第二章 第八話 三人目の共鳴
結希が、部屋に戻ってきた。
そして、俺の横腹を軽く肘で叩く。
何かあった時の合図だ。
「すまん。二人で花摘みに行ってくる」
「それ、女性の表現!」
すぐに舞が、ツッコミを入れる。
もちろん、この言葉を選んだのはわざとだ。
部屋を出る。
みかんの電波ソングが消え、舞の歌声に変わった。
「なるほど。外からはこういう風に聞こえるよう、設定しているのか」
「うん。次の時には多分、僕たちも歌っているようになるはずだよ」
やはり、結希は鋭い。
なぜこうなっているのか、きちんと理解している。
普通ならば、多少の違和感を覚えたとしても、理由までは分からないだろう。
「それで、一体何が起こったのだ?」
「えっと……うまく言えないから、こっちに来てくれる?」
即答できるような事態では、ないようだ。
俺は意識を切り替え、真剣に対応することにした。
結希に案内され、一つの部屋の前に立つ。
今のところ、室内で歌っている様子は見られない。
「ごめん。僕だけだとどうしていいのか分からないから、信用できる人を連れて来た。ちょっと怖いかもしれないけど、開けてもらえるかな?」
ドアが、ゆっくりと開く。
そこにいたのは、一人の少女であった。
青緑色のツインテール。
目はエメラルドグリーンで、伏せられた瞳は怯えを宿している。
トップスとボトムスは共に長袖で、茶色のおとなしい色合いであった。
「あなたは、誰?」
その声を向けられたのは、結希。
こちらでなかったことに、違和感を抱く。
「あ。名乗っていなかった!」
少し大きな声を出す、結希。
それに対し、少女は怯えるような仕草を見せた。
「結希、大人しい子のようだから、大声はやめた方がいいぞ」
俺は、結希を小声でたしなめた。
「ごめん。……僕の名前は、御門結希」
「俺は神崎久郎だ。よろしく」
少女が、口を開いた。
「私は、奏といいます。よろしくお願いします」
初対面の相手に、名字を名乗らないのは当然のことだろう。
そして、俺はその声に聞き覚えがある。
「もしかして、そういうことか?」
「うん。だから、久郎を連れて来たんだ」
戦闘中の、あの『がんばれ』という声。
目の前の少女が、口にしていたようだ。
「言葉、聞こえました。『ありがとう』って」
「結希、何かしたのか?」
結希の口から、今までの出来事が語られる。
それは俺にとっても、驚愕することであった。
「シンクロニシティの、意外な穴だな……再現性はあるのか?」
「分からない。もし、奏さんが嫌でなければ、一緒に歌ってもらえる?」
奏は少し悩み、こくりと頷いた。
部屋に入る。
少人数用の部屋であるが、何とか三人で歌うことはできそうだ。
「どの曲がいいかな……僕たちが知っている曲で、歌えそうなものはある?」
結希が、知っている歌をいくつか挙げる。
その中の一つに、奏が反応した。
「この曲か。少し難易度が高いが……できるか、結希?」
「うん。やってみる」
そして、三人の合唱が始まった。
俺たちは、能力を発動させる。
「(聞こえる、久郎?)」
「(ああ。聞こえるぞ)」
「(私も、聞こえます)」
完全同調。
今まで、結希との間だけで成立していたシンクロニシティ。
いや、まだ結論を出すには早い。
歌が進んでいく。
その中で、俺はわざと、くだらないギャグを脳裏に浮かべた。
「ぶふっ、久郎、それはないよ~!」
「ふふ……あ、すみません」
間違いない。
歌が途切れ、シンクロニシティが解除されたこと――それ自体が、思考の共有が行われていたことを示している。
シンクロニシティが、完全な形で発動していたのだ。
「これは、笑い事ではないぞ……」
俺だけでは、この状況を整理するのは無理だ。
何とか説得して、舞に判断してもらうしかない。
さて、どうすればよいだろうか?




