忘れらんねえよ
こんにちは、浜焼き三太郎です。
今回のお話は、初恋と失恋がテーマです。
誰にでも一つくらいは「あの頃の自分を思い出すと布団の中で暴れたくなる記憶」があるんじゃないでしょうか。
この作品の主人公も、そんな黒歴史を大量生産した一人です。
笑いながら読んでいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
中学一年入学式。
当時の僕は、小学校とは違う大人びた雰囲気に気圧されながら、期待や不安を膨らませていた。
おかげで式の後も緊張は抜けず、教室の席に着いてからも体はどこか強張ったままだった。
だからだろうか。
「あっ。」
気づいた時には、机の上のネームプレートを床に落としていた。
拾おうと身を乗り出す。
だが慣れない机といすに邪魔され、上手く手が届かなかった。
一旦座って、どうしようか考えていると、
「これ、落としましたよ。」
隣から柔らかな声が聞こえた。
おずおずと視線を向ける。
そこには、花柄のピンで前髪を止めて、おでこをすっきりさせた少女がいた。
「えっと、古川雄介さん?」
瞬間、心臓が大きく飛び跳ねた。
脈拍は急上昇。
脳内でサイレンが鳴り響く。
「あ、うぇ、そ、その……。」
しどろもどろになる僕を、彼女はキョトンとした顔で見つめていた。
「あ、ありがとう、ございましゅ!」
緊張のあまり盛大に噛んだ。
《うわぁぁぁ……何やってるんだ僕!》
絶対引かれ、た?
菜月さんは、目を丸くしたまま固まっていた。
数秒後。
「ふふっ。」
小さく笑みを零した。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。これからクラスメイトになるんですから。」
差し出されたネームプレートを、震えた手で受け取る。
「私は菜月穂乃花です。これからよろしくお願いしますね、古川さん。」
「こ、こちらこそ。よろしくお願いします、菜月さん……。」
菜月さんがにこりと微笑んだ。
僕は内心バクバクしながら、どうにかぎこちない笑みを返す。
《菜月さん、か。……隣の席、結構良いかも。》
今思えば。
これが地獄の始まりだったんだろうな。
***
それからの僕は、ありとあらゆる方法で彼女にアプローチした。
後に思い出すだけで、頭痛と悶絶を繰り返すことになる黒歴史の数々。
例えば学級委員。
運悪く、いや当時の僕からすれば幸運にも同じ学級委員になった。
菜月さんに良いところを見せよう。
張り切れば張り切るほど大きく空回り。
何度生活主任に怒られたか、もう覚えてない。
続いて部活動。
菜月さんの所属するバドミントン部が、時々サッカー部の練習を見に来るらしい。
そんな情報を手にした僕は燃えに燃えた。
万年ベンチ外でありながら、己の限界を超えるべくひたすら練習。
そしてある日の練習試合で、見事レギュラー入りを果たしたのだった。
菜月さんも見ている。
これは頑張るしかない。
「よっしゃあ、やるぞぉぉぉぉ!!」
物語の主人公気分でコートに入った。
「おっしゃあ! やらかした!!」
気合と一緒にボールもゴールに入った。
もちろん相手のではなく味方のである。
結果は二対一で敗北。
決定点は僕でした。
そして私生活。
親友の力を借りて菜月さんの連絡先を入手。
話題を無理やり捻り出しては即連絡。
グループL〇NEでの発言に対する謎のアドバイス。
誰も頼んでいない長文メッセージ。
たまに定期的な自作ポエム。
今思う。
あの時の僕は若かった。
つまり何が言いたいかというと―――
文面がキショ過ぎたのである。
オブラートに包んでみても、気持ち悪い以外の言葉が見つからない……。
穴があったら入りたい。
あぁ~。
当時の自分、マジで埋めてぇぇぇぇ!!
そんな訳の分からないメッセージにも、菜月さんは律儀に返信してくれていた。
だから勘違いした。
盛大に。
“これ、脈アリじゃね?” と。
思春期男子、特に僕なんて単純なものだ。
優しくされれば好きになるし、返信来れば期待する。
熱に浮かされた阿呆。
それが、“古川雄介”という男子だった。
んで、こじれにこじれた厨二野郎はついにやらかす。
「好きです、僕と付き合ってください。」
ほぼ勝ち確だと思ったよ。
その時期、しょっちゅう菜月さんと目が合っていたもの。
だけど現実は残酷だった。
「ごめんなさい。」
たった一言。
それだけで僕の恋は終わった。
ちなみに後から知った話だが、
目が合っていたのは僕ではなく親友の方だったらしい。
僕らの橋渡しをしてくれた、あの親友を。
人を好きになるって残酷だ。
それから青春というのは、こうもままならないのだろうか?
だけど僕は諦めなかった。
正確には引くに引けなくなっていた。
彼女への恋心は、放置できないくらい膨れ上がっていたから。
デートに誘った。
三回延期された。
その時点で察するべきだったのだろう。
菜月さんには彼氏がいた。
今なら分かる。
僕は断られていた。
でも気づけなかった。
まだまだチャンスはあるんだって、
そうやって自分の都合の良いように解釈していたんだ。
そして卒業式。
当日、友人の一人が言った。
「お前と菜月さんが一緒に写真撮れるよう交渉してくるわ。」
適当に聞き流していた。
どうせ冗談だと思ったからだ。
だが数分後。
奴は満面の笑みで帰って来た。
嫌な予感が背筋を走る。
そして、
「ダメだった~~~!」
校庭に響き渡る声でそう叫んだ。
あの瞬間の絶望、今でも忘れられない。
追い撃ちで、その時の様子を再現しかけた時。
僕の拳は、奴目掛けて飛ぶ寸前だった。
おかげで卒業式の写真には、良かったものが一つも無い。
全部が全部、ふくれっ面のコンパスだった。
***
そんなこんなで。
僕のガラス細工みたいな恋心には、大きなヒビが入った。
高校になっても。
大学生になっても。
その傷は残ったままだった。
菜月さん。
君は今、どこで何をしているのだろう。
僕は相変わらず元気にしてるよ。
君からもらった傷と、
無数の穴が開いた恋心を抱えたまま。
誰と会っても満たされることなく。
僕は今日も生きていく。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は、初恋の痛みと未練をテーマに書きました。
時間が経てば忘れられると思っていたことが、案外ずっと心の中に残り続ける。
そんな経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。
作中の雄介は、自分の過去を笑い話のように語っています。
ですが本当に忘れられているなら、わざわざ思い出したりはしないんですよね。
きっとその傷は、今も少しだけ残っています。
皆さんにも忘れられない思い出や恋があるなら、この作品のどこかに共感していただけていたら嬉しいです。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
浜焼き三太郎




