第二章 第十四話 カナという名前
家に帰り、両親と共に夕食をとる。
そして部屋に戻った俺は、VR機器を手に取った。
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いつものたまり場。
昨日は、疲れで冒険できなかった。
そのため、今日は頑張ろうと思っていたのだが……。
「ごめん。今日は新規プレイヤーのために、時間を使ってもらえるかな?」
ニカが、手を合わせるジェスチャーとともに、俺たちに質問する。
「新規の人だと、分からないことも多いからね。僕は良いよ!」
ウィルは、素直に賛成する。
「にゃ。新人が楽しめるかどうかは、最初で決まるからにゃ」
マオも、賛成のようだ。
「分かった。その代わり、明日からはしっかり冒険するということで良いか?」
「うん。ただ……その人はパーティーに加わるかもしれない。そうなったら、レベリングに協力してもらうことになる。それでも良いかな?」
このパーティーに、新人が加わる可能性。
即座に賛成するのは、正直難しい。
「その人物次第だな。とりあえず、会いに行くことにしよう」
俺たちは、新規プレイヤーが降り立つ場所である『モノリスの丘』に向かうことにした。
人気のあるゲームだけに、新規プレイヤーも毎日加わっている。
そのスタート地点は、この『モノリスの丘』に固定されているのだ。
「あれ? なんだか、人だかりができているけれども……」
ウィルが、前方を指さす。
このゲームでは、新規プレイヤーはパーソナライズされ、それぞれに合った『初期職業』や『種族』が割り振られる。
ある程度までは、プレイヤー側で選ぶ余地もある。
しかし、まれにレア種族やレア職が強制的に割り振られることもあり、どのようなアルゴリズムが組まれているのかは、プレイヤー側からは分からない。
「み、見ないでください!」
その声に、聞き覚えがある。
真っ先に走り出したのは、ウィル。
俺は、その後を追うような形となった。
「すみません! その人、僕たちのパーティーメンバーです!」
ウィルが人だかりをかき分けて、奥にいた少女の手を取る。
今度は、振りほどかれることは無かった。
それだけ、今の状況に怯えていたということもあるだろう。
また、間違いなく言えることがある。
プレイヤーは、奏だ。
この声を聴き間違えることは、あり得ない。
「にゃっ! 踊り子さんには、手を触れないでください、にゃ!」
パーティー全員が協力し、何とか人込みを解消させることができた。
しかし、根本的な問題は、解決していない。
「カナ、ステータスをオープンモードで、こちらに示せる?」
「分かりました。ニカさん」
オープンモードの場合、他人がステータスを確認することができる。
キャラクター名は、カナ。
種族は……セイレーン?
「種族の影響で、人魚の姿になっているということか」
「とりあえず、僕のマントを貸すよ。そのままだと、風邪をひきそうだから」
ウィルがマントを手渡し、奏がそれを羽織る。
初期装備は、胸の部分に簡素な布がまかれているだけの状態だ。
本来与えられる初期装備より、防御力は低そうである。
「それ以前に、上手く動けません……」
この状態は、良くない。
俺はすぐさま、運営にメールを送った。
すぐに、返答が来る。
そこに書かれていたことは、かなりありがたいものであった。
「カナ、でいいのか? 運営に問い合わせたところ、二種類の姿を選ぶことができるようになったようだ。トランスフォームと、口にしてくれるか?」
「分かりました。『トランスフォーム』」
姿が変わる。
翼を有する、人型に変わることができたようだ。
「どういうこと?」
ウィルの問いに、俺は答える。
「セイレーンであれば、人魚の姿と鳥の羽が生えた人間、二種類存在するはずだ。そのことを指摘したら、すぐに対応してもらえたようだが……」
それにしても、対応が早すぎるように感じる。
もし、初期時点でこの不都合が分かっていたのならば、あらかじめこの要素は導入されていたはずだ。
もっとも、極めて高度なAIが運営の補助に使われているため、このくらいの対応速度でもおかしくないのかもしれないが。
「とりあえず、武器と防具を作るね。この状態で戦わせるのは、さすがに酷いから」
ニカの言うとおりだ。
パーティーへの編入云々以前の問題に、思わず頭を抱えてしまった。




