第一章 第七話 残された五人
「ごめんなさい! 待たせたわね!」
翠玉色の機体が、巨大バグの前に現れた。
オープンチャンネルから、女性の声が聞こえる。
「危ない!」
誰かが叫ぶ。
巨大バグが、衝撃波を放つ。
「波長確認……こう!」
翠玉色の機体が、バリアを展開する。
正面から防ぐのではなく、衝撃波を受け流すような形状。
放たれた衝撃波は、空に向かって虚しく消えた。
「一気に行くわ――『フレスベルグ』!!」
そして、魔法が放たれる。
圧倒的な、暴風の領域。
装甲の有無など、この前には何一つ意味をなさない。
切り刻まれ、崩壊していく巨大バグ。
断末魔の声さえも、暴風の中に消えるしかなかった。
残されたのは「コア」と呼ばれる、バグの中核。
これを封印することで、バグを完全に「消す」ことができる。
「状況は……かなり、悲惨ね。『アールヴヘイム』!」
俺たちの機体、そして肉体が、急激に回復していく。
疲れすら癒す、最上級の回復魔法だ。
「救えなかった……分かっていたのに!」
翠玉色の機体から、悔しそうな声が漏れる。
「分かっていた?」
俺は、疑問を抱いた。
結希も同じ考えに至ったようで、首をかしげる仕草をしている。
「とりあえず、戦いは終了。みんな、除装(機体から降りること)していいわよ」
その声に従い、全員機体を送還した。
送還された機体は、専用の「整備工場」に転送される。
そこで修理を受け、次の戦闘に備えることになるのだ。
「いてて……頑張ったんだけどな」
隣にいた、真紅の機体。
操縦者は、生きていたようだ。
そこにいたのは、一人の男子生徒。
入学式の時、真っ先に飛び出した人物であった。
「死亡フラグ、何とか断ち切ることができたようですね」
紺碧の機体に乗っていた少女が、声をかける。
どうやら二人は、知り合いのようだ。
「全くにゃ。特大のフラグで、見ていてハラハラしたにゃ!」
深緑の機体から現れた少女も、知り合いのようである。
どうやら全員が、死亡フラグだと考えていたようだ。
「じ、冗談じゃねえ! こんなこと、やってられるか!」
前線に立っていた入学生の一人が、叫び声をあげる。
それに呼応し、この場から逃げ出す者が次々と現れた。
「……クマサカに、やられたわ。私が遅れればこうなることを、予想していたということね」
ポツリと、翠玉色の機体から現れた女性がつぶやいた。
ピンク色のロングヘア。
整った顔立ち。
俺たちよりも、少しだけ年上っぽい雰囲気。
間違いない。
彼女が、藤花舞。
俺たちの、担任だ。
「落ち着いてください。暴れないでください!」
体育館の方から、アナウンスが聞こえる。
どうやらこの戦いの映像を、流した者がいたのだろう。
結果、普通科の生徒や保護者達が、不安を爆発させているようである。
「入学式を続けるのは、無理そうね。残っているのは……二年生を除くと、五人だけ、か」
気づくと、俺たち以外の新入生は皆、この場を去っていた。
残されたのは、俺と結希。
そして、二人の少女と一人の少年。
恐らく去ったものは、全員退学届を出すだろう。
この五人だけが、今年度の新入生ということになる。
「二年生のみんな、お疲れさま。今日は解散。そして、新入生はこちらに来てちょうだい」
俺たちは、彼女の指示に従うことにした。
戦いには勝利したものの、高揚感は一切なかった。




