王子さまが二人
読んでくださってありがとうございます。説明が多くて申し訳ありません。
リルティは夜勤だったので、朝までメリッサと過ごした。
あらかた膝掛けは出来上がっていたが、六時の交代の時間には間に合わなかったが、まだ一週間ほど猶予はあるので、ホッとする。
最後に姫の寝室を覗き、その安らかな寝顔を確認して、交代になる。
「おはようございます。姫様はつつがなく夜をお過ごしになりました」
「おはようございます。お疲れ様でした。わたくし達が今日の昼の当番となります。皆様気をぬくことなく、姫様にお仕えいたしましょう」
定例の言葉通りに朝の挨拶がすみ、夜勤のものは自分の部屋にもどることになる。
昼勤のものはこれから、王女付きの教育係であるセリア・マキシム夫人から今日の予定や細々とした指示がある。
「リルティ、メリッサ。貴女達、仕事の時間が終わっているのはわかってるのだけれど、ちょっと用事を頼まれてくれないかしら?」
マキシム夫人に言われて、否といえる勇気は二人にはない。
「これを王太子様にお届けしてほしいのよ。フレイア様からのお手紙なのだけど、昨日寝る前に頼まれてしまって。今日は王女様は神殿の方にお参りにいかれるから、どうしても慌しくて……」
夫人の困ったような顔をみれば、リルティもメリッサも頷くしかない。
この可憐な伯爵家の未亡人であり、フレイアの乳母でもあるセリアは、侍女達にも人気がある人だ。
「はい、わかりました。お届けいたします」
二人が侍女らしく、かっちりと腰を折り、暇を告げると、セリアは満足げに微笑んだ。
「朝食を食べてからでいいわ。あまり早すぎても王太子様にはご迷惑でしょう」
手紙は、しっかりもののメリッサに渡し、セリナは王女を起こしに寝室へ向かうのだった。
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王宮には沢山の人間が住んでいる。その大半は、王宮で仕えるものたちだ。しかし、仕えるとはいっても上は宰相から下は掃除係りまで、その仕事の内容は多岐にわたる。なので、食堂もいくつものランクがあり、自分に見合った場所で食事をとることになる。
「なんか人増えたね」
「そうね、先週、外交で隣国にいってらした第二王子様がお帰りになったからじゃない?」
「メリッサ、見たことある?」
「リルは、拝見したことないのね。私は王子様が出かけられる二年前にギリギリ見たわ。イケメンよ。漆黒の髪は肩くらいまであって、黒い瞳は冷たい感じでね。なんだか彫刻のような人だったわ」
王子の批評になるので、メリッサは声を落としてリルティに自分がみた二年ほど前の王子のことを教える。
「あら、黒髪に黒い瞳? なんだか昨日の嫌なことを思い出すわね……」
美形が変態だった件について触れると、メリッサは嫌そうな顔をする。
「仮にも自国の王子を変態と一緒にするなんて」
珍しく非難すると、「ごめん。それもそうね……。この前借りた本が混ざってるかもしれない」と謝った。
そういえば、貸した本の中に、昨日聞いた話と似たような本があったような気がするとメリッサも思い出した。
出来るだけそれには触れずに、二人は朝食を食べることに専念した。
王宮で仕事をしていて一番いいことは、美味しいご飯とおかしを食べれることだと、リルティは思う。まだまだ色気より食い気な二人であった。
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この場合、メリッサが手紙を渡す人で、リルティは、後ろで控えることになる。
リルティは、頭を下げて、入ってきたと思われる王太子のねぎらいの声を聞いていた。
「噂をすれば、フレイアからの手紙だ」
「元気そうでよかった」
その声は、王太子ととても親しげで、フレイアの名前にも嬉しそうだった。
あれ? 聞いたことあるような……。
リルティは、人の声を覚えるのが得意だ。言ってる内容を覚えることは出来ないのに、何故だか声だけで、その人の顔を思い浮かべることが出来た。
「変態――?」
不穏な言葉が和やかな部屋の中に響いた。けして大声を出したわけではないのに、何故か異様に大きく聞こえた。
風が揺れたと、思った。メリッサの驚きの顔が見えたということは、リルティは頭をあげてしまっていたのだろう。その上げた視線の先に、確かにその男はいた――。昨日男の子を襲っていた傲慢な男だった。
「くぅっ!」
どこから出たのかわからないような音は、リルティの喉が鳴った音だった。
確かに王太子の横にいたはずのその男は、素早くリルティの腰を引き寄せ、唇を奪っていた。
リルティは目を瞠る。ここがどこで、今だれの前にいるのか、そんなことも吹き飛んでいた。
「リ、リル???」
メリッサが、何が起こったのかとリルティを見つめて、声を出す。
クラクラと酸素不足になるリルティの頬を撫でながら、男はそっと顔を離した。
「昨日、ちょっと手を出してしまいまして……。ちょっと酷くしてしまったから、変態扱いですよ。な、リル?」
手前から見るメリッサには、不自然に揺れる頭は頷いているようにも見えたが、男が動かしてるようでもあった。
「ジュリアス、その子は私の忠実な騎士でもあるテオの姪御だぞ。本当に手をだしたのか――?」
ライアンの声は先程とは打って変わって、氷を思わせる冷たいものだった。本気で怒っていると、男――ジュリアスにもわかった。ただの侍女だと思っていたのに、兄に認識されているとは意外だった。
「ええ、でもこっぴどく振られたので、今、思いのたけをぶつけてしまいました」
ジュリアスは、ライアンの視線を受けて、自嘲する。
「失礼します――!!」
呆然としていたリルティが、ジュリアスのわき腹に体当たりを喰らわせる。細い女の体当たりで衝撃らしいものはなかったが、少し驚いた隙に逃げていった。扉から出て行ったのをメリッサも慌てて「御前失礼いたします」と言いながら、リルティを追って行った。
「また逃げられてしまいました……」
「お前は……、いい加減、適当に遊ぶのはやめろ」
ライアンは、ジュリアスの言葉を信用したのか、諦めたように弟を眺めて、手を振った。帰れという意味のようなので、ジュリアスは、優雅に一礼して、王太子の部屋を出て行く。
「まったく……。母の血は違っても趣味は一緒か――」
ライアンの呟きは、ジュリアスには聞こえなかった。
今日、私はSであることが判明しました(笑)。sachiのsはサドのsのようです。これからはこれを生かしてドンドン責めていきましょう!(待)。