止まらない王子様
読んで下さってありがとうございます☆
ちょっと説明が多いです。申し訳ありません><。
リルティに再会した夜、ジュリアスは周りの暗さもあって、出会ったのが自分の大事な女の子だとは気付かなかった。ただ、綺麗な声で、『変態』呼ばわりされてかなりご立腹だった。
次の日やっとライアンと時間が合ったので(ライアンは公務で忙しかったし、ジュリアスも戻ってきたばかりで顔を出さないといけいところが多かった)出掛けた部屋で、リルティに会った。
すぐにリルティだということはわかったが、『変態』と言われて昨日の女だったのかと思うと同時に、ライアンに取られたくないと思って、躊躇いもなく無理やりキスをした。
リルティにキスしていると思うだけで堪らなく満たされた気持ちになった。とりあえず、もう自分のお手つきだということだけはライアンに見せ付けたくて、「昨日、ちょっと手を出してしまいまして……。ちょっと酷くしてしまったから、変態扱いですよ。な、リル?」とそう告げた。
後になって、もうちょっと何とか言う言葉があっただろうと落ち込んだが、もう出てしまった言葉は戻らなかった。
力の抜けたリルティの頭を頷いているように手で操作したが、ライアンには不審に思われなかったようでホッとした。
ただライアンの視線が冷たく自分を見たから、ライアンもリルティを狙っているのだと危機感を募らせた。
なんとかしないと……。リルティだけはライアンにとられたくない。この大事な女をライアンが奪ったら、きっと自分はもうライアンのために生きることは出来ないだろうとジュリアスにはわかっていた。
唯一つの願いは、リルティを自分のものにすること――。それだけを願って沢山のものを諦めてきたのだ。
リルティは随分変わったように思う。
一週間しか知らないのだから、もしかすると変わっていないのかもしれないが、ジュリアスのことを『変態』だと認識し、いきなりキスしたジュリアスを避けていた。
リルティがライアンのバカンスに着いて行くと決まったと聞かされたとき、ジュリアスは初めて国王である父親と側妃である母親に願い事をした。
父親は、自分の父親を殺して地位を奪い、隣の国との戦争を収めた男だった。
母親は、婚約者であった王太子と宰相となった父親に「お前は側妃として男を産むように」と理不尽なことを言われて、受け入れた女だった。
「私はやりたいように生きる」
母は、ジュリアスを産んで肥立ちがよくなると、荒れた国内をオルグレン公爵夫人という仮の姿で周って、国を立て直していた。王宮には殆ど寄らなかった。
ジュリアスは、物心つくまで、ライアンの母である王妃を自分の母だと思っていたのだ。物心ついた後は、何故自分の母は自分の側にいないのだろうと、不思議に思っていた。
ジュリアスがそれなりに大きくなると、母はジュリアスも変装させて一緒に国を見て周わった。母があちこちの貴族の暮らしをみて、気に入れば手助けもして、問題があれば父親に知らせて明るみにでない問題を解決していることに気付いた。
「王妃になれば、この国で暮らす人々を幸せに出来ると思っていたの。でも、それは叶わなかったから、違う形で幸せに出来たらいいなと思って、陛下にお願いをしたのよ」
国王と側妃は共犯者のような関係だとジュリアスは思った。そして、それが二人にとっては最適な納得した形の愛なのだろうとわかったが、少しは子供の事も考えて欲しかった。
ライアンが学院に通い始めて、自分も一緒に勉強できるのだと思っていたら、「お前は貴族を抑える立場になるから、同じ位置に立つ必要はない。ライアンを守るための盾となれ」と、騎士団に預けられることになっていた。
知ってはいたが、現実は自分に辛いな――と不貞腐れていたら、リルティに出会った。
リルティは、大人たちの理不尽な力に押し付けられている子供達の母親役だった。自分といくつも変わらない子供達が母親を恋しがるからといって、その役目を引き受け、励まして、可愛がっているリルティを見ていると、なんだか自分が癒された。
自分の中の泣いている子供が、『リル母様』に抱きしめられているようにジュリアスは感じた。
たった一つの願い。
父親である国王陛下は言った。
「ライアン、ジュリアス、お前達が本当に願う事があれば一つだけ叶えてやる。その代わり、他のことは諦めろ。お前たちは俺の息子として生まれてきた。俺の妻となったお前達の母親にも沢山のことを諦めさせて、一つだけ願いを叶えてやった。その一つしか自由を与えてやれない俺を恨んでもいい」
傲然と父親はそう言った。
この男は、普通の国王ではない。いつか落ちてくる地位に良しとせず、父親の血で王座を染めた男だった。
この男の決断で、この国と隣の国で流される血の数は確かに減ったのだ。
ライアンはフレイアのことを願った。年離れて生まれてきた妹は、もし母と兄が隣国の裏切りによりこの国で殺されることがあっても、生きていく事ができるように国王陛下に願ったのだ。
ジュリアスはリルティに出会って、彼女に癒された時に願いは決まった――。
リルティが欲しい。誰よりも大切な彼女を手に入れることをジュリアスは願った。
父親は、眉を上げて意外そうにジュリアスを見つめていた。
「女か……。それもいいだろう。だが、好きな女くらいお父様の命令なしで射止めろよ」
「勿論だ――」
ジュリアスは啖呵を切った。それは、もう大分昔の話だった。
ライアンのバカンスに着いて行くことを国王陛下に許してもらいにいったら、「やっとか、のろまめ」と言われて、思わず持っていた書簡を投げつけた。
母親にグレイスを借り受けに言ったら「あら、もう諦めたのかと思っていたわ」と言われて紅茶のカップのもち手を破壊してしまった。
二年間、ジュリアスは気が狂いそうだったのに、両親はジュリアスの気持ちを逆撫でしかしなかった。
二年前、貴族の一派がジュリアスを擁立してライアンを排斥しようとしたのを母が知って、ジュリアスを国から遠ざけたのだ。
ジュリアスにいもしない公爵令嬢との愛情のもつれとかいう、たまたま流行っていた小説の設定を被らせたお陰で、ジュリアスはどこに行っても酷い軟派な男だと思われて、誘われた。
その間、国のあらゆる貴族はミッテンを含むジュリアスの側近に阻まれて近寄る事が出来なかった。そして、ジュリアスも国のあらゆるものとの接触を禁じられたのだった。
唯一の接点であった、毎年贈っていた感謝祭の手紙も贈り物も禁止されて、ジュリアスは忘れられるではないかと恐怖した。
本当は折々に手紙を送りたかったのだが、もし国内の反王政派にでもジュリアスの弱点であるリルティがばれてしまったら、彼女が危険だと思って泣く泣く一年に一度ジェフリーの名前で送っていたのに、それすら許さない両親と祖父に猛烈に怒りを覚えてた。
再会したリルティはジュリアスを一向に思い出してくれなかったが、それでもジュリアスは幸せだった。
グレイスに諭されて、ちゃんとした距離でリルティに愛情を示せば、リルティも少しずつ心を許してくれるようになったきた。さすが、グレイスだと乳母である彼女に足を向けて眠る事など出来ないと真剣に考えたほどだ。
リルティに何も言わないまま、王宮に戻るのも心配だったので、これ幸いとジュリアスはリルティに真相を告げた。
リルティは驚いていたが、それでもどこかホッとしていたように思うのは、自分の気のせいだろうか。
「リル、君に会いたかった」
抱きしめると、そっと腕を握ってくれたリルティに、ジュリアスは思いのたけを込めて、口付けたのだった。
逃げないリルティは、ジュリアスの胸元に顔を寄せて「私も会いたかったです」と小さな声で告げたから、ジュリアスはここにアンナを留めておいて本当によかったと思った。
そうでなければ、勢いでリルティの全てを奪ってしまっていただろうから。
リルティを大事にしたい気持ちは変わっていない。リルティが傷つくことを承知で抱いた振りをしたのは、ライアンへの牽制であって、リルティを守るためだった。
きっとリルティは烈火のごとく怒るだろう。それでも、きっと許してくれる。
好きなものにはどこまでも許容してしまう天使のような女性だから。
ジュリアスは口元が緩むのを押さえられないまま、真っ赤になったアンナに止められるまでリルティに口付けを落とすのだった。
両想いばんざーい☆




