王子様の小さなたくらみ
お久しぶりです~。いつも読んでくれてありがとうございます。
シリアスが遠くなってきました。でもちょっと時間経過をいれたかったので、いいかな?
テオは、まずライアンに相談しようと思った。自分では考えてもいい案が浮かばなかったせいでもある。
お見合いパーティ。最近巷で流行っているとは聞いていたが、リルティが知っているとは思わなかった。
リルティは、自分の恋人を見つけようと思っているのではないのだろう。一つのことをはじめたら何があってもやり遂げる性格をしている彼女だから、ジュリアスの事を諦めたといっても簡単に思い切れるとは思えなかった。
騎士団には若くて彼女を欲しい男達が沢山いるし、テオが声をかければ人数を揃えることは難しくは無い。リルティの信用ためにも厳選した男達を集める気がある。
ただ、ジュリアスになんと報告すべきか迷ったのだ。
ジュリアスは、今年にはいってから精力的に動いている。リリアナの相手もしなくてはならないし、仕事もミッテン、ゲルトルードがいない中がんばっているようだった。元々優秀な王子だから心配はしていないが、完璧な振る舞いから人間味が失われてきているような気がした。
もちろんテオは、ジュリアスが腹立ち紛れにセージのショコラを一気食いしたことなど知らない。
ライアンの部屋を開けて、思わず「げっ……」と声を漏らしてしまったのは不覚だった。ミッテンが何もいわなかったから、てっきりライアンと補佐官くらいしかいないと思っていたのだ。
「テオ――?」
ライアンがこちらを向いて不思議そうな顔をした。それはそうだろう、護衛騎士が部屋に入るなり、不審な声をだしたのだから。
「ジュリアス様がいらっしゃるとは思っても見ませんでした。失礼しました――」
うっかり本音を告げてしまった。
「やあ、テオ。何か俺に内緒の相談でもあるようだな――。ん、リリアナとのデートを護衛したくないなら、早く言ったほうがいいぞ」
立ち上がったジュリアスからゆらりと得体の知れないものが見えたような気がした。
りリアナはテオがリルティの叔父であることを知っているからか、テオがジュリアスの護衛につくと、やたらとジュリアスに媚を売って、どれだけ二人の仲が深いか見せ付けようとするのだ。
顔には出さないが、哀れだし、気持ちが悪かった。
それに実害を受けるのは自分だというのに、なんという捨て身の業だろうか……。
「はい。リルティに頼まれてお見合いパーティを……」
テオはそれ以上報告する事が出来なかった。
近衛の服の胸元を捻り上げられて、ジュリアスの瞳に射すくめられたからだ。
「ジュリアス、手を離してやれ――」
ライアンの声にジュリアスはハッと我に返った。
「テオ、お見合いパーティって何でまた……?」
のんびりとしたライアンの声は緊迫したジュリアスの様子を和ませる有難いものだったが、殺されそうな視線にテオの居心地は悪くなる一方だった。
「いえ、あの……」
まさか本人を前に、お前のせいで姪の体調が悪いからお願い事を聞こうとしたらそれだったとか言えない。
「リルティがお見合いをしたいといったのか……」
ジュリアスの声は硬く沈んだ。
「いえ、どうも侍女友達のためにそういう出会いの場を作ってあげたいみたいですね。二十人ほど用意して欲しいと言ってたので……」
それで気が晴れてくれればテオとしても言う事がない。正直な話、ジュリアスの作戦が成功したのかリルティが危険にさらされることはなかったが、いざと言う時に側にいるのといないのでは話が違う。護ろうと思っても、レイスウィードの領地までは遠すぎるのだ。
「二十……随分多いな。店を借り切ってやるのか?」
テオは頷いた。ジュリアスの頬が少しだけ引きつり、唇は笑みを浮かべる。
「いいな、それ。俺が一つ提案してやろう――」
その見るものが見れば背中をひきつらせそうな笑顔で、ジュリアスはテオの肩を抱いて耳を寄せた。
テオは、リルティが激怒するだろうことを告げたジュリアスの命令に逆らえそうもなく、何故ごまかさなかったのかと自分を叱咤することになる。
「あーあ、楽しそうだねお前達……」
蚊帳の外に置き去りにされたライアンのぼやきを聞いて、テオは憮然と重い溜息を吐くのだった。
「叔父様、仮面の意味がわかりません」
「ほら、もしいい感じになったらいいけど、いい感じにならなくても、後引かないだろ?」
テオが提案したのは、王都でも有名な美味しい食事が出来るレストランだった。有名な音楽家なども演奏をしにきたりするので、そうそう予約なんてできない場所だ。それを一部とはいえ貸切にできたことは喜ばしかったが、男も女も互いに仮面を被ることが条件だった。
「顔が見えないと……」
結婚の条件に見た目も重要だ。騎士だというから、身分はともかく給料はちゃんともらっているとはいえ。
「それは大丈夫! おれが選ぶから平均以上は約束する!」
「それに既婚者とかはやめてよ? 婚約してるとかも」
どうしても折れないテオにリルティは念を押した。
結婚する相手も予定の相手もいない平均よりはいい顔の騎士団の人間であることを条件に、仕方なくリルティは承知した。
「出来ればそっちの来る子を先に教えてくれる?」
テオは幸運の神様に愛されているという噂から、「○○さんが彼女になってくれますように」とお祈りされることもあるのだ。出来れば、相思相愛になってもらいたいので、テオはリルティにお願いをした。
「わかったわ。じゃあ月の終わりの日ね」
「リルは……リルは、どんな男がいいのかな――?」
テオはついそう聞いて、少しだけ後悔した。リルティの目はまだ傷ついたままだったからだ。
「そうね、優しい誠実な人がいいわ」
リルティは無理に微笑んで、そう言った。
メリッサは、上機嫌とは言い難いが嬉しそうに部屋に戻ってきて自分を呼ぶ親友にお見合いパーティのことを聞いて驚いた。
ジュリアス様のことは振り切ったのかしら? と期待はしてみたが、どうも自分の婚活のために一肌ぬいでくれたようだった。
「でも仮面なのよ~」
「仮面て……」
仮面でお見合いパーティ。なんてシュールなのかしら……という言葉を飲みこんだ。
「でも、ほら、好きな人が来てたらわかるでしょ」
リルティは思わずテオの案をフォローした。
「声とか雰囲気とかでね。そうね、男爵令嬢オンリーのお見合いパーティにしましょうか」
同じレベルでないと、間違っても伯爵令嬢などきてしまったらそれだけで男達は出世欲に駆られて流れてしまうだろう。良くも悪くも向上心がある人間が多いのだ王宮という場所は。
「そうね、それでいいと思うわ。ね、メリッサは気になる人とかいるの?」
「いるけど……騎士じゃないし、無理だから」
「だれ? 聞いたことないわ」
リルティの聞きたい攻撃に負けて、メリッサは渋々と名前を告げた。
「宰相補佐官様!」
叫んだリルティの口をメリッサは息ももれないような勢いで塞いだ。メリッサの腕を押して苦しいと訴えると、「もう、声が大きい!」とリルティは怒られてしまった。
リルティが驚くのも仕方がないことだった。宰相補佐官は四十歳を超えたメリッサとは倍以上はなれた人だった。リルティの知る宰相補佐官アレクシス・グレンディースは、機械仕掛けの補佐官と呼ばれている。冷たく感じる銀の髪に薄い青い瞳は氷の彫像のようで、一部では『クールビューティ』と言われているが、若い女が好きになるタイプではなかった。
遊びなれた淑女が溶かせない氷を溶かそうと愉しむような男なのだ。
「人のことは言えないけど……、変わった人が好きなのね」
リルティは思わず呟いて、自分の言葉に驚いた。
「リル、泣いていいのよ? なんで私の前でも我慢するの……?」
メリッサの目にはリルティは無理をしているように見えるのだろう。
「わからないの。ね、メリッサ。どうしてグレンディース様のことを好きになったの?」
人の恋の話を聞けば、糸口がみつかるかもしれないとリルティは思ったのだ。
「あのね、リルティに会う前のことなんだけど。迷子になったことがあって……」
メリッサの恋は、本人がしっかりしているので想像もつかないが、まるで恋愛小説の一部のようだった。
「わかってるの。あの方は伯爵家の次男だけど、優秀な方だからそのうち婿にでも入られるでしょう。歳だって親子ほど離れているもの。だから、私はお見合いパーティでいい男を見つけるわ! そして無駄飯喰いだと言った上の兄様の嫁を見返してやるわ!」
メリッサが婚活をするわけがわかってリルティは励ますように手を握った。
「いい男を見つけるわよ! リルだって着飾れば可愛いもの!」
肉食女子の牙を研いでメリッサは笑った。リルティは頼もしく思って思わず頷くのだった。
更新が遅くなってしまってもうしわけありません。でも絶対に途中で終わる事はないので、それだけはご心配なく。