第二章 第六話 声は重ならず
「う~~にゃあ~!」
「うわ、何?!」
みかんが、思いっきり不満そうな顔をして叫ぶ。
いったい、何があったというのか。
「みんな、忘れているにゃ! ここは、どこだにゃ?!」
「カラオケボックス、マネキネコだけれども……」
舞が、戸惑いながら答える。
「そうにゃ! ここは歌うための場所にゃ! 難しい話をしたり、実験をするための場所ではないにゃ!」
言われてみれば、確かに。
本来ここは、歌を楽しむための場所だ。
「でも、私たちに残された時間は……」
「それ、逆じゃねえのか?」
舞の言葉に、明が反論する。
「時間は限られている。だからこそ、遊ぶときは目いっぱい遊ぶ。真面目になるのは訓練などの時だけ。そうでなきゃ、病んじまうぞ!」
確かに、その通りだ。
張りつめた糸ほど、弱いものはない。
「確かに、そうね。視野が狭くなっていたわ」
どうやら、舞も納得したようだ。
「そうと決まれば……まずは腹ごしらえ、にゃ!」
「結局、それが目的だったようですね」
漣が呆れたように、言葉を漏らす。
だが、緊張した空気がほぐれたのもまた、事実だ。
「ポテトのテラ盛り、フライドチキンのテラ盛りをそれぞれ2個ずつにゃ!」
「テラ盛り?!」
慌てて、メニューを見る俺たち。
そこに示されていたのは、5~6人分の巨大な代物であった。
「これ、テーブルの上に乗せられるのかな……?」
「俺たちの机を集めれば、何とかなるだろう」
結希と共に、教室型の部屋で良かったと心から思った。
「飲み物は、自分で取りに行くスタイルのようですね」
「なら、俺が行く! 何を希望するんだ?」
漣の言葉に、明が答える。
俺たちは好みの飲み物を伝え、明が部屋から出て行った。
「にゃふふ。ポテト、チキン~!」
「注文したからには、責任をもって食べること。いいわね?」
一応、舞が忠告するが……恐らく心配無用であろう。
みかんが見ているのは、メニュー表。
追加注文を何にするのかに、意識が向いているようだ。
「それでは、私も歌わせていただきます。この二人に比べれば、大したことはありませんが」
漣が、ナンバーを入れたようだ。
落ち着いた雰囲気の曲で、聞いていて心地が良い。
思わずハミングし、そして悪戯心が湧いてきた。
こっそりと『シンクロニシティ』を発動させる。
当然、帰ってくる感情は無かった。
「言わずに能力を使うのは、止めたほうが良いですよ」
波を扱う漣には、そのことが分かったようである。
俺の横を通るときに、そっと耳元でささやいた。
「お待たせいたしました。テラ盛り二セット、こちらに置かせていただきます」
「おっと、そのまま開けといてくれ。飲み物、入るぞ~!」
店員が食べ物を、明が飲み物を持ってきた。
ここからは、パーティーの時間だ。
明、みかんも歌い始める。
変身ヒーローの主題歌を、力強く歌い上げる明。
電波ソングを、歌いこなすみかん。
どちらも、なかなかの技量であった。
なお、あらかじめ途中でシンクロニシティを試すことは了解済みである。
結果は、惨敗。
今のところは、結希と俺の間でしか上手くいかないようだ。
「もう一回だけ、チャンスをちょうだい。三人で歌ってみましょう!」
舞の提案で、結希と俺、舞の三人で歌う。
舞の歌のレベルは、明らかにトウキョウから来た三人よりも上。
それでも、シンクロニシティによる共鳴は、難しいようであった。
「受信か送信、どちらか一方のみに専念すれば、できそうなのだけれども……」
それができるだけでも、凄いことであるのは間違いない。
「ふう。喉が渇いちゃった。取りに行ってくるね」
結希が席を立つ。
俺はそれを見送り、他の人たちの歌に耳を傾けることにした。




