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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編―王宮にてこんばんわ―
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王子様の側近は男装美人でした

読んでくださってありがとうございます。

 離宮はある意味、王太子殿下の西の棟や王女殿下の東の棟より豪華だと思われた。

 作りは小ぶりながら庭の作りもレンガ作りの建物自体もとても可愛らしくて、遠くからしかみたことがなかったリルティとメリッサの目を楽しませてくれた。


「素敵ですね~。でも掃除大変そうだわ~」


 ジュリアスは、抱いたリルティが段々緊張を解いていくのを感じて笑った。


「さっきまでは、変態だの殺されるだのいってたくせに、悠長だな」


「変態だと思ってますよ。あの子、凄く怯えてたし……」


「あれはな、演技だ」


「……演技って……プレイ?」


 後ろを歩いていた四人がゲホッと喉に何かをつめた様にむせるのが聞こえた。


「……もうちょっと黙ってろ」


 暗に黙らせられたくないならと聞こえて、リルティは頷く。



 女性は、ゲルトルード・タウシャーと名乗った。ジュリアス王子の乳母の娘で、今は女性ながら側近として働いているということだった。


「トゥルーデと呼んで頂戴。私も仕える身だもの、敬称はいらないわ」


 さっぱりした気質の女性のようで、綺麗な美人の出来るお姉さんという感じなのに、気さくにそう言った。


「リルティ・レイスウィードです。リルティでもリルでも呼びやすいほうでどうぞ」


「メリッサ・アドラーです」


 基本的に王宮で働く人間は、氏名は一つずつしか名乗らない。リルティは、故郷ではリルティ・マーリル・レイスウィードと名乗っていた。例えば、男爵令嬢として王宮の舞踏会に呼ばれて来ていたのなら、リルティ・マーリル・レイスウィードですと紹介しただろう。


「二人ともフレイア様の侍女なの?」


 足を出して手当てするために、ジュリアスは隣の部屋に待機している。ここには三人しかいなかったので、気安く色々ときかれる。


「はい、王太子様へのお手紙を託ってきたんです。そこで、リルがジュリアス様に突然キスされて――」


 ウッ! っとリルティは思い出したのか、手当てが痛いのか呻く。


「あ、ごめんなさい。痛かった?」


「いえ、心が痛かったです……」


 滲む涙をそっと、トゥルーデがハンカチーフで拭ってくれた。


「可哀想に。酷い人よね。女の子に勝手にキスするなんて。明日の朝の紅茶にバジルでもいれて上げるわ。そんなことじゃ気は晴れないかもしれないけど……」


 ああ、もしかしたらゲルトルードはジュリアスのことが好きなんじゃないだろうかと、リルティは思った。だから、リルティに手を出したジュリアスのことを怒っているのだろうかと考えた。でも、「王子様のこと好きなんですか?」 なんて聞けないので、話に乗る。


「バジルって浮きますから、ばればれじゃないですか」


「あの人、朝はぼんやりしてるから飲むとおもうわ」


 バジルの浮いた紅茶を飲むジュリアスを想像して、リルティは笑ってしまう。


「ふふっ、やっぱり貴女は笑ったほうが可愛いわね」


 平凡を地でいくリルティは、そんな風に言ってもらったことはなかったので、女の人だけど、とても嬉しかった。


「トゥルーデ様……」


「駄目よ、ほら、敬称はなしでしょ?」


 右目を瞑ってウィンクされると、頷いてしまう。


「トゥルーデ……」


 頬が赤くなるのを感じる。何故か、ジュリアスにキスされた時の何倍も恥ずかしくなる。


「トゥルーデ、止めてね。そのこ単純なんだから」


 メリッサが、ペシッ!と額の傷にシールを張る。


「ごめんなさいね。あなた達、本当にいい相棒ね」


 メリッサの瞳が眇められる。侍女にしてはキツイ瞳のメリッサの一睨みを受けて、ゲルトルードは微笑んだ。


「あたりまえよ! で、王子様は私達をつれてきて、どうするつもりなの? 口止め?」


 それが一番知りたいことなので、メリッサは尋ねた。


「さぁ? 私も話は聞いていないもの。向こうに美味しいお菓子も用意してるから、いらっしゃいな」


「でも、私怖い……」


 変態は美形の男の子しか興味ないと思ってたのに、こんな平凡な女にだって口付け(というか黙らせただけのような気がするが)とかする節操のなさだった。メリッサがいるからちょっとは安心だが、自分の危険なことに巻き込んだように思えて、申し訳ない。


「……そうね。約束するわ。ちゃんとここから二人で返してあげるから、あの人の話を聞いてあげてくれないかしら?」


 ゲルトルードの声は真摯で、怖いといったリルティの手を握って、安心させるように微笑む。


「……はい」


 リルティは、勇気を振り絞る。

 人には、向き不向きがあって、リルティにはあんな風に男の子を縛るような男性は恐怖でしかない。

 自分に関係ないと思ってたのに……あんな風に見に行かなければ良かった――とリルティは後悔した。好きでもない人にキスされてしまったのは、自分が好奇心に負けたからだと、反省する。


 メリッサを見ると、リルティの握られていないほうの手を握ってくれた。


「いくわよ」


 いつも自信がありげなメリッサも、些か緊張しているようだった。


 三人は不自然に手を繋いで、そして隣の部屋に向かうのだった。

ちょっとページ数が減ってますね。すいません。

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