私の大好きな叔父様
読んで下さってありがとうございます。
私には、比較的年の近い叔父がいる。父の兄弟になるのだけれど、血は繋がっていない。
お祖父様には、最初、父の母である妻がいたのだけど、病気で亡くなられて、後添いをもらった。その方には別れた旦那様との間に息子がいて、それが私の大好きな叔父様だ。
父は年の離れた弟をとても可愛がっていたのだけれど、叔父様は十四歳で騎士団に見習いとして王都にいってしまった。
時折帰ってくる叔父様は、父の自慢の弟であり、私たち兄弟姉妹の憧れの存在だった。
叔父はとても女性に人気がある。モテモテの色男だ。金色の長い髪は真っ直ぐで、サラサラだし、紫の瞳は神美的だと女性にもてまくりだ。名前がテオっていうのだけが、もったいない。できればシオンとかが良かったと思う。
「リル、王宮で侍女でもやってみないか」
憧れの叔父様にそう言ってもらったのは、兄妹の中で私だけだったから誇らしく、嬉しかった。両親を説き伏せてくれて、叔父様が連れてきてくれたのは王宮の中でも凄い場所だった。
「フレイア様の侍女として、フレイア様を護り支え、良き導き手になるように」
そうセリア・マキシム夫人に言われて、本当に何でわたしがこんな場所にいるんだろうと思った。
私はてっきり、叔父様は私の料理とか掃除とかの能力をかってくれて呼んでくれたと思っていたのに、え? 王女様の導き手? 何を導くの? 美味しい玉葱の食べ方? ラムの焼き加減? 軽くパニックになったのは許してほしい――。
もう二年もたつのに、何で叔父様が私を王宮に連れてきてくれたのか、未だにわからない。
「リルティ? パンケーキは美味しくないかい?」
ふと、考え事をしていて、私はパンケーキを前に固まっていた。パンケーキは、沢山のバナナと生クリームとチョコソースがのっていて、凄く美味しかった。こんなお菓子は、王都でしかみたことがない。とはいえ、パンケーキが流行ったのはここ半年だから、伯爵領の街イリーネだったらあるかもしれないが。
「叔父様、そんなに甘いものが好きなら、彼女に連れてきてもらえば良いのに」
叔父は無類の甘いもの好きだ。そのうち病気になると思う。
「んん。昔、連れて行ったら、『貴方の顔をみてるだけで、おなかが一杯だわ』とか言われて、食べないんだ。意味がわからん」
私より大きなパンケーキは、店のというか店員のサービスだろう。アイスも付いている。同じものを頼んだはずなのに。
「あれ、お前の、アイスついてないな。ほら、あーん」
口を開けると親鳥よろしく運んでくれる。周囲の視線を感じるが、そこは長年の慣れというものがある。気にならない。
美味しい――。私も女だ、甘いものは好きだ。
でも何故だろう、叔父と食べていると、確かにお腹一杯になるような気がする。
その長い指で、嬉しそうに上に載っていたクッキーを摘むのとか、ケーキにかかるのが嫌で、髪をかき上げる仕草とか、無駄に美しくて、本当にいい加減にしてほしい。
「叔父様、休日が合うたびに私を連れてくるの、やめてくれません?」
そういうと、叔父様は秀麗な顔を悲しそうにゆがめて、両手を合わせて拝んできた。
「そういわず、付き合ってくれ。そのためにお前を王宮にまねいたんだ」
ああ、そんな気がしていました。していましたよ。
でも、嗚呼、本人から言われるとかなりショックだわ。
ごめんなさい、フレイア様、セリア・マキシム夫人、私には導けるものなど何もなかったようです……。
美味しいパンケーキと、美しい騎士の前で、どんよりと紅茶をすするリルティだった――。
リルティの名前だけでていた叔父様です。
本編に戻ったら、出てくる予定です。