分だけリルにいいところを見せるつもりなんだろう――」

「まぁ、リルがこんな我儘をいうなんて、あることじゃないですしね」


 二人に見つめられて、リルティはアンナの後ろに隠れた。


「わかった――。すぐ戻る。気をつけてくれ――」


 実際のところ、テオが側にいればリルティに危険などないだろうとジュリアスは思っていた。


 さっさと吐かせてリルティと祭を楽しむべく、ジュリアスは踵を返した。


 バキッ――ボキッ――と拳を鳴らしながら歩いていくジュリアスは、リルティの見たことのない人のようで、少しだけ驚いた。

 人混みに紛れようとも、そこだけがライトを浴びているように目立つ。特に気配を消していないジュリアスの存在感は、高位とはいえただの貴族とは思えないくらい豪奢であった。

ちょっと王子様には退場してもらいました。王子様がいたら、イチャイチャ以外にすすみませんからね☆

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