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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編―離宮の輪舞―
29/92

ある侍女からみた王子様 2

読んで下さってありがとうございます♪

 忙しかった……。もうめまぐるしくて、グレイスとソファに座り込んでしまった。


 アンナたちが王太子殿下のゆっくり進む馬車を追いかけて、たどり着いたのは丁度ジュリアス達が城館についた直ぐ後だった。


 着いて直ぐの王太子とジュリアスの晩餐に着ていくリルティの服を用意して、二人は部屋を訪れた。直ぐに使う物はわかりやすい手前に用意していたので、リルティを待たせることはなかった。


「リルティ様でいらっしゃいますね。グレイスと申します。こっちはアンナ、リルティ様のお世話をするように命じられております。よろしくお願いいたします」


 グレイスの隣で頭を下げていると、戸惑ったような女性の声が躊躇いがちに言葉を発した。


「あの、リルティです。私……」


 グレイスは、彼女の不安を微笑みで吹き飛ばす。


「窺っております。ご安心くださいませ」


 そういわれたリルティは、瞬き後に頷いてみせた。


 グレイスの指示でリルティを着替えさせるアンナによどみはなかった。


「お美しいですわ、ね、アンナ」


 グレイスは満足げに笑む。


「ありがとうございます。思い残すことはありません」


 リルティの感激の声に思わずアンナとグレイスは笑ってしまったが、気分を害するかと思ったリルティは、場が和んだのにホッとしたようだった。


「見違えた。グレイス、アンナいい腕だな」


 やってきたジュリアスは相変わらず黒を基調とした色味で、闇に紛れるようだった。

 アンナは、その口調に少し不満に思う。どうせ感嘆するなら、言い様もあるのにと思った。


「ジュリアス様」


 険のこもったグレイスの声にハッとジュリアスは我に返ったようだった。


「見蕩れて我を忘れるのは結構ですが……」


 この王子が我を忘れることなどあるのかと、アンナは意外に思った。アルハーツ国で外交していたジュリアスは、完璧なほど冷静だったのだ。


「リル、美しい――」


 少し恥ずかしそうにジュリアスはリルティを褒め称えた。


 リルティは、アンナにもグレイスにも向けなかった少し緊張して警戒しているような顔で、ジュリアスの後を着いて行った。



「ジュリアス様、あのご令嬢のことが好きなんですよね?」


「ええ。ずっと昔から大切にしてきた方よ」


 グレイスはごまかす事もなく、きっぱりとそう言った。


「ではリルティ様も、ジュリアス様のことを……?」


「多分知らないんじゃないかしら……」


 そうですよね~。あれは、知っていて恋焦がれている女性の表情ではなかったし。


 アンナは、リルティのさっきまで着ていた服を片付けながら、グレイスと話をした。


「遊びじゃないんですか?」


 当然の疑問だったが、言いづらかった。昔から大切にしてきたにしては、慌しい。


「遊びじゃないわよ。多分……、遊びで私にお願いはしないでしょう」


 グレイスの言葉は、間違いはない。確かに、側妃の女官長を呼び寄せてまで、遊びに力をいれるような男性ではないだろう。

 二人が部屋を片付けて、控えの間で軽い食事をとって休憩しているところに、ジュリアスさまがリルティ様を連れて帰って来た。


 リルティ様は、酔っていた。


 服を着替えさせるアンナの頬にキスをして、グレイスの瞼にもキスをした。


 ああ、酔うとキスをしたくなる人っているわよね……。


「ジュリアス様、女性をこんなに酔わせるなんて……」


「リル、俺には?」


 リルティ様が着替えられるとジュリアス様は自分も夜着に着替えて寝室にやってきて、リルティ様にキスをねだられた。


「ジュリアス!」


 グレイスの一喝にジュリアスも抱きついてくるリルティをアンナに任せて、何事かを告げていた。


 あのジュリアス王子が頭を下げている……。


 アンナはソファに座り、抱きついてくるリルティの背中をポンポンとあやした。眠たかったのかリルティはアンナの胸で眠り始めた。


 グレイスに頼みごとをしたジュリアスは、アンナからリルティを引き剥がして、胸に抱き上げた。


「リル……」


 彼女の瞼にそっと口付けを落とすジュリアスは、満ち足りて美しかった。


「疲れているだろう。アンナはもう休んでくれ。いきなりこんな場所についてきてもらって、困惑しただろう。しばらくリルティのことをよろしく頼む」


 アンナはねぎらいの言葉をかけられて、いささか拍子抜けした。


 ジュリアスは寝室にリルティを抱いて入っていってしまった。その後で返事を忘れたことに気がついた。


「グレイス様、リルティ様は……」


 おそるおそるグレイスに問いかけると、「わたくしが見張ります……」と飲み物を用意して寝室に入っていってしまった。


 王族の閨の作法など知らないが、まさか……とアンナはグレイスの去った扉を見つめた。


 まさか見ているつもりじゃないわよね……と、アンナは少し赤くなって頭を振った。


 次の日に聞かされた話しだと、リルティ様には誤解させておくために胸元に印をつけたこと、体が異様にだるくなる二日酔いの薬を飲ませたこと、王太子様に聞かれても誤解を解かないようにということだった。


 何故、リルティ様に誤解させるのかアンナにはわからなかった。


 リルティが沈む姿をみると、何度話したくなった事だろう。けれど、グレイスが「今だけお願い」というので、仕方なく頷いて、リルティを少しでも癒そうと努力するのだった。


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