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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編―離宮の輪舞―
33/92

王子様と幼馴染

読んで下さってありがとうございます。

 ジュリアスは、ライアンの少し後ろに騎馬をつけた。


 何組かに別れたが、ライアンの側には、将来王の側近となるものだけが同じように歩みを進めることが出来た。


「鹿の足跡があります」


 今日は護衛騎士は十人と少ないが、選りすぐっているだけあって、心強い。周囲を警戒していると、ライアンが呆れたように振り返った。


「ジュリアス、ちょっとは楽しんだらどうだ?」


「楽しんでいるから気にしなくていい……」


「ライアン様がおっしゃっているのに……」


 はいはいと気にしなくていいと手を振ると、セドリックが怒りだした。


「だからお前達と一緒にくるの嫌なんだよ……」


 ジュリアスは思わず本音を漏らした。

 それくらいには幼い時から一緒に遊んでいる間柄だった。マルクスとセドリックは二人の王子と年も近いのでよく王宮に招かれていた。皆ライアンのことが好きだという共通項で結ばれているが、セドリックは何かとジュリアスに突っかかってくるので、面倒くさいとジュリアスは思っている。


「ジュリアスもセドリックもいい加減にしろ。ライアンには獲物を仕留めてもらわないといけないんだからな」


「お前のほうが猟は得意だろ。適当に仕留めて全部ライアンの手柄にしたらいいじゃないか……」


 ジュリアスは狩りがそれほど好きではない。野外で少人数になることからライアンの警護が心配で獲物がどうとかどうでも良かった。


「そんな馬鹿なことが出来るか。俺が仕留めたら俺のものだ」


 マルクスは真面目に答えた。


「そういうやつだよ、お前は。ほら、鹿がいるぞ」


 ライアンとマルクスが同時に構える。


 その瞬間、森の木漏れ日というには鋭い光がジュリアスの視界に映った。


「伏せろ!」


 瞬間、ジュリアスは馬を進めてライアンの前に立ちふさがった。


 カンッとジュリアスはナイフで、投げつけられた刃をはじいた。


 ドン! と音がしてマルクスの銃が火を噴き、木々の隙間から人が落ちていくのが見えた。


「ミッテン、捕まえろ!」


 護衛騎士は半数を残してその場の警戒と追跡に向かった。


「ライアン、無事か?」


「ああ。だから、お前は――、私の前に出るなといってるのに……」


 頭を抱えたのでセドリックは「頭が痛いのですか?」と心配そうにライアンを見た。


「いや、馬鹿な弟に頭が痛くなっただけだ……」


 ライアンは、直ぐに自身を弾除けに使おうとするジュリアスに何度も「止めろ」と言ってきたが、ジュリアスは聞かない。いつもは後ろにいるのに、何事かが起これば、いつもライアンを庇うように行動する。それはこの幼馴染たちも一緒で、いつもは大して仲がいいわけでもないのに、一瞬でライアンを囲むようにして、護ろうとする。


 理由が王太子という身分だけでないことは、ライアンもわかっている。嬉しい気持ちも勿論あるのだが、兄は弟を護るものだと小さいころに言われて育ったので、ジュリアスやセドリックのことが心配になるのだ。マルクスは自分より年上だし、一人だけガタイのいい一人前の男になったのであまり心配はしていないのだけれど。


「ジュリアス様、既に自害したようで事切れておりました。周囲の警戒は続けておりますが、他に刺客はいないようです」


 ミッテンは戻ってきて、ジュリアスにそう告げた。


「銃でなくてよかったな。まあ無駄だとは思うが、遺体は騎士団で収容し、少しでも手がかりをさがせ」


 ミッテンは頷くと、指示を出しにいった。


「さあ、鹿は行ってしまったからな。熊でも探そうか」


「王太子様! 一度もどってはいかがでしょう?」


 ライアン付きの騎士隊長がそう提案したが、ライアンは「手ぶらで?」と嫌そうに言った。


「ですが……」


「責任はジュリアスが持つよ。さ、今日は熊鍋だよ」


 なんで俺が……とジュリアスは思ったが口には出さない。出しても聞いてもらえるわけがないからだ。


「熊鍋か~。おれ、鹿がいい」


 セドリックは熊鍋があまり好きではなかったなと、ジュリアスは思い出した。ジュリアスは二年も外国に行っていたので、すっかり忘れていたのだ。


「久しぶりにジュリアスもいることだし、熊も鹿も仕留めてもらえばいいさ」


 ライアンは人事だと思って適当にセドリックに相槌を打っていた。


「ジュリアス、連れ来た女の子ばっかり構って、おれたちとは全然遊ばないもんな……」


「大体なんで紹介しないんだ?」


 マルクスも頷いて聞いてくる。


 リルティに夢中で男友達を放置していたつけがここに来たらしい。根堀葉堀聞かれて、ジュリアスは逃げるために「よし、鹿だ」と馬を駆けさせた。


「あ、逃げた」

「この野郎、待て」

「名前くらいおしえろ~」


 三人は、ジュリアスを追いかける。勿論護衛騎士も遅れずについて来ていた。

 

 久しぶりに男だけのむさくるしくも気安い時間がもてたことに、ジュリアスもライアンも顔には出さないが喜んでいるのだった。


 その後は襲撃はなく、ライアンが一頭マルクスが一頭の鹿を仕留めた。セドリックはうさぎを二羽仕留めたから、セドリックが一番ともいえる。


 ジュリアスは三人のフォローをして終わったから、いつもといえばいつもの成果に思わず苦笑した。


「なに笑ってんの?」


「いや、リルに成果を約束しなくて良かったなと思って」


「リルっていうのか? おれのうさぎ一羽やるよ」


「セドリック、リルって呼ぶな――」


 機嫌が悪くなったジュリアスの脇腹に肘をいれて「心の狭い男だな。じゃあなんて呼べばいいんだよ」と文句を言う。


「お嬢さんでいいだろ」


「「「うわ、狭すぎ」」」


 思わず三人は同時に突っ込んだ。


「リルには、これを渡すからいい」


 馬の手綱をライアンに渡して、ジュリアスは馬から下りた。


「セージだ。お茶にしてもいいんだが……」


 喜んでくれるといい……とジュリアスは持っていたハンカチでブーケのように包んだ。


「リボンもあったほうがいいだろう」


 マルクスが渡してくれた緑のリボンで縛ると、ピンクパープルの花の可愛いブーケになった。


「なんでリボンなんかもってるの?」


 ライアンが聞くと「髪が邪魔な時に」と、自分の髪を結ぶように持っていたという。出来ればそんなリボンは嫌だったが文句は言えなかった。


「紹介しろよ」


 マルクスが笑いながらそういうと、ジュリアスは顔を顰めながら、「嫌だ」ときっぱり断った。


「「「だから狭すぎだって」」」


 ジュリアスは、その後何度いわれても頷く事はなかった。

暗殺が・・・刺客が・・・とか言いながら一回も出てきていないなと思ってかいてみました。ライアンとジュリアスの仲のいいところも書きたかったのです。

 人がやたらと増えるこの話ですが、皆様ついてきてくれていますでしょうか(笑)。セドリックもマルクスもいいとこの坊ちゃんです。

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