第二章 第十六話 落ちる翼
俺たちが向かったのは、ヴァリアントモンスターが登場するフィールドだ。
通常のモンスターとは、大きく性質が異なるモンスターのことを、ヴァリアントモンスターと呼ぶ。
その中でも、ここで遭遇するタイプは比較的出現率が高く、かつカナの戦闘スタイルと非常に相性が良い上、経験値も高めに設定されているのだ。
「いた。メタルプディングだ」
プルプルとした、金属的な光沢をもったモンスター。
有名なRPGに出てくる、経験値を大量にもらえるモンスターと、外見上少し似ている。
しかし、性質は全く異なるのが厄介なところだ。
まず、このモンスターは極めて好戦的であり、逃げるということはまずない。
加えて、HPは5で固定されている。
しかし、どのような攻撃を行ったとしても、与えられるダメージは1に留まるのだ。
加えて厄介なのが、HPは『各人ごと』に設定されるという特殊仕様だ。
そのため、『一人で』5のダメージを与えなければ、倒すことができないのである。
動きは遅いものの、近接攻撃の針の威力は並大抵ではない。
たとえレベルが高い俺たちであっても、数回食らったら危ないほどだ。
「でも、奏にとってはただの美味しい相手、にゃ」
このモンスターを倒すコツは、連続攻撃である。
一回の攻撃で1のダメージを与えるため、5ヒット以上の攻撃であれば、確実に倒すことができるのだ。
もっとも、そのレベルの技を使えるようになるころには、そこまで美味しい相手ではなくなってしまうのが普通である。
しかし、カナは別だ。
空を飛ぶことができるため、近接攻撃を食らう心配はない。
加えて、ハープボウは一回の攻撃で、四本の矢を放つことができる。
つまり全弾命中を前提とすると、たった二回の攻撃で倒せる相手ということになるのだ。
「分かりました。絶対に近づかないようにして、矢を打ちまくればいいのですね」
「ああ。連射するだけの、簡単なお仕事というやつだ」
カナの同意を得て、俺たちの狩りが始まった。
「俺は、空の敵を警戒しておく。マオも悪いが、協力してくれ」
「分かったにゃ! 万が一に備えて、ニカは回復の用意を頼むにゃ!」
「了解。まあ、必要になることは無いと思うけれども」
カナが、空中から二連射、たまに三連射で着実に、メタルプディングを倒していく。
一体倒すごとに、俺は地上の索敵を行い、次のメタルプディングや近づくモンスターを確認する。
たまに、空を飛んでカナに襲い掛かろうとするモンスターがいるが、俺の銃による攻撃と、マオのロケット花火で、次々と撃ち落とされていく。
メタルプディング以外のモンスターは、ウィルの出番だ。
美しい剣技で、次々と命を刈り取っていく姿は、実に頼もしい。
あまりにも、安定した狩り。
そのため、油断があったのは事実だ。
「ん、これは……?」
今までとは異なる反応。
何より、移動がシャレにならないほど速い。
俺が警告を発する前に、そいつはフィールドに現れた。
赤い、メタルプディング。
こいつの特徴は……まずい!
「カナ、攻撃中止!」
わずかに、間に合わなかった。
四本の矢が、赤いメタルプディングに向かって飛ぶ。
突き刺さる矢。
それに反応するように、こいつは体を尖らせ、そのまま先を矢のように飛ばしてきた。
空中で、カナは慌てて回避しようとする。
しかし、その中の一本が、まともに命中する。
大ダメージを受け、力尽きて落ちていく。
極めてまずい状態だ。
「ウィル、回収を急げ! ニカ……」
既にニカは、動いていた。
カナの体が一瞬、透けそうになったそのタイミング。
回復魔法が発動し、カナは肉体を取り戻した。
ジャスト・ヒール。
キャラクターが倒れる直前の、ごくわずかなタイミングでのみ発動可能な、一種のバグのような技。
今回成功したのは、まぐれに近いだろう。
加えて、ジャスト・ヒールの場合は気絶していたとしても、その場で意識を取り戻すことが可能という特徴がある。
体勢を立て直す、カナ。
何とかウィルが抱き留めて、地面に墜落することは防ぐことができた。
その際「お姫様抱っこ」になっており、お互いに顔を赤らめているのは仕方ないだろう。
向こう側のロマンスについては、そっとしておくことにする。
カナを救うことはできたものの、状況は悪い。
俺は覚悟を決めて、銃のマガジンを交換した。




