第二章 第七話 繋がった声
Side 結希
僕は、部屋を出る。
後ろに聞こえるのは、舞の独壇場であった。
「あれ? 舞しか歌っていない?」
考える。
そして、ようやく分かった。
「そうか。結界を張った時点では、僕たちの歌声を知らないからだ」
知らない歌声。
それは、不自然なものになる。
だから舞が一人で歌い、他の人は音頭に徹している。
「久郎ならば、一瞬で分かったのだろうな……」
久郎。
僕の幼なじみで、すごい人。
彼と出会ったのは、ヒーローズネストの開催している、剣術教室の後だった。
神崎広大自らが、子供に剣術を教えるというチャンス。
僕はそこで認められ、直弟子になった。
家に招かれ、出会ったのが久郎。
その時彼は、難しい顔をして問題集と、六法を照らし合わせていた。
「久郎、何か分からないところがあるのか?」
「ああ、父さん。どうもこの問題の答えが、違っているような気がして……」
横から少し、覗き込む。
日本語だということだけは、分かった。
でも、内容はさっぱり。
当たり前だった。
僕はまだ小学生で、漢字の読み書きも完璧とは言えない状態。
それなのに久郎は、六法全書という大人でも頭を抱えるようなものを、読んでいたのだから。
しかも問題に違和感を抱き、ネットで確認して誤植と分かり、安堵する。
明らかに、僕とは次元が異なる人だと、その時にも感じていた。
「今日は、思いっきり体を動かすぞ、久郎!」
「うわあ……父さんの本気は、シャレにならないから」
訓練の日。
僕と久郎は、同じ部屋で広大と戦うことになった。
まずは僕から。
思いっきり剣を振るい、広大を狙う。
すっとかわされたため、即座に横薙ぎに繋ぐ。
フェイントも織り交ぜながら、必死に戦う僕。
しかし、エネルギー切れで動けなくなってしまい、僕の首筋に木刀が添えられた。
「悪くはない。だが、フェイントが真っすぐすぎる。そこは課題だな」
「ありがとうございます!」
次は、久郎。
そして、彼は思わぬ行動に出た。
「忍術、胡椒爆弾!」
広大の足元に、卵が投げつけられる。
地面に当たったそれは爆発し、煙が上がった。
「ぐぉ、そういう手で来るか!」
目を開けていられない、広大。
久郎はあらかじめ、マスクやゴーグルを用意していた。
殺気を感じ取り、必死に反撃する広大であったが……それを滑り込むようにかわし、首元に小刀を突きつける久郎。
「今回は、俺の勝ちだ!」
「てめえ、やりやがったな! そのひん曲がった根性、叩きなおしてやる!」
その時のことは、今でも覚えている。
結局僕は、一回も広大に勝ったことがない。
久郎はその後、もう一度奇策を用いて勝利している。
……もちろんそのたびに、ボコボコにされていたけれども。
「戦いでも敵わないのなら、僕はどうすれば……」
そんな時。
久郎に悲劇が訪れた。
その時のことは、あまり思い出したくない。
ただ「力不足で、守れなかった」ことが、久郎に大きな影を落としているのは間違いないことだ。
「ふう……そうだ、飲み物!」
僕は、ドリンクコーナーに向かう。
コーラが入った紙カップを手に、戻ろうとしたその時。
「あれ? この歌声は?」
鎮魂歌。
その声に、思わず歌声を合わせてしまった。
そして、一言。
「(ありがとう)」
失敗した、と思った。
歌が途切れる。
綺麗な歌声、もっと聞いていたかったのに。
ドアが開かれる。
そこにいたのは、緑のツインテールが特徴的な少女。
「今の声、あなた?」
「うん。って、あれ?」
シンクロニシティ。
僕と久郎の間でしか、成立しない能力。
そして、戦場で聞こえた声。
全てが繋がった、瞬間であった。




