第二章 第十九話 変わる現実
<ログアウト>
「ふう……昨日に引き続き、激動の一日だったな」
俺はVRデッキを外し、ひと息つく。
わずか二日の間に起きたとは思えないほど、濃厚な時間であった。
「しかし……このVRデッキ、破格としか思えないな」
脳に働きかけ、もう一つの世界を体感させるほどの機器。
しかし、一式そろえても、わずか15万円で購入できるのだ。
加えて、VR空間を利用してさまざまなビジネスアプリケーションなども利用できるため、テレワークにおける需要も極めて高い。
文字通り、自分の世界に没頭して作業ができるからだ。
「パソコンや他のゲーム機と比較しても、あまりにも性能が高すぎる。まあ、利用者にとっては安いに越したことは無いが」
この機器の技術は、一部公開されている。
その部分は機体にも応用されており、性能の向上にかなり貢献しているようだ。
ちなみに、みかんのネコミミデバイスも、その技術を利用していると思われる。
「合同会社、インフィニティ……どういう経営を行っているのだろうか? 普通に考えれば、採算割れは確実なのだが」
いけない。
つい、考察モードに入ってしまっていた。
VR機器に対して考えることは止め、お風呂に入ることにする。
「しかし、明日からはどうなるのだろうか? 舞がみかんに対し、授業があると言っていたが……本当に、できるのか?」
やはり、ダメだ。
どうしても「考える」ことを、手放すことができない。
これはもう、俺の本質なのだろう。
実際、ヒーロー科に残ったのはわずか五人。
そして、二年生もほぼ同じくらいの人数しかいなかった。
三年生の全滅事件を受け、当時の一年生、及び二年生の多くが、他の学校に転校したからである。
学校の施設にかかる維持費だけでも、相当な額になるはずだ。
そして、利用するのはわずか10人程度。
この状況が放置されるとは、考えにくい。
「舞は、自信満々だったが……この状況、どうやってひっくり返すつもりだ?」
一番厄介なのは、学校の内部にもクマサカの手が伸びていることだろう。
だが、ふと思い返す。
「そういえば、前回のループを知っているはずだ。そこから何か、アイデアを得たのだろうな」
ループする世界。
俺自身は観測していないため、推測することしかできないが……たった一回のループであっても、絶大なアドバンテージが得られるだろう。
「とはいえ、奏という予想外の接触もあった。彼女の知識は、万能ではない」
あの砕けた宝石。
彼女が使う防御結界なのだから、最高レベルのものが付与されているはずだ。
それすら貫く、奏の力。
「ゲームを通して、徐々に見極めるのが吉、かな」
一体どんな人物なのか。
結希は明らかに、彼女のことが気に入っているようだ。
だからこそ、俺は嫌われ役になってでも彼女の真意を知る必要がある。
「さて、そろそろ風呂から出るか。のぼせそうだ」
俺は風呂から出て、部屋に戻って眠ることにした。
そして、翌朝。
結希とともに、学校へ向かう俺たち。
「それにしても、奏さんの歌、すごかったよね……」
結希は完全に、彼女にやられてしまったようだ。
確かにあの歌は、すごい、というよりも凄まじいとしか、言いようがない。
「まあ、もう一度深海に引きずり込まれるのは勘弁願いたいがな。ゲームを通して、明るい曲を覚えてくれたのなら、また聞いてもいいと思うぞ」
このくらいならば、結希も反発しないだろう。
実際あの歌を、もう一度聞くのは辛い。
「確かに。あの歌声で、綺麗で明るい曲を歌えるようになったら、下手なアイドルなんて太刀打ちできないよね」
「確かに、顔立ちも整っていたな。表情が明るくなったら、さぞ映えるだろう」
俯いた状態でも、奏が可愛いことは俺も認める。
願わくは、明るい表情を出せるようになってもらいたいというのも、本音の一つだ。
「あれ、なんだか、工事をしているよ?」
「それも、学校の校門で……一体何をやっているのだ?」
そこで行われていたことは、衝撃的なものであった。
フジ市立という文字が外され、私立という文字に変更されている。
「「ええ~!!」」
俺たち二人の声が、響き渡った。
To be continued




