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午後十時の王子様  作者: 東雲 さち
本編―離宮の輪舞―
21/92

遠く輝く王子様

読んで下さってありがとうございます☆

 昨日の料理も酔う前の記憶の限りでは素晴らしかった。


 若いものしかいないこのパーティは、随分くだけていて、リルティもホッとした。

 お腹がすいたものは、好きに料理をとって小さなテーブルに運んで食べるようになっている。頼めばその辺の侍女や給仕のものが取ってきてくれるようだったが、どうせなら自分の食べたいものを選んで、好きに食べたい。

 綺麗に見えるように、美味しそうに見えるように皿に盛り付けることがリルティは得意だった。小さな時から、男爵家が支援している村の教会でよく子供達の食事の支度を手伝ったりしていたのだ。女の子達は、綺麗に盛り付けてあげると喜んでくれるから、リルティはいつしかそういうことが好きになったのだった。


「あら、貴女のお皿とても綺麗ね」


 同じように料理をとって同じテーブルについた令嬢が、そう言ってリルティを見た。

 もう既に出来上がっているグループは、王太子様と仲の良い高貴な方々の第一グループ、その中に入りたいけど、入れない第二グループ。少し勇気の足りない同姓だけで集まったグループと、一人か二人で好きなことを(食べたり音楽を奏でたりしている)人達の合計で三十人強の人々がホールにはいた。



「貴女あまりお見かけしないけれど、どこのお家の方?」


 その令嬢は、同姓のグループのようで後二人の令嬢と見たことのないリルティに声を掛けたようだった。


「レイスウィード男爵家のリルティです」


 さっさと食べて出来るだけ人とは接しないようにと思っていたのに、まさかの質問だった。無視するわけにもいかないので、答えたものの、令嬢達は一瞬目を見開いて、驚いたように顔を見合わせていた。


「貴女、場所間違ってるんじゃないかしら?」


 三人の中で少し年上の女性が、咎めるように口を開く。


「シンシア、理由があるかもしれないし、一概に責めてはいけないわ」


 最初に声を掛けてきた令嬢が、友達を止めようとする。


「ね、貴女、何か理由があるの? ここは伯爵家より上のお家の令嬢が集められているのよ」


「マリアンヌ、偶々伝手か何かで忍び込んだんでしょ。そんな方に親切にするなんて。ね、ジョセフィーヌ」


 二人に視線を向けられて困ったようにジョセフィーヌと呼ばれた女性は、リルティを見つめて聞いてきた。


「貴女、その宝石は貴女のものなの?」


「いえ、借り物です」


 分不相応だと思われたのだろう。確かにリルティには一生お目にかかれないような豪華なネックレスだ。居心地が悪い。こんな側で騒がれたら、食事をとることも出来ない。

 昨日の夜からほとんど食べていなかったので、お腹がすいていて今にも鳴りそうで困る。


「シンシア、この方の宝石はとても素晴らしいものだわ。きっとその方に誘われてきたのよ。ね、そうじゃなくて?」


 戸惑いながらもリルティは頷いた。

 ジュリアスから借りて来た宝石だし、ジュリアスの女官が行ってきていいといったのだから、間違いではない。


「ほら、シンシアもお食事いただきましょ? 早くしないとダンスが始まっちゃうわ」


 ダンス? それはマズイ。まだ身体は本調子ではないし、間違ってダンスにでも誘われたら大変だと、リルティは、急いで食事をすませた。


「貴女食べるの早いわね。それなら私達のデザートとってきてくれないかしら?」


「シンシア、失礼よ」


 マリアンヌが咎めるが、シンシアは当然のようにリルティに「チョコケーキがいいわ」と言う。

 リルティは、侍女をしているせいもあるが、自分が動く事を苦に思うことはない。もともと田舎の領主の五番目の娘なんて、そんなものだと思っている。


 デザートを取りにいくと、少し離れたところにジュリアスとライアンを取り囲んで楽しげに盛り上がっている第一グループがいた。華やかな人々の群れは、やはり他のグループとは違ってきらびやかだ。そこだけ光が当たっているように思える。

 ライアンが何か言うと、ジュリアスが口元に笑みを漂わせ言い返している。こうやってみると、仲のいい兄弟だと思う。この二人はきらびやかな人々の中にいても存在感が違う。何がそんなに違うのだろうかとリルティは不思議に思って、遠くから見つめた。


 さっぱり解らない――。


 リルティは、考えるのを諦めて、改めてその取り巻きの人々を観察する。

 多分第一グループの人たちは、王家に近い人達や侯爵家などのとても身分の高い人達で、二人とも昔からの知り合いなのだだろう。屈託なく笑う姿は、気の置けない仲間たちのようだった。

 ジュリアスに微笑みかける美しいお姫様は、彼の手をとって、ホールに駆けていく。ジュリアスも満更でもないのだろう。お辞儀をして、彼女と踊り始めた。お姫様は、まだ十六歳くらいの少女で、華奢な肩、小さな顔、大きな瞳が印象的な物語の中のお姫様のようだった。

 王子様は、お姫様がやっぱり似合うんだなと、リルティは思った。


 ぼんやりとそれを見ていると「どうしたの? ケーキ迷っているの? どれも美味しそうよね」と、マリアンヌが横に来て、一緒にケーキを選んでくれた。

 

「シンシアのことごめんなさいね。悪気はないのだけど……」


 プライドが高いのと言うのかと思ったら「馬鹿なの」と言った。


 リルティは、たまらず噴出した。高貴なお嬢様の口からそんな言葉が出てくると思わなかったのだ。


「ちょっと、何、人の顔をみて笑っているの」


 リルティとマリアンヌが、ケーキの皿を二つずつ運んでいくと、シンシアは笑う二人にそう言って怒った。


「なんでもないわよ。ほら、早く食べないとダンス終わっちゃうわよ」


 マリアンヌに言われて、シンシアは憮然としながらも「ありがとう」とリルティにお礼を言って食べ始めた。それほど、悪い人ではないようだった。ただ、馬鹿なだけでと、さっきのマリアンヌの口調を思いだして、リルティはチーズケーキを気管につめそうになりながら、笑いが込み上げるのを我慢するのだった。


 なにかれと話してくれるマリアンヌと楽しくお喋りして、美味しいケーキを食べていても、瞼の裏でさっきの楽しそうなジュリアスの顔が思い浮かぶ。


 私には見せたことのない顔だな――と、リルティは思った。

 


 リルティが、チーズケーキを食べ終わった頃、一緒にいた三人の目が大きく見開かれて、驚きに口を開けたので、なんだろうとリルティは後ろを振り返った。


「昨日ぶりだね。リルティ。踊ってくれませんか?」


 後ろから気安い声を掛けられて、呆然としてしまう。


「ライアン王太子殿下……」


 なんだってここに、王太子さまが――?


 リルティだけではない、三人の談笑していた令嬢達も一緒に固まって、そこにいるはずのないライアンに驚き、見上げるのだった。

ノートパソコンを膝に置いて打ちやすそうな座椅子を買ってしまいましたw。なかなか具合がいいです☆

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