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女達の宴会

読んで下さってありがとうございます。

 リルティが王太子について出かけて、メリッサは普段一緒にならない同僚の侍女と仕事をしたが、かなり疲れてしまった。


「リルティのあの、人を癒すオーラはなんでしょうね?」

 

 メリッサは、フレイア王女に「リルティがいなくて寂しい?」 と聞かれて、そう答えた。


「あの子は、人の警戒心とか普段力の入ってる部分を緩める力をもってるわね」


 フレイア王女の十歳らしくない言葉も慣れているので、気にならない。


「フレイアさまも寂しいようですね」


 セリア・マキシム夫人が、ホホホと軽やかに笑う。


「リルティも大変よね、あのお兄様に見初められるなんて。今、泡吹いてるんじゃないかしら?」


 泡を吹くところで、セリア・マキシム夫人がフレイア王女に視線を送る。言葉遣いがよくないのと内容を咎めていると気付いて、フレイアは口に手をあてた。


 意味が分からなくて、メリッサは「どういうことですか?」 と尋ねた。


「ジュリアス兄様、急に決めてライアン兄様のバカンスについていってしまわれたのよ。リルティにゆっくりさせようと思って、ついていかせたのに。あれでは、休む暇もないんじゃないかしら?」


 セリア・マキシム夫人は、溜息を吐いて、「火に薪をくべてしまったわ」と困ったように言った。


 メリッサは言葉を失った。



 =====



 昼勤務を終えて、部屋に戻ろうとしたところを、ゲルトルードが待っていた。片手にワインの瓶を掲げている。使用人の通路は、仕事を終えた人々が横目でゲルトルードを見ていた。

 何気に目立つ主従だわと、メリッサは思う。


「飲めるひと?」


 ゲルトルードは、メリッサに声を掛けてきた。その手にあるのが高くて美味しいワインだと気付いて、メリッサは頷いた。


 リルティもいないので、小さいながらテーブルと椅子もあるしと、部屋に案内した。

 部屋は使用人用なので、それほど大きくない。寝室はベッドが二つと大きくない家具がいくつかあるだけだし、居間もこじんまりしている。

 リルティとメリッサは仲がいいので、この部屋は居心地がいいが、そうでなければストレスに感じるだろうと思う。


 居間のテーブルに食堂から運んできた食べ物を置いて、メリッサは部屋着に着替えた。ゲルトルードも上着をぬいでハンガーにかけて、椅子に座る。


 二人は「お疲れ様」だとか「フレイア様のところでなにしてるの?」 とか世間話から入ったが、口当たりのいいワインはあっという間に二人の口を滑らかにしていった。


「やられたわ~」

「やられた!」


 ゲルトルードがジュリアスの行動を知ったのは昼前だった。いつまでも現われない主を探しにいこうと部屋をでたところで、「トゥルーデ知らなかったの? ジュリアス様、王太子様のバカンスに着いていったわよ」と昔からジュリアスに使えている侍女から言われたのだ。そして、その侍女からジュリアスからの手紙というか仕事の指示書が渡された。


「絶対食べられちゃう」


 メリッサが机を叩きながら吼えると、ゲルトルードはジュリアスを庇う。


「案外、大事なものは最後まで大事にとっとく人ですよ」


 でもあの行動力は普段見たことがないので、その限りではないけれどと、保険はかけておく。


「ライアン様の前では大人しいですし」


 メリッサが安心するような言葉を捜す。

 実際、ライアンの前でジュリアスは貴公子らしい振る舞いを心がけている。だからといってライアンに距離をとっているとかではない。弟としてライアンを慕っている。


「でも王太子様の部屋でいきなりふっかいキスよ? リルティ半分意識とんでたもん」


 どんなキスだと、野次馬的な意味でゲルトルードは見たかったと思う。


「それは、とられないように先にかぶりついたと思うわ」


「前の日に暗闇の中でみただけよ? 物語の乙女じゃあるまいし、いきなり恋に落ちるとかある?」


「私の勝手な推測だけど、元々リルティを知ってたんじゃないかしら? 多分隣国に行くよりも前。でないとあれはおかしいわ。そういう男じゃないもの」


 ゲルトルードが庇えば、メリッサは、少し瞳に険を混じらせた。


「よく知ってるわね。実はトゥルーデ、ジュリアス様の事好きなんじゃない?」


 乳兄妹で血の繋がりなはいし、側近としてずっと仕えていれば恋や愛が芽生えてもおかしくない。


 ゲルトルードは、そう言ったメリッサに首と手を振って否定した。


「いや、私はあんなほっそいのいらないから。男は筋肉よ。引き締まった筋肉じゃなくて、肥大した筋肉よ! 胸筋よ。後背筋よ。ふっとい太ももとか最高~」


 大分酔ってきたのだろう、うっとり何を想像してるのかゲルトルードの頬は飲みすぎだけでなく赤くなる。


「あー、筋肉とかどうでもいいです。てか結婚しないの? トゥルーデ、適齢期ギリギリじゃない?」


 失礼な言い様に、ゲルトルードは笑う。メリッサのこういうところが気に入って、飲みにきたのだ。


「するわよ。早くジュリアス様結婚してくれないかな~」


「え、その流れでジュリアス様?」


 メリッサも酔っていてあまり深く考えていないようで、思いつくまま喋っているようだった。


「違うって。主が結婚しないうちは出来ないって言われてるのよ」


「だれに?」


「この前見たでしょ? ミッテンよ。良いわよね~。男は年上よ。あの頼りになる筋肉……」


 筋肉はどうでもいいけれど、案外身近にいるのかと、うらやましくなる。二人ともジュリアスの側近だから、ジュリアスが外国にいってる間も一緒にいられるというわけだ。


「ファザコン?」


 そう聞くと、首を傾げながらゲルトルードは「父はもう亡くなってるしね」と寂しそうに笑った。

 メリッサは、そんなゲルトルードを初めてみたので、なんだか慰めたくなった。


「ファザコンかもね~」


 ゲルトルードが呟くので、メリッサは空になったグラスにワインを注いだ。


 女達の宴会は、まだまだ続く――。

三話ほど宴会が続きます。

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