Lie ~2枚目~
飛び降りることはたやすいことではない。
怖いし、手を離しそうになる。
だけど、手にしている傘で飛び降りるということは
考えていたことよりも、とても優しい心地だった。
ふわふわと暖かな空気に包まれていて
気持ちが良い。
地上に降りてきたときも、ふわっと優しく降ろしてもらったし
ちゃんと家の前にまで返してくれた。
「た、ただいまー・・・」
今は何時だろう。
きっと、心配してるに決まってる。
恐る恐る声を出した。
「あら、唯。」
「お、お母さん・・・」
「何時の間に外に出たの?心配したじゃない。」
「ごめんなさい・・・」
「いいわ。朝ごはん食べちゃいなさい。」
母親の対応は意外とあっけなかった。
「お母さん、それだけ?」
「それだけって・・・早起きした娘に他に何かある?」
「早起き?
私、一週間行方をくらませたんだよ。」
「何言ってるの。
一種浮かんだなんて。昨日の夜にはちゃんと居たじゃない。
それから、貴方にお茶を出しに行って・・・
それより、唯ってば寝るのが遅かったはずなのに良く早起きできたわねぇ。
誰に似たのかしら・・・」
えっと・・・
どういうこと!?
唯は心の中で叫ぶ。
確かに、ミアもサラも時間の流れが違うといっていた。
だから早く来たのに。
唯は、納得できないながらも部屋に一旦行き、
じっくり考えることにした。
「私が手紙の変化に気づいたのは、
3時10分頃・・・。
それから、いろいろと会ったから・・・」
『5分くらい経っているわね。』
サラの言葉。
「いや、もっと経っているはず・・・」
私が天使界に行くまでかなりの時間があったような気がする。
10分くらい。
で、ポストのところでミアとぎゃーぎゃーして・・・
サラが来た。
ってことは、普通に30分くらい経っているということ。
結果的には・・・
人間界と天使界での時間の流れは変わんない・・・
「なんで、嘘ついたの?」
その答えを探すにはたった一つの方法しかない。
「お母さん!」
「何?」
「お茶、お茶を持ってきて!!」
「え?」
「早く!!」
それから、ピンクの便箋に適当に文面を書く。
”かきくけこ・キューピット様”
という風に・・
それから窓に貼り付けて母が持ってきたお茶を一気に飲み干す。
昨日・・・じゃなくて、今日の朝方と同じように手紙が光りだした。
「きたわね。」
ぴりっと手紙がはがれたときを見計らって
手紙に飛びついた。
「ミア。」
「なに?」
「唯さんに、あんな嘘ついてよかったのかしら。」
「いいのよ。所詮は人間なんだし。
半分は嘘じゃないんだから。」
「でも、今頃は気づいてるわよ。」
「いーのよ。
どうせ、ここまで来れないんだから。」
「あの傘があったら来れるわよ?」
「大丈夫。
唯にそんな脳はないわ。」
「随分な言いようね・・・」
「それにしても・・・サラが嘘につきあってくれるなんて。」
「別にいいでしょう。
たまには、良い子ちゃんにはあるまじき行為をしても。」
「そうれもそう・・・」
「2人して私をハメたのね・・・やっぱり!」
「ゆ、唯・・・」
「唯さん!?」
「あんた、どうやってここまで来れたの?
まさか、傘で・・・」
「あぁ、傘?
はい、どーぞ。返します。
私は手紙をもう一度書いてここまで来たのよ。」
「手紙?」
「そういえば、ラブレター受信がきてたわね。」
「2人して私をだまして楽しかった?」
「えっと・・・」
「ごめんなさい。唯さん・・・」
「でも、半分は嘘じゃないもの。」
「半分?」
怪訝そうに尋ねる。
「私たちの年と、時間の流れが遅いのは嘘じゃないわ。」
「でも、一週間も経ってなかったわよ!」
「そうじゃなくて・・・
私たちの年の取り方ってこと。」
「取り方?」
「そ。時間の流れは同じなんだけど、違うのよ。」
「ややこしい。」
「本当にそうなのよね。
ただ、人間界で50年経ってやっと私たちは一つ、年をとるのよ。」
サラはさとすような言い方でなだめる。
「・・・とりあえず、わかったわよ。
はぁ・・・疲れた。」
落ち着きを取り戻したかのように、ふわふわな地面に寝そべった。
次回も宜しくお願いします。