王子様の選択肢
読んでくださってありがとうございます。
リルティが、二人と手を繋いで居間へ行くと、ジュリアスは楽な格好に着替えていた。
美形が着るとなんでも似合って見えるなと思う。
黒いシャツに黒いトラウザーズと、シンプルなのか格好をつけているのかは判断が難しいが、こんな色彩の男は王宮といえど、他にいないだろうと思う。
「なんだ、その額……。おまけに服もほころびてるぞ」
近づいてきた三人が何故か手を握っていて、首をかしげながらも、リルティに対してはいいたいことがあるらしい。
馬鹿にしている――。リルティは、そう思った。
ちょっと自分が格好いいからといって、平凡な顔をさらにみっともなくしてしまった自分を笑うのは酷いと思った。
「暗闇に真っ黒だから、余計変態に見えるんです」
リルティは、自分でも何を言ってるのかわからなかったが、どうやら、酷くジュリアスに対して腹がたっているらしいと、気付いた。大体怪我をしてしまったのも服を汚してしまったのも、ジュリアスが原因なのに……。
「それとも変態行為を行うのに、黒だとまぎれるから着てるんですか?」
ギョッとした二人が、リルティの口を塞いだが、遅かったようで、黒い瞳の色に怒りが見えた。
ゲルトルードが、リルティを背中に庇う。
「違いますよ~。ジュリアス様は好きで黒を着てるんじゃないんですよ~」
ジュリアスの視線からリルティを隠しながら、ゲルトルードが答える。
「だって~、ジュリアス様、黒が似合ってるからてっきり、好きで着てるのかと思いました~」
メリッサも視線を彷徨わせながら、ゲルトルードに合わせる。
「別に好きでもない……」
二人の空芝居のような声を聞いて、ジュリアスは諦めたようにソファにかけた。
「じゃあ、なんで、黒なんですか?」
「三人並んでいいから、そこに座れ」
リルティ、ゲルトルード、メリッサと座るのを見て、ジュリアスはため息を吐く。
「なんでお前が正面にいるんだ」
「あ、お気になさらず」
優秀な乳兄弟が何故かおかしくなっているような気がしたが、気にするなというので、とりあえず横に置いておくことにした。
「父が兄に聞いたんだよ。お前の礼服は黒と白とどっちがいいかと」
国王陛下と王太子殿下のことだと、気がついて背中を伸ばして座る。
「兄が、白がいいといったから、俺が黒になっただけだ」
兄妹と言うものはそういうものだと、五人兄妹の末であるリルティもわかった。それが、王族であれば、「お兄ちゃんと一緒がいい」とはいえないのだろうと思う。
「兄が黒い馬がいいといえば、俺は白馬になるし、兄が狩りにいくといえば俺も連れて行かれるし、兄が「お前はもういらない」といえば、俺は臣下に下るんだ。わかるか?」
リルティは言われた内容にゾッとする。そこに自分の意思は尊重されることはないということだ。
ゲルトルードの顔は、青ざめていた。わかってはいたけれど、言葉にすると重いものだった。
「俺が、宰相の娘である側妃の子供で、兄が隣国から来た姫である王妃から産まれたことは知ってるよな?」
それくらいの話なら、ぼんやり過ごしているリルティでも知っていることだった。仕えるフレイアは、王妃の娘で、王太子ライアンとは同母の兄妹になる。
頷くのを見て、ジュリアスは「それくらいは知ってるか」と笑う。
「宰相は狸だ。いや、狸の皮を被った狼というべきか……。俺のことは孫とは認識しているが、それだけで……、いや、もし隣国と戦になったときのための王太子のスペアだな」
酷い言葉で、ジュリアスは自分を貶める。けれど、ジュリアスにとってはそれは事実であり、それ以上でも以下でもなかった。
「ジュリアス様……」
ゲルトルードの声が固く、ジュリアスを責めてるようだった。
「わかってる――」
それは、もう考えないことにしたのだ。
兄である王太子は、優秀な男で信用できるし、妹は可愛い。白い服がいいといったのも、俺のほうが黒が似合うから、白を選んだとわかっている。
馬鹿なことだとわかっているが、一度でいいから父に「お前はどうしたい?」と聞いて欲しかったと、思っていたのだ。ほんの二年前までは。
外国に外交に出されたのは、ジュリアスに接触しようとする国内の貴族の目をそらすため、王太子を害そうとした一派の勢力をそぐためだった。宰相である祖父にそういわれて、ジュリアスは諦めた。父がジュリアスの意思を確認することはないのだ。
国を護るため――。
「俺には、接触しようとする貴族の子飼やら、反対に俺を殺そうとする隣国からの刺客やら色々会いに来るわけだ。それが、昨日の子供だ。あれは、意図を聞き出そうとしただけだ」
リルティの目を見つめて、ジュリアスは静かなのに燃えるような意思を宿した瞳でそう言った。
「兄の前で告げられるわけにはいかなかったんだ」
だから、変態のところで口をまさに封じられたわけだと、リルティは理解した。
握る拳が震えるのを抑えることが出来なかった。
「だから……」
それ以上何も言いたくなかった。リルティは、立ち上がって踵を返した。
「何も言いません――」
リルティに何と声をかけていいのか分からずに、ゲルトルードはジュリアスに無言で非難した。メリッサは、ため息を吐き、ゲルトルードの肩をそっと押した。来なくていいという意味だった。
「まだ変態のほうが増しでしたね」
王子様にそんな言葉をかけたら、殺されても文句は言えないかもしれない。でもメリッサは言わずにはいられなかった。リルティを追いかけて、無言で部屋を出て行った。
凄いブックマークが増えました。ビックリです。とても嬉しいです。評価もありがとうございます。励みにがんばります。活動報告で書いたとおり、明日は投稿できないと思いますが、ごめんなさい~。
では、風邪をひかないよう気をつけて、いってらっしゃいませ~。