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あれから俺は、蒼井さんの家庭の状況を知った。彼女の父親はかつて戦士だった。彼は数ある職の中でも剣士を選び、剣聖と呼ばれるクラスにまで上り詰めた人だったようだ。
こっちの世界では剣聖というのは国家に直接認められる直属の剣士でひと握りの人間しかたどり着けないクラスだ。彼女はそんな父親に尊敬の念を抱いていたし、自分自身もいずれは戦士の一員になりたいという感情さえ持っていたようだ。
だが、自体は急変する。
彼女の父親が戦争で亡くなったのだ。しかもただの戦死ではない。彼の剣聖という地位を妬んだ味方に背後から攻撃を受けたらしい。だが、政府はその事実を公表することを拒んだ。金銭で解決をしようとしたんだ。だが、彼女の母親は正義感が強く、頑として公表をするという立場を崩さなかった。
その結果彼女たちにはお金が入らず、彼女の母親は必死になって働いたらしい。彼女も自分で出来ることは全てやったし、隠れて仕事も少しやっていたらしい。だが、周りの住人の冷たい視線や、過酷な生活に母親が耐えられなくなり、ついに倒れてしまった。
彼女は恨んだ。政府を。自分たちを助けてくれなかった全ての人たちを。だけどいつしかそんな感情が混じり混ざって、戦士への恨みという一つの形を形成してしまっていたようだ。政府や周囲の人間というのはあまりに抽象的で大きく憎悪という感情をもつには難しかったが、戦士という一つの形にすることでなんとか精神を安定させていたのだろう。
それが爆発してしまったのが今回の事件というわけだ。
……。
だが事情がどうであったかにかかわらず、今回の事件は彼女に百パーセントの非がある。それを認めた上で、俺たちは今回のことを処理していかないとならない。だから……
「あーん」
「はい、どーぞ、先輩!」
「先輩、どうぞ」
……だ、だから、俺は。
「あーん」
「「どうぞ、先輩!」」
だから俺は、決めなくてはならない、どのアイスから食べるのかを。
上から順に、夏希、赤毛さん、蒼井さんの三人が俺にアイスを乗せたスプーンを差し出している。
ちなみにここは都内で有名な施設、ファンタジーランド、俗に言う遊園地という所だ。
ここに来たのには色々な経緯があるのだが、ひとまず俺はこの状況を抜け出さなくてはならない。
俺は思考を巡らせる。
夏希から食べた場合が最も無難だ。夏希は姉弟だと言う名目が立つし、何よりこの二人の子は夏希に逆らうことができない。だが、それではあまりに可愛そうだと俺の良心が叫んでいる。もしも蒼井さんから食べた場合、赤毛さんが大きく嫉妬することになるだろう。逆もまたしかり。それに加えて、夏希からの鉄柱を俺が受けることになる。そう考えた先の答えは……!
「はむ……」
差し出されたスプーンを束ねて一気に食べた。これで完全勝利だ。
「「「……」」」
三人からジト目で見られているのは気にしない!
……ていうか、何してんだ、俺。
ようやく我に返って周りを見渡す。
いつもの制服ではなく、私服を来た三人の彼女たち。夏希は青いワンピースに襟元に白いフリルがついたもの。赤毛さんは彼女をまさに表しているかのような真っ赤なジャケットにTシャツとショートパンツというかなりラフな格好だ。蒼井さんは黄色のスカートに水色のTシャツ、白いブラウスに白い帽子というコーディネートだ。俺は特に代わり映えなく、TシャツにGパンなんだが。
そして、改めて施設を見る。お化け屋敷に観覧車にジェットコースター。記憶にある遊園地の典型的なものであるようだ。実はここファンタジーランドは、赤毛さんのお父さんの会社の提携先らしい。その都合もあってか、チケットをいくつか都合してもらったみたいだ。そこで、この前お世話になったお礼ということで、俺と夏希を誘ってくれた。
気を使う必要はないと言うことを伝えたんだが、どうにも本人たちが納得してくれなかったので、致し方なく……という表現はよくないな。お言葉に甘えてこさせてもらったということだ。
それで、今のこの修羅場的状況がある!
な! 最後の部分以外は論理的だったろ?
自分ひとりの心の中で、誰もいない空想にそう話しかけてみたが、虚しいだけだった。
まぁ要するにこの二人は俺に少しでもお礼を返そうと躍起になっていて、夏希は面白がっているっていうのが無難な解釈かな。
俺が一人で空想にふけっていると、赤毛さんが口を開いた。
「さて、じゃーそろそろ乗り物行きましょうか!」
日陰になっているテラスで涼しんでいた俺たちに、特攻隊長はそう声を掛けた。
まだ春に入って中旬だというのに、すでに気温は二十度を軽く超えていて、日差しが少しきつかった。
「そうね、行きましょうか」
夏希がそう返事をし、蒼井さんが頷いて移動し始めた。
初めは赤毛さんの希望でジェットコースターに行くことにした。
行列の後ろで待ち時間を見る。
一時間半待ち。
げ……。
俺は心の中でここから離れたい気持ちだったんだが、赤毛さんの言った次の発言は俺の予想外だった。
「よかった。今日は空いてる」
「え、マジで!?」
焦った。いや、空いてるって、十分待ちのこととか言うんじゃないの?
そんな俺の様子は不思議な顔で見ていた赤毛さんは、納得したように言った。
「ああ、先輩、ここ初めてなんですね! ここは、普通の遊園地とはレベルが違う代物ばかりおいてるんですよー」
「そ、そうなのか……」
その後も、このジェットコースターはなんとかっていう世界的な記録に載っているとか色々聞いたが……。まぁ、楽しそうでよかったな、という印象だった。
いざジェットコースターに乗ってみると思いのほか爽快で気持ちよかった。誰ひとりとしてビビる人がいなかったのは、面白みにかけたが。
次は、蒼井さんの希望で観覧車へ行った。
俺が「4人で乗ろうか」と提案したが、「面白くない」とすぐに却下されてしまった。
それでジャンケンで二つのペアにわけて乗ることにした。結局俺と蒼井ちゃん、赤毛さんと夏希のペアになった。
……なんだが、赤毛さんが怯えていたけど、大丈夫かな。
俺たちから先に乗り込み、椅子に腰を掛ける。
雑談をしようとしたが、何から話そうか、と思案しているうちにすでに観覧車は中盤の一番高いところまで来ていた。
「きれい……」
外の景色を眺めて蒼井さんがそっと呟いた。
時刻は午後四時前後で、少しだけ赤みがかった街が一望できた。窓から覗く街並みは、まるで俺たちの住んでいる街ではなく、フィギュアのようにちっぽけなものに感じられた。
だけど、それでも、夏希が言った「この世界の人たちもちゃんと生きている」という言葉が、俺の胸に染み渡るように広がっていた。
そんな俺の様子を隣で見ていた蒼井さんは、静かに言った。
「あの……その度は、ご迷惑をお掛けしました」
「……いや、俺は、特になにも無かったが……」
空気を読むべきか、ずっと迷っていたが、せっかく二人っきりになれたんだから、言おうと決めた。
「それで……他のみんなの反応は、どうだった?」
この言葉の意味するところは、直ぐに伝わったのだろう、蒼井さんは努めて明るく応えてくれた。
「あの二人と、クラスのみんなには一人一人謝りました。……すぐには、元通りにならないでしょうけど、それでも私がこの学校に残ることは認めてくれたんで、必死に償っていきます」
「そっか」
少しだけ安心した。
「それに……」
と続けた。少し、照れくさそうに。
「芽衣も、私を手伝ってくれるって……」
わ、私も手伝うから!
そう彼女に言ってくれたらしい。彼女にとってそれは最高に嬉しい言葉だっただろう。
「よかったな。最高の友達を持てて」
そう言うと、今までで一番の笑顔を見せてくれた。
観覧車を乗り終えた俺たちが待っていると、すぐに赤毛さんと夏希が降りてきた。降りてきた二人は上がる前と打って変わって、打ち解けたように笑い合っていた。
「何かあったのか?」
と俺が尋ねると、
「内緒です!」
と赤毛さんが元気よく答えた。
最後は夏希の希望で、もちろんお化け屋敷。今までの流れを大事にしようということで、夏希と俺のペアと一年生ペアに分かれて入った。
先に入った一年生ペアは五分前には入ったはずだが、悲鳴が何度も俺たちに聞こえてきていた。思ったより楽しそうだな。
「お前は叫ばなくていいのか?」
俺がそう尋ねると、夏希は「まさか」と笑った。
「さすがに、作り物で驚いたりしないわよ。さんざん気持ち悪いものとは出会ってきているしね」
そうだよな。確か、こいつも俺と同じ魔物のいる世界から来たんだったな。それにまぁ、こいつと俺のペアだったら何も起こらないだろう。そう思って俺が先陣をきって歩いて行った。
「きゃっ!」
……?
どこかから悲鳴が聞こえてくる。
俺は後ろを歩いていた夏希の方を振り返るが、夏希は平然とした顔をしていた。
「どうしたの?」
「い、いや、何でもない」
……まさかな。
俺たちはまたしばらく歩き出した。
理科実験室の模型みたいな物体や、井戸から出てくる生首みたいなよくわからない物体、そういったものをくぐり抜けた。
案外なんともないな。
「そろそろ終わり……」
そう思って後ろを振り向くと、今まで付いてきていたと思っていた夏希の姿が無かった。
「! なつき? おい、なつきー」
叫んでも返事は来なかった。
そこで、さっきの悲鳴を思い出す。
もしかして、あいつ……。
実はメッチャビビリだったとか。
……いや、ないか。と思っだが、ひとまず探しに戻ることにし、今まで通った道を逆走した。ルール違反だが、まぁ仕方ないだろう。
来た道が一方通行だったので誰かとすれ違う心配をしつつ、とにかくさっさと見つけに急いだ。
五分ほど戻ったとき、人影が見えた。夏希かと思ったが、そこにいたのは占い商のような人物だった。
さっきすれ違った記憶がないが……。とは思ったが、ちょうどいいから聞いてみよう、という結論に至った。
「あの、すみません、一つ伺いたいのですが」
「では、まず手を私に……」
こちらが質問をする前に占いが始まってしまった。
フードをかぶっていて顔はよくわからなかったが、どこか妙に馴染みのある声に感じた。
「いや、あの、そうじゃなくて」
俺が内容を言う前に「おお」と女の人の声でその人は言った。そして、水晶を見て囁くように、言った。
「あなたは今、人を探しておられる」
おお、お化け屋敷なのによくわからないが、当たっている。
俺が頷くと、その人はどことなくホッとした様子で続けた。
「その人はあなたにとって大事な人だ」
「ああ」
そうだな。大事な、大切な人だ。
「あなたはその人とずっと昔から知り合いだ」
「あ、確かにそうだな。俺たちが会ったのは……」
あれ? 俺たちが会ったのは、いつのことだったんだろう。あれは確か……。
俺の反応を見て、少し間を待ってから続けた。
「だが、あなたはあの方と誰かを重ね合わせている」
だれか……そうだ。俺は夏希を。だけど、あいつも夏希で……
「あなたは一体どちらを望んでおられるのだ?」
最後はもうすでに占いではなく、俺への質問になっていた。だが、それさえも気にならないほどに俺は真剣に考えていた。
どちらか、なんて。
薄れかかっている懐かしい存在と、今いる存在の二つが俺の頭で揺れていた。
「では、ここまで……」
そう言うと、その占い師は消えていった。結局、何も教えてもらえなかったな。
ふぅ、と息を吐いた時、今度は前方で叫び声が聞こえてきた。
ダッシュで現場に向かい、俺はその意味を一瞬で理解した。夏希がお化けを驚かせて笑っていたからだ。
俺は夏希に説教をしたあと、急いでお化け屋敷を抜け出した。
一つ一つが大行列で、結局アトラクションとしては三つしか出来なかった。だが、想像していた以上に有意義な時間だったと思う。
「ふぅー、思ったよりは楽しめたわね」
俺の心の声を代弁するように、笑顔になって夏希がそう応える。
ただ、多分コイツが一番楽しめたのは最後のお化け屋敷でお化けを驚かした部分だろうな……。
まぁ、あえて口に出しては言わないが。
「先輩!」
後ろから赤毛さんと蒼井さんが近づいてくる。そして、蒼井さんが言葉を続けた。
「先輩は、楽しめましたか?」
その心配そうな顔を見て、少しだけ温かい気持ちになる。
そんなに気を遣わなくてもいいのにな。
「ああ、とても楽しめたよ」
その俺の返事に安心したように笑顔になる、二人が可愛かった。
まぁ、あんまりこういう反応していると夏希に怒られるから自重しないとな……
「……ろりこん」
遅かった。て言うかおい、それは今一番言っちゃダメなやつだろ。俺は直接言っても仕方ないので、心の中でそうつっこんでおいた。
なんだか夏希がボスのような位置になってきたな。
ただ、素をちゃんと出せてきたことはいいことだと思う。初日以降、色々な所に出かけていて、なんだか焦っていたようにも見えたが、これならもう安心だろう。
「……何考えてんの?」
俺が返事もせずに一人で黙々と考えていると、夏希がそう尋ねてきた。
俺は返事に窮し、咄嗟に頭に出てきた言葉を言った。
「いや、なんていうかさ、前の世界の夏希がこんな性格だった気がす……」
ドクん。
「……あれ?」
心臓が大きく鳴った気がした。
俺は右手を額に添えて考えた。
元の……世界? そうだ、元の世界。俺はこの世界に元から住んでいたわけじゃなかったんだ。……どうして。
どうして、忘れていたんだろう。
俺は必死になって元の世界のことを、元の世界の夏希の事を思い出そうとした。だが、想像してもまるで泡を掴むように消え去ってしまう。
くそ、なんでだ……。
「はぁ……はぁ……」
俺の異変にいちはやく気付いた夏希は二人に声を掛けた。
「ちょっと先に行ってて。私、春人に少しだけ話があるから」
そう言って、少し離れた可動時刻を過ぎたレジャー施設の所に来た。今日は混んでいるから、普通のベンチでは二人きりになれないからだろう。
夏希は、俺が何で苦しんでいるのかがわかっていたようで、ゆっくりと口を開いた。
「今日、何日目か、覚えてる?」
なんにち、め?
ああ、最初の日に言っていたことか。それなら……。
……あれ? 俺たちが出会った最初の日は、もっと小さい頃だったんじゃ……。
「そう、もうほとんど思い出せないでしょう。この世界で出会った最初の日は今から六日前よ。そして、私が言ったリミットが今日の夜の十二時」
ああ、そうだった。
なんで忘れていたんだろう。あの記憶は忘れたくない、忘れてはいけないものだったのに……。
「でも」
夏希は続けた。
「でも、もしもあなたが望むのなら、私はあなたの記憶を残す事が出来る」
「!?」
俺の記憶を、残せる?
「な、なんで……」
「何で最初の日に言わなかったのか?」
俺はその問いにこくりと頷く。
「それは、あなたにこの世界を感じて欲しかったからよ」
この世界を……。
「あなたは外の世界から来た、だからこの世界は自分の世界じゃない。最初の日はそう思っていたはずよ」
確かに、そうだ。俺はそう思っていたからこそこいつを……夏希を傷つけた。
「だけど、今はどう? あなたの周りには家族も、友人も、可愛い後輩も……全てある。全て偽りじゃなく、本物として存在している。今でもあなたにとってこの世界は無価値?」
首を振る。
違う。もう、俺にとってこの世界はかけがえのない物になっている。たった六日のことだったが、こんなに楽しい毎日は忘れられない。
「だから、私はあなたに教えなかったの、今、この瞬間まで」
得心がいく。要するに夏希は、俺を試したということだ。幸せを享受した今を手放して、家族も、友人の大半も、愛する人さえ失った前の世界の記憶を残しておきたいのか? っていうことを。
だとしても、甘いな。俺はまだ……。
「もう一度聞くわ。今、昔の世界の事を思い出して。それはあなたにとってどれほど重要?」
「そんなの……」
決まってる……俺にとってあの世界は……。
思い出そうとする。昔を。だが頭の中に出てくるのは、蒼井さん、赤毛さん、天音、健、そして桐生夏希だけだった。たった数日の出来事だったが、そこには、かりそめの記憶と繋がり、確かに俺の心を満たすもので満ち満ちていた。
俺は……。
拳を握り締める。それほど甘い思いだったはずがないんだ。この世界は、全てがあるこの世界が……
これほどまでに俺の心を慰めてくれていたなんて、どうして気づかなかったんだろう。
何も答えられずにいた俺の姿を見ていた夏希は、決意したように言った。
「もう、忘れていいのよ。あんなに辛かった過去のことなんて。春人くんは十分頑張ったんだから。この世界で、あなたは生きていって」
「……」
何かを言いたいのに喉から言葉が上がってこない。
俺は本当に、忘れたいと思っているのか。それで、この世界で……。
「そう……だな」
次の瞬間俺の口から出たのは、あまりに乾燥した、言葉だった。
「この世界でみんなと、夏希と一緒にいられるなら、俺は……」
俺が最後の一言を言おうとした瞬間、ドーンという激しい音が鳴り響いた。
それと同時に、周りから歓声が沸き起こる。
「「せんぱーい!」」
遠くから、二人が駆け寄ってきて、俺たちに向かって言った。
「これが、今日のメインイベントなんです! 実はこれが本命で、これを先輩たちに見て欲しかったんですよ」
そう言って彼女たちが指を指したのは、ナイトショーと呼ばれるパレードと、そんな幻想的な世界に光り輝く特大の花火だった。
俺は周りを見渡す。本当に幸せそうな顔の人たちの顔が見える。
これが、この世界なんだ。偽物じゃない。本物の、幸せな世界。
だったら……。
「ありがとう」
俺はそう呟いて二人の頭に手を乗せた。
「ありがとうな、俺に夢を見せてくれて」
「え、せんぱ……?」
俺は二人の返答を聞く前に夏希に声をかけようとした、んだが。
「……っ?」
あいつ、どこへ……。
周囲を見渡す。
すると、パレードから少し離れた先ほど二人で会話していた所に夏希はいた。
それを見た途端、心臓が強く鳴った。
頭が覚醒してくる。
さっきのあいつとの会話。
『あなたは生きていって』
どうして、一緒に生きようじゃなかったんだ?
俺の心臓が叫ぶ。今、あいつを放したらダメだ。
なぜだかはわからないが俺の本能がそう叫んでいた。そう、ここで放したら俺は、
あいつのことを忘れてしまう。
人の波を抜けて、夏希に手を伸ばす。ダメだ、夏希。
行くな、行くな、行くな。
「行くな!!!!!」
夏希の腕に触れた瞬間、妙な感覚があった。
「あ、今は……!」
何かの魔法を唱えていた夏希は俺に触れられた瞬間にそう叫んだが、もう遅かった。
俺はまるで身体と心が分離したような感覚を味わった。
その時突然、健のバカに言われた言葉が一瞬脳裏に過ぎった。
『いや、だから、夏希ちゃんの魔法にかかったら心を覗けるって……』
ふ、あのバカが言ったこともわりかし間違ってなかったのかもな。
俺は、夏希の中へ入っていった……。