第二章 第九話 恐れを超える選択
「結希、さすがに俺でも手に余る状況だ」
俺は、正直に結希に伝えることにした。
笑っていた結希が、真顔になる。
「シンクロニシティが、完全に発動していた。今、笑って途切れたこと。それこそが、思考を含む完全同調の証だ」
奏も、理解できたようだ。
しかし、俺たちほど驚いている様子はない。
シンクロニシティという能力の特性を知らないのだから、当然のことである。
「俺としては、舞にも協力してもらいたいと考えている。ただ、奏が拒むのならば、その意思を尊重しようと思っている。どうする?」
「僕も、それが良いと思うよ。一緒に行こう!」
結希が、奏に向けて手を差し出す。
奏は強い怯えとともに、その手を払った。
「ごめんなさい。男の人が、どうしても怖くて……」
結希の表情が、変わる。
手が払われたことに対する驚きから、喜びに。
俺も、驚愕している。
結希を初見で、男性と判断する。
これは、今までになかったことだ。
「嬉しい。ちゃんと、分かってくれたんだね」
奏は、疑問符を浮かべたような顔をしていた。
まあ、文脈が分からなければ当然のことであろう。
「結希は、今まで男性として見られたことがほとんどない。それで、喜んでいるんだ」
俺が、補足する。
それによって、奏は理解できたようだ。
何か、考え込む表情を見せる。
「すみません。少し、待っていただけますか?」
部屋にある、小さなテーブルの上にカードを並べる。
そして、その中の一枚を手に取った。
「ナンバー8、剛毅。忍耐、そして進む勇気」
どうやら、タロット占いをしていたようである。
そして、覚悟を決めた表情で、俺たちに声をかけてきた。
「分かりました。行きましょう」
「うん!」
結希は、素直に喜んでいる。
どうやら、タロットの最後の解釈が、自分の名前と一致していることに対し、何らかの意味合いを見出しているようだ。
特に水を差す必要はないため、俺は何も言わなかった。
俺たちは、皆がいる部屋の前にたどり着いた。
相変わらず、舞の独壇場になっている。
「これは……魂が、込められていません。空虚に感じます」
「え、歌を聞くだけで、分かるの?!」
結界自体に気づいたというわけではない、と思う。
だが、わずかな時間で違和感を抱くというのは、並大抵のことではない。
「説明は、後でする。とりあえず中に入ろう」
俺は、部屋をノックする。
向こうからノックが返ってきたため、ドアを開けた。
テーブルの上には、追加注文のピザ。
テラ盛りのポテトとチキンは、既に姿を消していた。
「おう、しっかり出すものは出したか……いてっ」
「明、下品ですよ。それよりも……そちらの方は?」
漣が、俺たちの後ろにいる少女に気づいたようだ。
ちなみに舞は、バラードを歌っている。
みかんは、ピザに夢中のようだ。
「あの人が歌い終わるまで、少し待ってもらえるかな?」
「はい。この声には、たしかに魂が感じられます。ということは……結界?」
もしかしたら、彼女は良家育ちなのかもしれない。
このタイプの結界を、最も必要とするのは、そういう立場の人間だからだ。
「ふぅ。久しぶりに、しっかり歌ったわね。あら、その子は?」
舞が歌を終え、こちらに語り掛ける。
「彼女は奏。言葉で説明するよりも、実際に確認してもらったほうが早いだろう。すまないが、もう一曲お願いしてもいいか?」
俺は、奏に問いかける。
「分かりました。一緒に歌って、あの現象を再現すれば良いのですね」
その言葉に、舞が目を見開く。
「それじゃあ、この曲でどうかな?」
結希が選んだ曲は、奏も知っている曲であった。
――そして、シンクロニシティが発動する。




