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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編―離宮の輪舞―
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王子様の心変わり

読んで下さってありがとうございます☆

 もう、魔法は解けてしまうのね……。


 色とりどりのドレスはどれもリルティが気後れするほど素晴らしかった。これは全部リルティのものだからもって帰って構わないといわれたが、どれもリルティ自身が相応しくないように思えたので辞退した。


 カバンに荷物を詰めて、リルティは最後のダンスを踊るために用意しなければいけなかった。


 何故自分は、リリアナとジュリアスの婚約だか結婚の発表に出席しなくてはいけないのだろうと、腑に落ちないことだらけだったが、ジュリアスがそういうのなら、出たほうがいいのだろう。


 リルティは平凡な顔だから、実は化粧映えする。鮮やかな紅は、リルティの冴えない顔色をかくす役割を果たしてくれた。


「リルティ様、こちらをお召しになっていただけますか」


 グレイスはどこまでも優しくリルティのために用意してくれた。アンナは泣きながら、リルティの髪を結ってくれた。


 真っ白なドレスにダイヤのティアラ、ダイヤの首飾りは、まるで花嫁の装いでリルティを困惑させた。


「何故こんな素晴らしいものを?」


 アンナもグレイスが出してきた宝石を見たときに目を瞠った。


「白いドレスはまだ何も染められていないという意味が。ダイヤは何者にも屈しない心という意味がございます。私にはジュリアス様の考えはわかりません。ただ、リルティ様を守りたいという私の気持ちを表してみました」


 ジュリアスがリルティに向かって「だから、もう君とは遊べない――」と言ったのがまるで聞き違ったのかと思えるくらいグレイスの気持ちはリルティに寄り添ってくれていた。


 この二人がいなかったら、たとえジュリアスがジェフリーだとわかったとしてもリルティは出会いを嬉しいとは思わなかっただろう。年月が人を変えたのだとジェフリーを忘れようと努力したはずだ。


「何があってもリルティ様は毅然とされていてくださいませ」


 グレイスはリルティに難しいことをいう。


「「お戻りをお待ち申し上げております」」


 グレイスが頭を下げたのをリルティは不思議な気持ちで見詰めた。


 フレイア王女の側付きの侍女でしかないリルティにグレイスは高貴な人に向けるお辞儀で送りだすのは、間違っていると思う。けれど、そこに込められた二人の気持ちに卑屈にだけはならないでいようと覚悟を決めた。


「行ってまいります」


 リルティは、セリア・マキシム夫人に習ったとおりに、背筋を伸ばし、顎を少しひき、優雅にお辞儀してみせた。


 ジュリアスが待つ居間に足を踏み出す。


 扉の先には、黒で統一された隙のないジュリアスが待っていた。


 ジュリアスの視線が突き刺さるかとリルティは思った。


「お待たせいたしました。王子殿下」


 絶句したジュリアスが、リルティの声に我にかえり手を差し出した。


 あえて視線は合わせないように努力した。きっと自分はジュリアスの瞳の中になにか理由を探してしまいそうになると思ったからだ。視線を自分で上げさえしなければ背の高いジュリアスの首元しか見えない。


「明日はライアンが送っていく」


 唐突にジュリアスはそう言った。


「……馬車さえ貸していただけたら、一人で帰れます」


 ライアンとどんな顔で一緒に帰れというのだろうというのだろう。


「駄目だ。一人で帰ることは許さない――」


 傲慢な人だとリルティは悲しくなる。どこまで人に指図するつもりなのだろう。


「……わかりました」


 これ以上話したくなくて、リルティは了承した。


 そして、そんなリルティの気持ちさえ理解しようとしない「君は何も聞かないんだな……。もっと怒るとか泣くとかされると思ったが――」という言葉を投げつけた。


 怒るというのなら、もうとっくに怒っているし、泣きたいとも思っている。ただ、声も涙も何もでなかったのだ。


 私は、何か足りないのだろう……。


 リルティはそんな風に自分のことを思った。


「私は、きっとつまらない女なんでしょう……」


 リルティは、ジュリアスの顔はやはり見なかった。


 つまらない女だから遊ばれた。いらなくなったから捨てられる。唯一の救いは純潔を散らされていなかったことくらいだろうか。

 それもどこまで本当のことなのかリルティにはわからない。結婚した人との初夜に純潔でないとわかって恥をかけばいいと思っていて、嘘をつかれているのかもしれないとリルティはどこまでも気持ちが沈みこんでいく。




 会場であるホールに着くと既に人々は踊っていた。


 漆黒の装いのジュリアスが、純白のドレスを着たリルティをエスコートして入ってくると、ざわめく人々の視線が二人に吸い寄せられた。ジュリアスのリードで踊るリルティの装いの美しさに女性陣は色めき立ったし、その二人の表情の硬さにリルティの友人達は何事かと見詰めた。


 二人は曲の終わりにも何も言葉を交わすことなく、離れた。


 今までどこまでもリルティを構って楽しそうにしていたジュリアスのリルティに向ける視線の冷たさに、リリアナ達はヒソヒソと噂話に花を咲かせる。


『あの女は王太子様に色目を使ったのよ』とリルティのほうを見て嘲る。


 リルティの唇の端は、よくみれば少し腫れているし、同じようにライアンの顔にも殴られたような跡があったから、そんな話になったようだった。


「リリアナ、話は聞いているか?」


 ジュリアスが、リルティから離れて歩いて行った先にはリリアナがいた。


「ジュリアス様、お話って?」


 高い声でリリアナは、嬉しそうにジュリアスに擦り寄っていく。それをリルティは、じっと見詰めていた。帰っていいとも言われなかったから、そこに留まったのだが、そこは針のむしろのような視線が突き刺さった。


「俺たちの結婚のことだ――」


 ジュリアスはそう言って、リリアナの頬に屈みこんでキスをした。真っ赤になったリリアナの顔は、リルティから見ても可憐だった。


「結婚?」


 リリアナは初めて聞く話だったのだろう。


「そうだ。遊びが過ぎた俺を許せるか?」


 ジュリアスの視線はリルティに向けられていた。その視線は冷たくリルティの心に突き刺さった。


「あの人のこと? 身分も省みず恥ずかしいひとだけど、私は気にしないわ。だってジュリアス様は私の王子様だってわかってましたもの」


「そうか。寛容な妻をもてて俺は幸せだな」


 その声はホールに響き渡った。リルティの居場所はないのはわかっていたが、足がかたまってしまったように動く事が出来なかった。ほんの十歩ほどの距離にいるジュリアスとリリアナに嘲られているとわかっているのに。


「リルティ?」


 肩を揺さぶられて、手首を掴まれた。グイグイと引っ張る力に勇気付けられながら、リルティは庭に連れ出された。


「シンシア?」


 シンシアは、泣いていた。


「なんで突っ立ているのよ!」


 怒りながら、リルティの代わりに泣いていた。


「なんで……シンシア?」


 あの場で動けたのはシンシアだけだった。マリアンヌもジョセフィーヌもロクサーヌもいたけれど、余りの出来事に誰も動く事ができなかったのだ。


「もう! 貴女は……我慢ばっかりしているから、こんな時に泣けないのよ」


 特に我慢しているわけではないけれど、シンシアの顔の化粧も落ちてしまっていて、リルティはハンカチでシンシアの涙を拭いた。


「私のことなんかいいのに!」


「シンシアはすぐ怒るから……」


 リルティは笑いが込み上げてきた。シンシアは怒るだろうけど、こうなる予感はしていたのだから、それほどショックではなかったと思う。ただ、足が動かなかっただけだとリルティは思った。


「怒るに決まってるでしょ!」


 遅れてやってきたジョセフィーヌがシンシアに同意した。


 うう――っとマリアンヌは、呻きながらやってきた。シンシアに負けず劣らず、その顔は酷かった。


「ロクサーヌ様はライアン様に話を聞きに言っているわ。どういうことなの?」


 ジョセフィーヌは泣くよりも怒っているようだった。


「どういうって……。ジュリアス様は国王陛下にリリアナ様と結婚するように言われたから、もう私とは遊べないって……」


 遊び……改めてその言葉が頭に入ってくると、滑稽に思えた。


 あの声が、あの態度が、遊びだというのなら、私は何を信じればよかったのだろう。


 リルティは、クラッと眩暈がした。先ほどから目の周りがチカチカしていたのだけど、限界だったのだろう。


「「リル!」」


 テオとロクサーヌの慌てたような声が聞こえた。


 リルティは、力なくテオに引き寄せられるように倒れた。


 何も考えたくなかった。ジュリアスの心変わりも……リリアナの勝ち誇ったような顔も、全てがどうでもよかった。


 リルティは暗闇に意識をゆだねた――。

話が暗くなると途端にペースが落ちる東雲でございます><。

しばらく不定期になるかと思いますが、お許しください。


思ったより軽めの仕上がりになったかなと思います。もっとドロドロしたかったのですが、筆力が・・・(泣)。練習あるのみですね。

お姫様が倒れるってシュチュが大好きです♪食べるシーン、キスのシーン、倒れて寝てるシーンが3大大好きシーンですよ(笑)。

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