第二章 第十二話 本当の問い
「話をするのなら、助手席がいいわね。乗ってちょうだい」
「少し待て。助手席に俺が座っているのが、目撃されたらどうするのだ?」
舞の言葉に、慌てて俺は反論する。
おどけたような口調で、舞がからかった。
「ん~。もし噂になったりしたら、責任をとってくれる?」
「残念ながら、あくまでもヒーローは成人と擬制されるだけだ。民法第731条に、婚姻は18歳と定められている」
舞が、口を尖らせた。
「それ、誘い文句に対する返しとしては最悪!」
そして、笑いながら付け加えた。
「まあいいわ。助手席は外から見ても、誰が座っているのか分からない作りになっているから、安心してちょうだい」
窓ガラスから、車の内側を確認する。
確かに、助手席の部分はスモークによって見えにくく作られていた。
「分かった。後ろの席と話すのは、大変だろうからな」
観念した俺は、助手席に座ることにした。
車が出発する。
すぐに、舞が俺に語り掛けて来た。
「で、聞きたいことは何なの?」
「二つある。一つ目は……前回のループで、奏の能力は確認していたのか?」
俺の問いに対し、舞は苦笑して答えた。
「全然。結希に恋人ができたということだけは、知っていたけれども……こんな力があるなんて、予想外もいいところよ」
身に着けていた、防御結界のチャームを示す。
宝石の一つが粉々に砕け散っていた。
「精神攻撃に対しても、十分な防御力があるものよ。それが、この状態だもの」
その結果に、ゾッとする。
もし、奏に悪意があったとしたら……俺たちはあのカラオケボックスで、全滅していたのかもしれない。
「それで、二つ目の質問は何かしら?」
「ああ。ローレライの伝承と、口走っていたが……」
舞が、説明する。
歌魔法は本来、そこまで重視されるものではないとのことだ。
耳にする全員に効果を及ぼしてしまうこと、他の魔法のような、劇的な効果が発揮されることがないことが、要因となっている。
「それを覆すのが、ローレライと呼ばれる者たちなの」
その歌声は、それこそ「世界を掌握する」ほどの力を持つらしい。
だが、実在するとは考えられていなかった。
それこそ、錬金術師における「賢者の石」レベルのおとぎ話、だったのだ。
「彼女、私たちとは異なる学校に通っているようね。正直、欲しいと思っている」
「とはいえ、今動くのは難しいだろう。足元がぐらついている状況で、権力を示すのは危険だと思うぞ」
俺は、舞に警告する。
クマサカの手が、学校のどこまで及んでいるのか。
それが分からない状況で、ほぼ新任教師の舞が権力をかざすことは、極めて危険であろう。
「まあね。もう少し、待たないと」
何らかの手は、打っているようだ。
以前口にした「プランC」とやらが、恐らくそれなのだろう。
「で、私の勘なのだけれども……本当に聞きたいことは違う。結希の行動が、理解できないこと。どうかしら?」
「?!」
息が詰まる。
奏が歌っている時に、俺が一番強く感じていた疑問だ。
「こういうのは、教えられて『はいそうですか』と納得できるものではないと思うわよ。ただ、ヒントだけはあげる」
ちょうど、学校についたところだ。
駐車場に入り、車が停止する。
そこで舞は、スマートフォンを操作した。
「あなたならば、エニアグラムは知っているでしょう? このサイトは、一般的な解釈とは少し異なる情報があるから、参考にすると良いと思うわよ」
「感謝する。あとは自分で調べろ、ということだな」
車から降りる。
舞はこのまま、職員室に向かうようだ。
「あなたは、どうするの?」
「俺は……そうだな。家に帰る途中で、サイトを確認することにしよう」
学校の図書館が使えるのならば、楽なのだが……残念ながら臨時休校中なので、それは不可能だ。
ゆっくり時間をかけて確認するには、喫茶店のような場所が良いだろう。
俺は舞と別れ、学校を後にした。




