王子様からの贈り物
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リルティは体調不良のため午餐を断り、ゆっくり眠ることが出来た。
何故かとても眠いのだ。頭がずっとぼんやりしているような気がする。
「薬が効きすぎたかな……」
ジュリアスの声が遠くで聞こえたが、何をいっているのかはよくわからなかった。
そういえば、頭が痛いからといって薬をもらったような気がする。
「もう少し寝ておいで。俺のリル……」
甘い声が耳元で囁く。
夢をみたような気がするし、見なかったような気もする。なんだかくすぐったい気持ちでリルティはもう一度深い眠りに落ちた。
目が醒めると、カーテンの隙間から見える外の色は暗色で、リルティは愕然とした――。
「頭の痛いのはおさまりましたか?」
アンナが心配そうに尋ねてくれて、そういえば痛かったわねと思い出す。
「ありがとうございます。すっきりしてます」
これだけ寝れば、すっきりもするわよねと、リルティは自分のことながら心の中で笑った。きっとアンナも呆れているだろう。
二日酔い恐るべし! やはりもう二度と飲むのはやめておいたほうがいいだろうと決意を新たにする。
「テオ・レイスウィード様がご心配されて何度もいらっしゃっておりました」
「叔父様が……」
怪我の具合はどうなんだろうと心配になる。何度も来たということは、元気だとおもうが、やはり心配だった。
「叔父様はどこにいるのかしら……」
特に尋ねたつもりもなかったが、アンナは心得たように、「ただ今、こちらにいらっしゃいました皆様、王太子殿下にお招きいだたき、簡単なパーティにご出席されております」と教えてくれた。
「そうなの。怪我は大丈夫なのね」
「リルティ様も招待されておりますが、如何なさいますか」
リルティも侍女であるから、そういわれれば、規模もわかる。それほど堅苦しいものではないのだろう。お茶会の少し規模を大きくしたようなものだ。テオは近衛であるから、きっと警備をしているのだろう。声を掛けるのはどうかと思うが、顔をみるだけでも安心出来るので、招待されているのなら顔だけ見に行こうと、ベッドから起き上がった。
そうだ、服がない――。昨日のドレスはしわくちゃにしてしまったし、どうしようと思案げな顔に気付いたのか、アンナが「リルティ様、こちらへ」手を引いて、クローゼットになっている部屋につれていってくれた。
「どれになさいますか?」
「これはどなたの……」
リルティが戸惑いの声をあげたのには理由がある。そこには歳若い貴族の令嬢のために揃えられただろうドレスが何枚も吊るされていた。勿論小物も揃えられていて、どれも既にコーディネイトされているようだった。
「こちらは全てリルティ様にとジュリアス様がご用意されました」
クラリと一瞬眩暈がした。
ああ、これは私の身体に対する褒美なのか――。
私がたまたま飲みすぎて正体を失ったから、これは私のものになったのだろう。きっと他の令嬢が彼に抱かれていれば、このドレスはその人のものだったのだろうとリルティは思った。
「こちらなど如何ですか? ピンクがとても愛らしいですわ」
部屋でしつらえの準備をしていたメイド達も小物を用意してリルティに見せてくれる。
「リルティ様の髪の色も瞳の色も、どんなドレスをお召しになってもお似合いになりますわ」
リルティだって年頃の女の子(そろそろ子は苦しいが)だし、綺麗に着飾られるのは嬉しいが、何故かどんよりと気持ちが沈み込んでいく。
「ありがとう……ございます」
アンナが選んでくれたピンクのドレスを着て、美しい装いを絶賛されながら、リルティの気持ちはやはり晴れなかった。昨日、医務室を案内してくれた侍従がいて、今日はホールへと案内してくれた。
「あら、フレッドったら、顔真っ赤にして、リルティ様に見惚れてる場合じゃないわよ」
フレッドという少年は、少し耳が赤かったが、特に顔が赤いわけでもなかった。不思議に思って首を傾げると、「ご案内いたします」と前に立ってキビキビと歩き始めた。
これ以上ここにいれば、アンナにいじられるのを察したのだろう。
「こちらでございます。お食事など自由に取られるようになっております。御用がおありでしたらお呼びください」
フレッドは、そう言って下がっていった。
ホールに入ると既に食事を終えておしゃべりに興じている人達が思い思いの集団を作っていた。
リルティは、そこで息を飲んだ。
場違いな場所に来てしまったのだと気付く。
そこにいる歳若い紳士や淑女はすべて、貴族でも名のある家の出身なのだろう。知っているだけでも侯爵の娘やら伯爵の息子やら、リルティからは遠い世界の人々が談笑している。
よし、食事をしてから叔父様をみたら部屋に戻ろう。
そう決めて、リルティは食事をするスペースに足を運んだ。