第二章 第十話 深海の少女
シンクロニシティが発動する。
結希と奏の声が、聞こえてくる。
「悪いけれども、目の前にバグがいると思って行動してくれる?」
舞の言葉に従い、俺たちは戦闘を想定した動きに変えた。
「(すごい! 体が軽い!)」
「(ああ。これを知ってしまうと、今までのシンクロニシティが重く感じるな)」
「(私は、維持に力を注ぎます。戦闘は、二人に任せます)」
結希との連携が、今まで以上にスムーズに進む。
奏がシンクロニシティの負荷を引き受けることで、俺たちは戦闘に専念することができているようだ。
その恩恵を一番受けているのは、結希。
俺が思った通りに、バグへの連携攻撃が行われる。
そして、結希が少しだけ離れる。
俺はそのタイミングで、バグに向けてワイヤーを射出する。
突き刺さった部分を中心として、円の動きを行いつつ、右腕部の銃を連射。
結希も『飛燕』で、それに加担する。
最後は結希が、突撃。
そのまま、バグに切りかかる。
切り口に向けて、銃とダーツの集中攻撃。
巨大バグには通用しなかっただろうが、通常のバグであれば確実に倒せるだろう。
歌が終わる。
それによって、シンクロニシティが解除された。
「ありがとう。思った以上の効果ではあるのだけれども……」
舞は、少し煮え切らないような表情を浮かべていた。
「すげえぜ! 少し前の動きと比べても、別物になっているじゃねえか!」
「みかんも、すごいと思うにゃ! この連携を食らうバグが、哀れに思うにゃ!」
「私も、そう感じましたが……舞先生には、違うものが見えているのでしょうか?」
明とみかんは、絶賛していた。
漣は舞の様子がおかしいことに気づいたようで、疑問を口にしている。
「う~ん。うまく言えないのだけれども……奏さん、でよろしいのかしら?」
「はい。何でしょうか?」
舞が、思い切って言い放つ。
「全力を出していないわね。この二人の歌に、合わせていたでしょう?」
これで、全力ではないというのか?!
不覚にも、俺は全く気付くことができなかった。
「あなたたちは当事者だから、分からなくても仕方ないわよ。傍から見て、そう感じただけなのだけれども……違う?」
その言葉に、奏は頷いた。
「私が全力を出すと、大変なことになりますから」
いったい、何が起こるというのか。
好奇心を抱いたのは、俺だけではなかったようだ。
「一度でいいわ。全力を出してもらえるかしら?」
舞の言葉に、奏が考え込む。
そして、部屋の四隅に設置されている、結界器具を指さした。
「これの、出力を最大に上げてください。それが、全力を出す条件です」
「分かった。ちょっと調整するわね」
舞が、器具の調整を行う。
本当に、何が起こるのか……予想もつかない。
「準備できたわよ。それでは、始めてくれる?」
「分かりました。自分の好きな曲で、シンクロニシティを考えずに行います」
奏が、歌い始める。
次の瞬間、俺たちの目にする光景が一変した。
広い、海の中。
沈みゆく少女。
俺たちは、見守ることしかできない。
「うそ。防御結界が、全く役に立たない……」
舞の声が、遠くに聞こえる。
その間にも、海底に向けて沈んでいく少女。
俺たちも、息苦しさを感じている。
心を閉ざし、ひたすら海底を目指す少女。
「泣いている……いや、哭いている?」
結希の声が、聞こえた。
悲しみの感情で、俺は押しつぶされそうになる。
海底で、横たわる少女。
そのまま、眠りにつこうとする。
「行かなくちゃ……僕が、行くんだ!」
「待て、結希!」
俺の声は、届かない。
結希が少女に向かって、全力で進んでいく。
俺はただ、それを見守るしかなかった。




