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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編ーいつか君のそばへー
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王子様はお姫様に酒を飲ませたくない

読んで下さってありがとうございます。

サブタイトルが困り始めた今日この頃です。

「あのメリッサ、私気付いたのだけど……」


「ええ、そうね。言わなくてもいいわ。私も気付いているから……」


 くぅっとメリッサは言葉を飲み込んだ。


 リルティとメリッサが声をかけたのは、比較的仲の良い同年代の男爵令嬢の身分はあるけれど、城で侍女をしている似たような環境の人間ばかりだ。人選にはメリッサも関わっている。

 何故かマリー・プリンズも入っているが、この人はよくわからない。テオからの希望だったので、騎士の中で彼女を好きな人がいるのだろう。


 テオが企画したということで、人の噂に上りやすく、しかも入れてくれコールが絶対起きるだろうから、メリッサと選んだ人はどの人も口の軽くない真面目で優しい人間ばかりだ。二年も城で勤めていれば、人の性格も把握している。内緒でことを進めたが、うまくいったと思う。


 二人はテオから渡された顔の上半分が見えなくなる美しい煌びやかな仮面をつけて、ガッカリした。


 そう、化粧をしっかりしても見えない……。メリッサは、ウエストの細さと胸の大きさで目を引くだけでなく、仮面を被るとその動きの優美さからきっと目立つだろう。


 リルティのささやかな胸と最近大分痩せてしまった身体は、華奢で儚げだった。


「何故かしら、リルティがリルティじゃないわ。これは所謂いわゆる詐欺にならないのかしら?」


「ひどいわ……」


 といいながら、リルティも鏡でみた自分がまるで自分でないようで戸惑った。


「いい人が見つかるといいわね」


 リルティが微笑むので、メリッサはリルティが可愛くて思わず抱きしめた。やはり細くなっていて、メリッサは「お互いにね」とリルティを励ますように髪型を凝ったものにした。


「リル、随分可愛いね」


 テオに褒められて、リルティはもちろんメリッサも嬉しくなる。個室をいくつか借りていて、そこで仮面を被る。パーティとはいえ、夜会ではないので、男も女も普段着ている余所行きの服くらいのドレスコードにした。リルティは瞳の色に合わせて青緑のドレスに襟元をレースを飾った。銀色の仮面が美しくリルティを飾る。メリッサは彼女の性格に合った赤いドレスにした。ドレスとはいっても侍女服に装飾が付いた程度の服だったが、気取っているより余程似合っているとリルティは思った。


「叔父様は出ないの?」


 テオの顔に仮面はない。


「おれが出たら、もう女の子たちの目線はおれに釘付けだろう?」


 ウィンクをしてそういうものだから、メリッサは赤くなるしリルティはげんなりと絶句した。


「え、冗談だよ。そこは笑うところだよ」


 姪のあまりに冷たい視線にテオは焦った。


「笑えないし……」


 リルティの呟きにメリッサも同意した。


「すみません……失言でした」


 テオは撤回の早さも並ではない。


「今日は司会に来たんだよ。もし企画だけして、女の子たちに不快な思いをさせてしまったら、テオの名折れだしね。そうだね、失敗したらテオを返上しよう」


 そんな馬鹿なことを言う。リルティは少しだけ目を輝かせて「じゃあ私が名前をつけてあげるわ! シオンとかジョシュアとかどう?」


 テオは、叔父に似合っていないと常々思っていたから、おもわずはしゃいでしまった。


「シオン……。ジョシュア? リル、おれがそんな名前になったら、神殿に祭られてしまいそうだよ」


 何気に昔から神殿からラブコールをもらっているテオは、疲れたように姪に「もっと男らしい名前でお願いします」と頭を下げるのだった。



 会場は三十人ほどでパーティなども出来るホールのような個室だった。さすがに侍女をやっているメンバーなので時間には正確だ。

 もらった番号の席につくと、男性のほうも大方揃っていた。リルティは五番、メリッサは六番。リルティを挟んで五番と六番の男性が座る予定だが、両方とも開いているのでリルティは周りを見渡した。だれも彼も隣と話をしていて楽しそうだ。始まってもいないのに何か出遅れた感が半端ない。メリッサは隣の男性とその横の侍女カレンと三人で喋っていたが、リルティの横に誰もいないのに気付くと開いている男性の席に座るようにいって、七番の男性は図らずも女性三人に話しかけられて嬉しそうだった。笑窪の出来る男性は珍しいな~と、ついつい眺めていると「恥ずかしいんでそんなに見詰めないでください」と男性は降参の旗を振った。まだ歳若いのだろう、好感度は高い。


「さて、では仕事の都合で五人ほど遅れておりますが、はじめたいと思います」


 テオの声は良くとおる。張り上げなくても自然と耳に入るのでよく壇上で司会を務めている。


 ワーッ! と拍手で始まりを称える声にテオの笑顔も嬉しそうだ。


「まずは食事をしながら、お話しましょう。食事はこの店で有名なものばかりを用意しています。是非堪能してください。音楽をお願いします」


 テオがそういうと皿をもって人々は料理に群がった。ビュッフェ形式にしたのはそのほうがやすいだろうということだった。音楽は弦楽器がメインで、食事やお話の邪魔にならないムードのいいものだった。


「いい感じね」


 リルティはテオの分も皿に料理を載せて、運んだ。テオは司会なので少し離れたところで楽しそうに見ていた。


「リルも話してきたらいいのに」


「うん、でもご飯は叔父様と食べようかなって思ったの。皆いい人ね。ありがとう」


 侍女仲間達の嬉しそうな顔をみれば、お目当ての人がいたり、楽しい話題を振ってくれている男性ばかりだと思う。


「まあね、リルに頼まれて変なやつには声をかけたりしないよ」


「うん、信頼してるわ」


 本当のことだからリルティがそういうと、困ったようにテオは視線を上に向けた。


「でも、リルは……」


「あ、これ美味しい~。叔父様、甘いものばかりじゃなくてお肉も食べてね」


 テオが何かをいいたそうにしていたが、リルティはあえて遮った。テオがそういう顔をするときは大抵リルティが答えられないことばかり言うからだ。


「お肉より、カスタードのほうがいいんだけどな」


 肉料理も絶品だというのに、やはりテオに血肉は甘いもので出来ているようだった。


「お腹が膨れたら、次の料理のために運動しましょう。騎士団は鍛えてますからね、足の指を踏んでも文句は言いませんよ。まずはカントリーダンスで足慣らしを。順番は気にせず」


 三十分ほどゆっくり食べた後でテオはそう言って、リルティをエスコートしてホールの真ん中に滑り込んで、踊り始めた。カントリーダンスといわれる大人数で楽しめるもので、部屋の大きさから四列に並んで踊ることにした。一人一人と人数が増えていく。


「ノッてきたところで、ワルツを――。気になる人がいるなら誘ってあげてください」


 この場合誘われたら男性は断る事が出来ない。テオは壇上にあがり、司会に徹するようだ。


「マリーも来てるわね」


 メリッサの視線の先に器用に眼鏡の上から仮面を被っているマリー・プリンズをみつけた。微笑む彼女もいつもとは少し違う。


「リルティ、踊らないの?」


 どうしてもメリッサはリルティが気になるようで、リルティが一人でいると絶対に声をかけてくれた。


 メリッサには本当に幸せになってほしいなとリルティは願う。


「食べすぎちゃった――」


 そうやってメリッサに言って窓際の椅子が並んでいる所に座った。


 さっきの笑窪の青年が「飲み物でもどうぞ」と声を掛けてくれた。


「ありがとうございます」


 リルティの横の椅子に腰掛けて、その男性は「楽しいですね、こんな企画をしてくれたレイスウィード副隊長に感謝です」と言ってテオのほうを見た。


「ええ、本当に。皆楽しそうで嬉しい」


「貴女は楽しくない?」


 リルティは「いいえ。楽しいですよ。たまにこんなのもいいですね」といってワインに口をつけた。


「貴女の仮面の下はどんな素顔なんでしょうか――?」


「私の素顔ですか……。お恥ずかしいですけど、平凡だと言われています」


 別に悪くないけど、よくもないらしい。


 少々口篭りながらそう言うと、笑窪の彼は「可愛いと思います」とリルティの手をそっと握ろうとした。


 ガッ! と音がするほど乱暴に男の手は払われて、リルティは目を瞠った。


 そこには見知らぬ男性が笑窪の彼の前に立っていて、凍るような視線を彼に浴びせた。


「誰だ――?」


 会場は表から入ってきた男性が「遅れました」と入ってきたほうに集中していて、こちらに気付くものはいない。


「五番だ……」


 新たな男は自分の番号を示した。絶対ということはないが、対となる番号の男女と優先的に話をする権利があるのが取り決めだった。


「ああっ、それはすいません。彼女の対の番号はいないと思っていました」


 笑窪の男性は、特に気を害した風もなく、五番の男に椅子を譲った。


「じゃあまたね。機会があれば一緒に踊ろう」


 やはり気のいい彼は、笑窪の微笑みを残して去っていった。


「六番の方もいらっしゃったのですね」


 メリッサにダンスを申し込んでいるのは、新たに来た六番の男性だった。背の高い薄い唇の男をリルティは知っていた。


「ああ――。それよりこちらを向いてはくれないか? 君はワインは飲まないほうがいい――」


 リルティはいつもより低いその声に覚えはなかったが、ワイングラスを取り上げた指には覚えがあった。


「ワインを飲むと、キスをねだるからですか?」


 睨み付けるようにリルティが男を凝視した。


 髪は、長い金色。仮面の下の眼鏡の奥には黒い瞳。知らないはずのその男なのに、リルティは笑えるくらいに既視感を感じた。そして、それは間違っていないはずだ。


「わかっていて、飲むような悪いには……お仕置が必要だな」


 リルティに瞬間で見破られたことに五番の男は嬉しさを隠さなかった。弾ませるような声で、そんな事を言う。


 リルティは、そんな彼を責めるような瞳で見詰めながらも、浮き立つような心を感じて自分自身に戸惑いを感じるのだった。

私の作品をいくつか読んでいる方は仮面パーティの時点でバレバレだったと思います。はい、王子様登場! リルティにはバレバレですが、頭はキンキラだし服装は地味だしで、ジュリアスだと気付くものは少ないでしょう。とはいえ、女性は指だとか喉元とかで気付くかもしれませんね~。

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