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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編―離宮の輪舞―
22/92

ダンスは王子様と一緒に

読んで下さってありがとうございます☆

 昨日は三人しかいなかったから食事に呼ばれたのだと思っていた。


 額の傷はグレイスが素晴らしく巧みに隠してくれたし、前髪も下ろしているから目立たないだろうが、足の痛みはダンスに耐えられるとは思えなかった。風呂に入った時も痛くて叫びそうになったというのに。


「父にリルティが心細い思いをしないようにと言われているんだ」


 周りの目を気にしてかライアンはそう言って、リルティの手をとった。

 ザワッと周りのどよめきが、リルティの停止していた頭にも届いた。


 足が痛いといって、逃げれるような雰囲気ではないような気がした。


 ホールの中央に王太子殿下に手をとられて立つ。

 どんな女でも最高の憧れだろう。市井の少女だって物語の王子様に夢を見るというのに、リルティには嬉しいという気持ちにはなれなかった。


 リルティは戸惑いの顔を捨てきれなかったが、ライアンの前で優雅にお辞儀で応えた。セリア・マキシム夫人に二年も仕込まれているので、立ち居振る舞いに不安はなかった。ただ、針のむしろのようなこの場所に挫けずに立つことの精神的苦痛だけは緩むことがなかったが。


 フレイア王女のワルツの練習は、父親である国王様やライアン王太子が時間をとってよく行われている。その度に護衛としてやってきたテオなどに手をとられてリルティも踊ることにになる。輪舞はもちろん、ワルツなど二人で踊るにしても他のカップルをよける練習になるからだ。


 スローテンポな曲で良かったとリルティはホッとした。距離が近いのが気になるが、足が痛くてもついていけないほどではない。


「リルティ、昨日は大丈夫だった? あまりお酒は得意じゃないんだね」


 クスリと笑われて、どんな醜態をさらしたのかとリルティは戦々恐々とした。


「あまり嗜まないもので……」


 家でも王宮で勤めてからも沢山飲んだことはなかった。小さい頃に姉妹でこっそり飲んだときに酷い酔い方をしたらしく止められていたのだ。大人になったから大丈夫だと勝手に思っていたが、親の言いつけは守るべきだったと、後悔している。

 昨日は、そんなに飲んだつもりはなかったのだが、口当たりの良いワインは思っていたより度数の高いものだったのだろう。ジュースのように飲んでしまったという覚えはあった。


「ジュリアスはちゃんと部屋に送ってくれたかい?」


 リルティは、顔を強張らせて、なんとか頷いた。リルティの表情に不審なものを感じたのかライアンは、躊躇いながら耳元に口を寄せて囁いた。


「困ったことがあったらいいなさい。テオの大事な姪っ子なんだ、フレイアも姉のように慕っているしね、リルティは特別なんだよ」


 ライアンの言葉は優しくて、親切で、リルティの心にそっと染み込んでいく。


「困ってることはない?」


 今困ってるのは、この身体の近さだったが、そのお陰で足に負担がかからないので、リルティは首を横に振る。


 朝の出来事は出来れば誰にも言いたくない。


「グレイス様とアンナさんが親切にしてくれて……もったいないくらいです」


「グレイス?」


 ライアンは、驚いていた。やはり、リルティの世話をしてくれてるのが女官のグレイスというのは、予想外のことだったのだろうと思う。


 申し訳なく思っていると、ライアンは不意に立ち止まった。体勢が崩れてライアンの胸元に倒れこみかけたところに後ろから肩を掴まれた。


「俺には側に寄るなと言っておいて……」


 ジュリアスは、ライアンに怒っているようだった。黒衣の王子様は、不機嫌になると途端にその場所を凍らせる。主に凍ったのはリルティだったが。

 ジュリアスが怒っても怖くないのだろうライアンは、パッと手を離して、振ってみせた。その姿がコミカルで、王太子様なのにと微笑えてくる。


「足は痛まないか?」


 フワリとお姫様のように抱き上げられて、そう尋ねられた。


「そうだった、すまない――。リルティ、足の怪我のことを忘れていた……」


 ジュリアスの言葉にリルティが怪我をしていたのを思い出したライアンは、リルティに謝ってくれた。


「いえ、大丈夫です。ジュリアス様、下ろしてください……」


 恥ずかしいというより居た堪れなくて、リルティは小さな声でジュリアスに懇願したが、聞き届けられることはなかった。反対にギュッと抱きしめられて、リルティは腕の強さに身を捩った。


「ライアン、温室をかりるぞ」


「えっと、ちょっと……ジュリアス? お兄様は、困っちゃうぞ――」

 

 おどけてはいるが本気で困っているライアンは、既に自分の前からいなくなったジュリアスにそう言った。


 自分がリルティを最初のダンスに誘ったのがキッカケの一つだとはわかっていたが、この固まった空気をどうすればいいのかライアンは思案に暮れる。


 とりあえず、踊ろう――。それがいい――。


「音楽を! 輪舞を踊ろう」


 気を取り直して、そう言うと、楽しげな曲が流れる。流石に王宮に仕えている楽師たちは、ライアンの要請を受けて、類まれな楽の演奏を速やかに爪弾くのであった。


 ライアンは、そっと護衛の騎士を呼ぶと、「誰も二人の邪魔をしないように温室への通路を塞げ」と笑いながら命じた。


「貸しはでかいぞ、ジュリアス」


 ライアンは、溜息と共にそう吐き出した。


 踊りたくても踊れなかった人達も、輪舞ならばと集まってくる。一部を除いて、楽しげになったホールで、パートナーを入れ替えながら、クルクルと花が舞うように色とりどりにドレスが回っていくのだった。

ライアンをらいで登録したものの癖でライアン打ってしまい、ライアンアンとなった文字をみて、なんかいや~と笑ってしまいます。癖って怖いですよね~。

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