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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編―離宮の輪舞―
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狸寝入りのお姫様

読んで下さってありがとうございます☆

 ジュリアスは自分のあてがわれた部屋で手紙を広げた。手紙というかほほ勅命だろう国王陛下からの私書だった。


『用事があるから、一度帰って来い』


 一行だけ書かれていた。


「相変わらずだなぁ。愛想もそっけもない」


 部屋に来ていたライアンが、それを見て笑う。


「どう思う――?」


 狩りが終わった次の日は、大概みんなゆっくり部屋で過ごす。ジュリアスは、昼前にライアンが部屋を訪れたので、リルティのところへ行けず、文句をいいながら相手をしていた。そこに父親である国王陛下からの手紙が届いたのだった。


「まだ国に戻ってきて政務をはじめていないお前を急ぎで呼ぶなんて、いい予感はしないな……」


「ああ。そう思うか? だからと言って無視するわけにはいかないしな」


「リルティも連れて帰るのか?」


 まだバカンスは続くからリルティは帰る必要はなかったが、ジュリアスの執心を思えば、置いていくとも思えなかったからライアンは尋ねた。ジュリアスは少し考えたのか眉間に皺を寄せる。振り切るように天井を見上げてからライアンに向かって言った。


「すぐ帰ってくるからな。リルティのことは頼む」


 ジュリアスは連れて帰ることも考えたが、まだ少しだけでも一緒に過ごせる時間があるのを諦める気にならなかった。このバカンスを過ぎれば自分も仕事が入ってくるし、思うようにリルティに会うことは出来ないだろう。


「ああ。もしかしたらリルティのこともあるかもしれないから、テオを連れて行くか?」


 リルティの王宮での後見はテオになっているからライアンは、そう提案した。


「そうだな……」


 リルティには、ここにいる女性の中では一番高位であるロクサーヌという援護も出来たし、もう野外のパーティはないから大丈夫だろうとジュリアスは考えた。リルティの叔父という煌びやかなテオという人物のことも知りたかったから丁度いい。


「テオの代わりにミッテンを置いていく」


「ミッテンかぁ、厳しいからいらない――」


 真面目で強くて、でかくて、頼りになるが、王族にも厳しい男だ。


「……ライアン……」


「はいはい。わかってるよ。ミッテンを側に置いてたら安心だ――」


 ジュリアスがライアンの心配をして言ってるとわかっていても、ついついジュリアスをからかってしまうのは、癖だから仕方ない。


「早く帰って来い。お前がいないと退屈なんだ――」


 ライアンがそういうと、ジュリアスは普段見せない自然な微笑を浮かべた。


「親父様次第だな――」


「仕方ないな部屋にもどるよ。昼はリルティと過ごせばいいさ」


 気を利かせてライアンが立ち上がると、ジュリアスは「すまないな」と全然そんな事を思っていない顔で送りだそうとする。この顔を見ると意地悪をしたくなるのは、何故だろうかとライアンは酷い事を思ったが、それは実行に移さないで部屋を出た。


 早く自分の婚約者が嫁いでくればいいのに。そうすればジュリアスのように楽しい毎日を過ごせるのだろうと思った。




 ジュリアスがリルティの部屋を訪れると、アンナが出迎えた。


「リルは?」


 アンナは少し考えたが、最近のジュリアスの行動を思い出して、「少しお休みになってます」と告げた。


「具合が悪いのか?」


「いえ、昨日は夜遅くまで本を読んでいらしたので、お食事をされた後少しまどろんでらっしゃたので寝台でお休みいただいたのです」


「良かった――」


 ホッとしたように溜息を吐いたジュリアスはリルティのいる寝室の方をみて、考えこんだ後に「少しだけ寝顔をみたい」とアンナに言った。アンナはグレイスの言いつけがあるので何とも答えられなかった。


 ジュリアスは「悪いが、一緒に部屋に来てくれ」とアンナにお願いをした。


 部屋は広い。アンナは気まずい気持ちで扉の前に立った。


 ジュリアスは、眠るリルティの顔をとろけそうな顔で見つめていた。


「リル母様……」


 ジュリアスの呟きに驚く。


 愛しい女性に母様? アンナはジュリアスの気が触れたのとか真剣に思った。


「え? ジュリアス様――?」


 今眠っていたと思えない素早さでリルティは起き上がった。


「リル? ……寝てたんじゃ……」


「あ……。だれか入ってきた気配がしたから……」


 目が覚めたが、寝たふりをしていたのだった。リルティは、ジュリアスを見つめて、その後恥ずかしそうに俯いた。俯いたら、自分が夜着で眠っていた事に気付いて、慌てて上掛けを肩まで上げた。


「今、リル母様て呼びましたよね? なんで――?」


 リルティの問いにジュリアスは口元を押さえたが、もう聞かれなかったことにはしてくれないだろうと諦めた。がっくりと、座り込むと「気付いてくれるまで黙ってようと思ってたのに……」と小さな声で呟いた。


 顔を上げたジュリアスの顔はリルティの顔に負けずに真っ赤だった。


 ジュリアスの常にない照れた顔にリルティは言葉を失った。


 不謹慎だが、可愛い……と思ってしまった。


「リル母さん、ジェフリーと言えば?」


「ジェフリー父様?」


 更にリルティが謎の言葉を口にした。アンナはどうしようかと思いつつ、夜着のままだと寒いかもしれないと心配になった。


「リルティ様、お話の前にどうぞお着替えを……。ジュリアス様、大事なお話のようでございますから……」


「ああ、助かる。なんて言えばいいのかずっと考えてたのに、今のですっかり飛んでしまった……」


 ジュリアスの顔は照れてはいたが、戸惑うリルティをじっと見つめていた。ごまかそうとかそんな顔ではなかったので、リルティも頷いた。

 


 リルティの着替えを手伝い、紅茶を入れた後、アンナは退出すべきかどうか迷った。


「アンナには助けられてるから、一緒に聞いてくれていい」


 ジュリアスは、緊張して顔を強張らせているリルティのためにアンナにそう言った。


 

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