女達の宴会2
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二本目を開けると、今度は赤かった。
一本目は爽やかなフルーティな感じだった。鼻からスッと抜ける香りが甘く、女性が好みそうなもので、ラベルをみると有名なワイナリーの高級ワインだった。
聞くと、ジュリアス様のセラーから抜いてきたらしい。メリッサの好みがわからないから、白、赤、ロゼを持ってきたといっていた。
赤は少し渋めだが、メリッサは酒類に特に好みはなかったので、有難く頂く。
「ジュリアス様のお母様って、お見かけしたことないだけど、王宮にいらっしゃるわよね?」
ジュリアス王子の母は宰相の娘で、側妃だということしか知らない。もう二年も王宮にいるのに、王妃様の姿しかメリッサは思い出せなかった。
「朝早くに中庭で体操してる集団いるでしょ?あの人よ」
早朝に中庭では何故か貴婦人らしき人と、そのお付のような人たちが体操をしていた。
「ああ、いますいます。楽そうなドレスでやってますね」
「朝は頭を目覚めさせるのに体操が一番なんですって」
何故体操してるのかと、いつも思っていたが、目をさますためらしい。しかも側妃様だったとは。
「はぁ」
なんとも色気のない話だ。美容のためかと思っていたのに。言われてみれば、ジュリアスと似ている美しい女性だった。あんな大きな子供がいるとは夢にも思ってなかった。
「ライアン王太子が王位を継いだら、王弟として宰相を継ぐか、臣下に下って宰相を継ぐから、結婚したらリルティ大変そうよね~」
「決まってるの?」
ゲルトルードが言うからには、ジュリアス王子の宰相説は、確かな情報なのだろう。
しかもゲルトルードの中で、リルティがジュリアス王子とくっつくのは、決定事項らしい。なんとも言えず、リルティのことは置いておいて、聞いてみた。
「宰相の息子、冒険者になって出奔したしね~。あれは凄い騒ぎだったわ~。娘は王に嫁いで側妃様だし。そうなるでしょうね」
「冒険者ですか」
なんとも不思議な響きだった。侯爵家の貴公子が、騎士でなく冒険者。夢見がちだったのだろうかと思う。
「うん。変わった方だったけど、ある日突然、奥さん連れてでていっちゃったのよね~。なんでも、俺の仕事はこれじゃないとか言って。あそこの家系、仕事大好き人間ばっかりだけど、宰相が天職とは思ってなかったんでしょうね」
「でもジュリアス様、仕事あんまり好きそうじゃないわよね」
まだ国にもどってきて間もないからかもしれないが、あまり積極的に仕事をしているという印象はない。
「私に押し付けてるから?」
そうだ、いつもゲルトルードが仕事で疲れきってるからそう思うのだと気がつく。
「ええ」
「まぁ、血の繋がった祖父は冷血宰相だし、叔父は家を捨てて冒険者になっちゃうし、お母様は……。ね、知ってる? 国王様の寝室は、王妃様の寝室と繋がってるでしょ? 側妃様のお部屋とはね、なんと執務室で繋がってるのよ」
「えーー。なんか嫌ですね」
なんだろう、その家庭環境。まあ両方の寝室と繋がっているというのもどうかと思うけど。普通の国のその辺のことはよくわからないが、本とかで読むと後宮とかあるはずだ。お妃二人で後宮もいらないと思うけど。
「国王様の治世は素晴らしいと褒めはやされてるけれど、その最大の協力者はジュリアス様のお母様、シェイラ様なのよ。とても出来る方なのよ。仕事好きで、だから子供もジュリアス様しかつくらなかったんだから」
「あー、なんか知りたくなかったですね」
国王の家族計画とかあまり知りたくなかった。
「あら、そう? 皆人間って感じでよくない?」
「いや~、仕事で繋がる男と女の関係って、殺伐としてて……」
現実主義のメリッサだが、そこはそれ、一応夢もみたい年頃だ。
「偏見よ」
「そういえば貴女は仕事の出来る女ですもんね」
「あなただってそうじゃない」
ゲルトルードはメリッサを同士と思って、こうやって来たのかもしれない。
たしかにリルティに比べれば、気もきくし動ける侍女だとは思うが、それは比べる相手が間違っているだけだ。
「私は婚活です。父親が持参金いらない男を見つけて来いって」
「なんか世知辛い世の中ね」
ゲルトルードは、グラスを空にして、もうなみなみと手酌で注ぐ。
「そういえば、貴女のご褒美はパーティなんですって?」
褒美は何がいいかと聞かれて、婚活をスムーズに行える手助けがいいと言ったのだ。リルティと違って聞いてもらえただけ幸せだと思う。リルティは、褒美というより罰ゲームだろう。可哀想に――。
「ええ。王宮主宰のパーティにドレス込みで出席できる権利らしいです。三回までOKなんですって」
「なんで、そんなの出たいの?」
王宮にずっと暮らしているゲルトルードにすれば、面倒くさい意味のないものに感じるのだろう。そんなのと言われて鼻白むが、立場が違うのだからゲルトルードにしたらメリッサの願いなど意味のない愚かなことなのかもしれない。
「婚活です」
「侍女として王宮にいれば、それなりに出会えるでしょうに」
「まぁ、会わないこともないんですけどね。仕事場で見つけると、その人が出来るひとか出来ない人か丸見えじゃないですか。なかなか、顔もマシ、性格悪くなくて、仕事できて、適齢期で、浮気しない人なんて……」
「「ない! ない!」」
二人でハモる。酒が入ってるので笑いの沸点も低い。
あははは――と笑ってしまえば、楽なものだ。
わかってるのに、理想を追ってしまうのは女の性だろうか。
がっくりと肩を落としたメリッサを慰めるように、ゲルトルードはもう一杯注ぐ。
「でもあなたの職場、オープンね。婚活とか上司に言ってるの?」
「ん、言ってるわよ。セリア・マキシム夫人は優秀な方ですから。適材適所に振り分けてくれるわ」
自分の意思を伝えることは大事なことだ。仕事を円滑にするのに、あれだけ理解のある上司はなかなかいないと思う。特に女ばかりの職場では。
セリア・マキシム夫人は、フレイア王女の教育を任されているだけあって、上品で、公平、あまり女性特有の気分で左右されることもない。強い意志を感じさせる言動は、押し付けてくることもないし、包容力もあって、あらゆる女性に慕われている。
「伯爵の未亡人ね。美しい方よね」
セリア・マキシム夫人の夫は、夫人が赤ちゃんを身ごもっているときに不慮の事故でなくなった。そのショックでお腹の子供も亡くしてしまった夫人に、フレイア様の乳母の役目を頼んだのは、側妃シェイラ様だったのではなかったかと、ゲルトルードは記憶の底から拾い出す。
「そういえば、伯爵を継いだ息子もそろそろ結婚とかいう歳じゃなかったかしら?」
この国は、王族、貴族の結婚に関しても厳しくない風潮なので、王太子に婚約者はいるがジュリアス王子にもフレイア王女にも特に決められた相手はいない。そうなると貴族も『王太子殿下が結婚されてから』といういい訳の元、ゆっくり相手を探すものも珍しくなかった。
「セリア・マキシム夫人がお義母様?」
「いいじゃない」
「無理……。なんだか旦那様を放っておいて夫人に仕えて幸せな気分になりそう」
「倒錯的ね~。私、そういう趣味ないから」
筋肉一筋のゲルトルードにそういわれて、メリッサは慌てて反論する。
「私もないわよ!」
「リルティともいい仲だし」
「リルは妹みたいで可愛いんです」
「はいはい――。ほら、次開けるわよ。あなた、ザルね――」
楽しく酔っているようで、素面の二人は三本目に突入するのだった。
ザル二人で飲む宴会。なんとももったいないお話です><。