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忘れらんねえよ

掲載日:2026/09/15

こんにちは、浜焼き三太郎です。


今回のお話は、初恋と失恋がテーマです。


誰にでも一つくらいは「あの頃の自分を思い出すと布団の中で暴れたくなる記憶」があるんじゃないでしょうか。


この作品の主人公も、そんな黒歴史を大量生産した一人です。


笑いながら読んでいただけたら嬉しいです。


よろしくお願いします。


中学一年入学式。


当時の僕は、小学校とは違う大人びた雰囲気に気圧されながら、期待や不安を膨らませていた。


おかげで式の後も緊張は抜けず、教室の席に着いてからも体はどこか強張ったままだった。


だからだろうか。


「あっ。」


気づいた時には、机の上のネームプレートを床に落としていた。


拾おうと身を乗り出す。


だが慣れない机といすに邪魔され、上手く手が届かなかった。


一旦座って、どうしようか考えていると、


「これ、落としましたよ。」


隣から柔らかな声が聞こえた。


おずおずと視線を向ける。


そこには、花柄のピンで前髪を止めて、おでこをすっきりさせた少女がいた。


「えっと、古川雄介さん?」


瞬間、心臓が大きく飛び跳ねた。


脈拍は急上昇。


脳内でサイレンが鳴り響く。


「あ、うぇ、そ、その……。」


しどろもどろになる僕を、彼女はキョトンとした顔で見つめていた。


「あ、ありがとう、ございましゅ!」


緊張のあまり盛大に噛んだ。


《うわぁぁぁ……何やってるんだ僕!》


絶対引かれ、た?


菜月さんは、目を丸くしたまま固まっていた。


数秒後。


「ふふっ。」


小さく笑みを零した。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。これからクラスメイトになるんですから。」


差し出されたネームプレートを、震えた手で受け取る。


「私は菜月穂乃花です。これからよろしくお願いしますね、古川さん。」


「こ、こちらこそ。よろしくお願いします、菜月さん……。」


菜月さんがにこりと微笑んだ。


僕は内心バクバクしながら、どうにかぎこちない笑みを返す。


《菜月さん、か。……隣の席、結構良いかも。》


今思えば。


これが地獄の始まりだったんだろうな。


***


それからの僕は、ありとあらゆる方法で彼女にアプローチした。


後に思い出すだけで、頭痛と悶絶を繰り返すことになる黒歴史の数々。


例えば学級委員。


運悪く、いや当時の僕からすれば幸運にも同じ学級委員になった。


菜月さんに良いところを見せよう。


張り切れば張り切るほど大きく空回り。


何度生活主任に怒られたか、もう覚えてない。


続いて部活動。


菜月さんの所属するバドミントン部が、時々サッカー部の練習を見に来るらしい。


そんな情報を手にした僕は燃えに燃えた。


万年ベンチ外でありながら、己の限界を超えるべくひたすら練習。


そしてある日の練習試合で、見事レギュラー入りを果たしたのだった。


菜月さんも見ている。


これは頑張るしかない。


「よっしゃあ、やるぞぉぉぉぉ!!」


物語の主人公気分でコートに入った。


「おっしゃあ! やらかした!!」


気合と一緒にボールもゴールに入った。


もちろん相手のではなく味方のである。


結果は二対一で敗北。


決定点は僕でした。


そして私生活。


親友の力を借りて菜月さんの連絡先を入手。


話題を無理やり捻り出しては即連絡。


グループL〇NEでの発言に対する謎のアドバイス。


誰も頼んでいない長文メッセージ。


たまに定期的な自作ポエム。


今思う。


あの時の僕は若かった。


つまり何が言いたいかというと―――


文面がキショ過ぎたのである。


オブラートに包んでみても、気持ち悪い以外の言葉が見つからない……。


穴があったら入りたい。


あぁ~。


当時の自分、マジで埋めてぇぇぇぇ!!


そんな訳の分からないメッセージにも、菜月さんは律儀に返信してくれていた。


だから勘違いした。


盛大に。


“これ、脈アリじゃね?” と。


思春期男子、特に僕なんて単純なものだ。


優しくされれば好きになるし、返信来れば期待する。


熱に浮かされた阿呆。


それが、“古川雄介”という男子だった。


んで、こじれにこじれた厨二野郎はついにやらかす。


「好きです、僕と付き合ってください。」


ほぼ勝ち確だと思ったよ。


その時期、しょっちゅう菜月さんと目が合っていたもの。


だけど現実は残酷だった。


「ごめんなさい。」


たった一言。


それだけで僕の恋は終わった。


ちなみに後から知った話だが、


目が合っていたのは僕ではなく親友の方だったらしい。


僕らの橋渡しをしてくれた、あの親友を。


人を好きになるって残酷だ。


それから青春というのは、こうもままならないのだろうか?


だけど僕は諦めなかった。


正確には引くに引けなくなっていた。


彼女への恋心は、放置できないくらい膨れ上がっていたから。


デートに誘った。


三回延期された。


その時点で察するべきだったのだろう。


菜月さんには彼氏がいた。


今なら分かる。


僕は断られていた。


でも気づけなかった。


まだまだチャンスはあるんだって、


そうやって自分の都合の良いように解釈していたんだ。


そして卒業式。


当日、友人の一人が言った。


「お前と菜月さんが一緒に写真撮れるよう交渉してくるわ。」


適当に聞き流していた。


どうせ冗談だと思ったからだ。


だが数分後。


奴は満面の笑みで帰って来た。


嫌な予感が背筋を走る。


そして、


「ダメだった~~~!」


校庭に響き渡る声でそう叫んだ。


あの瞬間の絶望、今でも忘れられない。


追い撃ちで、その時の様子を再現しかけた時。


僕の拳は、奴目掛けて飛ぶ寸前だった。


おかげで卒業式の写真には、良かったものが一つも無い。


全部が全部、ふくれっ面のコンパスだった。


***


そんなこんなで。


僕のガラス細工みたいな恋心には、大きなヒビが入った。


高校になっても。


大学生になっても。


その傷は残ったままだった。



菜月さん。


君は今、どこで何をしているのだろう。



僕は相変わらず元気にしてるよ。


君からもらった傷と、


無数の穴が開いた恋心を抱えたまま。



誰と会っても満たされることなく。



僕は今日も生きていく。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


この作品は、初恋の痛みと未練をテーマに書きました。


時間が経てば忘れられると思っていたことが、案外ずっと心の中に残り続ける。


そんな経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。


作中の雄介は、自分の過去を笑い話のように語っています。


ですが本当に忘れられているなら、わざわざ思い出したりはしないんですよね。


きっとその傷は、今も少しだけ残っています。


皆さんにも忘れられない思い出や恋があるなら、この作品のどこかに共感していただけていたら嬉しいです。


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。


浜焼き三太郎

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