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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編―離宮の輪舞―
25/92

薔薇のような王子様

読んで下さってありがとうございます。

 次の日の朝には、頭が痛いのも治まっていた。


 リルティは、目を醒まして一人で寝ていたことにホッとする。なんだかトラウマになりそうな昨日の目覚めは記憶から消去したい。


 足の痛みも治まってきたし、額の傷は少しみっともないが大丈夫そうだった。


 そういえば、昨日は叔父様の様子を見に行くことができなかったなと思う。まぁ叔父様のことだ、大丈夫だろう。


「リルティ様、おはようございます」


 アンナが側に着いていてくれていて、目覚めたのに気付いて声をかけてくれた。


「おはようございます、アンナさん」


 昨日も随分お世話になってしまって、少し恥ずかしいが、頼れるお姉さんという感じのアンナにリルティは朝の挨拶をした。


「アンナで結構ですよ」


「いえ、私こそリルティでお願いします」


 侍女としても先輩のはずのアンナに呼び捨てなんて出来ない。


「ジュリアス様に怒られてしまいますわ」


 そう言って笑ったアンナに、リルティは少し引きつった笑みを返えした。


「昨日は皆様にご迷惑をおかけしてしまって……」


「リルティ様が悪いわけではございませんもの。お気になさらず。折角のお休みでバカンスなんですから、楽しまないと損ですよ」


 リルティの着ていたものを脱がして、少し落ち着いたチョコレート色の昼に着る用のドレスに着替えさせてくれる。白いレースのフリルが沢山ついてるから落ち着いた色なのに可愛いくて、リルティは嬉しくなる。


「今日は頭も締め付けないほうがいいでしょうから、髪飾りだけで、おろしておきましょうね」


 コルセットも締め付けないもので、気を使ってくれていることがわかって、リルティは申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちで一杯になる。


「お食事はいかがいたしましょうか。もう直ぐジュリアス様もいらっしゃると思いますが……」


 ジュリアスが来ると聞いて、リルティは少し怯む。空いていたはずのお腹なのに、なんだかあまり食べたい気持ちがおきない。

 リルティの気持ちを知ってか、アンナは困ったように微笑む。


「ジュリアス様には、まだご気分がすぐれないので、お部屋で一人でお食事されると伝えましょうか」


 そんなことが許されるのかと目で窺うと、「今日は特別です」と至極真面目に答えてくれた。

 アンナからの伝言を聞いてか、ジュリアスは朝食の時間には訪れなかった。代わりに小さな薔薇の花束をリルティに届けてくれた。淡いピンクの薔薇は、朝露に濡れてとても瑞々しくて美しかった。綺麗に棘をとられていて、触っても大丈夫なようになっていて、リルティはその薔薇を指先で突いた。


「なんだか美しいのに棘が沢山あって、ジュリアス様は薔薇のようだわ」


 薔薇を見ているとそう思えた。ぼんやりと呟いて、ハッと気付いた。アンナはジュリアスの侍女なのだ。言ってはいけないことだったと、口を押さえると、アンナは少し寂しそうに「薔薇は好きじゃありませんか?」と尋ねた。


 リルティは俯きがちに薔薇を見つめる。


「薔薇は美しくて、嫌いじゃないわ……。でも豪華すぎて、私には似合わないと思うだけ」

 

 アンナは、リルティの気持ちが痛いほどよくわかる。そして、ジュリアスの気持ちもわかるだけに、少しだけジュリアスの肩ももつことにした。


「その薔薇の棘は、ジュリアス様が抜かれたようですよ。薔薇も自身の棘で貴女を傷つけたことを後悔しているようです」


 リルティは予想外なその言葉に驚いて、薔薇を見つめた。


「さあ、食事の用意ができましたよ。花は花瓶に生けましょうね」


 アンナが手を差し出しても、リルティは薔薇を見つめていた。


「私が生けます……。花瓶を貸していただけますか?」


 薔薇の気持ちが、少しだけ伝わったようだとアンナは安堵した。


「はい。少しお待ちくださいね」


 アンナが用意してくれた食事は、どれも美味しくてリルティはお腹一杯食べてしまった。「お腹が苦しい」というと、中庭を散歩したらいいとアンナは提案してくれた。昨日の夜は皆遅くまで起きていたらしいから、きっと独り占めじゃないかと思うと嬉しい。

 昨夜のことを思うとあまり人と会いたくない。


 ライアン王太子とダンスを踊っただけでも怖ろしいのに、ジュリアスに抱かれて退出するなんて、どんなけ昨日の話題をさらっただろうかと思う。きっと、身分も省みず王子様たちを惑わす悪女かだらしない女だといわれているだろう。想像するだけで、ゾッとする。


 着いていくというアンナを説き伏せて一人で庭を歩く。元々この城は、ワイナリーがあったり森の側だったり、王族の遊びのための城館だ。こじんまりしてはいるが、その造りは立派で、庭にしても丹精に造られている。田舎の風景が広がっていても、リルティの家がある田舎とはやはり違った。


「どんぐりは食べないほうがいい」


 あまりに大きな椎の実が落ちていたから拾っていたら、そう声を掛けられた。


「食べません! 大きいからフレイア様にみせようと思って……」


 折角散歩を楽しんでいたのにと溜息を吐きそうになって、慌てて飲み込む。


「今日は髪の毛を下ろしているんだな。そのチョコレートの色のドレスもおい……っ、似合っている」


 ジュリアスは美味しそうと言いかけて、グレイスの言葉を思い出してやめた。


「ありがとうございます……」


 一歩後退るリルティは、それ以上踏み込んでこないジュリアスを不思議に思いつつホッとする。ジュリアスなら美味しそうだといったらそのままキスされてもおかしくなかったからだが、似合うと言われて、安心するのと同時に意外に思った。


「少し散歩しないか?」


 ジュリアスに問われて、リルティは頷いた。今日のジュリアスなら、側にいても怖くないような気がしたからだ。

 ジュリアスがゆっくりと歩き始めて、リルティはその後ろをついていった。


「そこじゃ話せない」


 リルティがいつまでも後ろにいるのにじれて、ジュリアスはそう咎める。


「薔薇の花、ありがとうございました」


 一人分の距離を開けて、リルティは歩く。見上げて、朝の花束のお礼をいうとジュリアスはそれこそ薔薇が綻ぶ様に微笑った。

 

「リル、足は痛くない?」


「はい。もう大丈夫です」


 温泉が効いたのか思ったより早く痛みがひいたと告げると、よかったなとジュリアスは言う。


 一人分の距離が開いたまま、一度もジュリアスはリルティに触れることはなかった。リルティはその距離に安心して、いつもより緊張せずにジュリアスと話すことが出来た。時折現れるリスやウサギに心を癒されながら、リルティはここに来て、初めて心から微笑むことが出来た。

友達にあらすじを話したら「その王子様下種ゲスやな」と言われました(笑)。え、純情で、直情で我慢の出来ないこなだけなのに・・・と思いつつ、「確かに下種だわ」と納得しました。小説書き始めてから色々自分の内面がだだ漏れてきました。S属性で下種好きーなようです。

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