第一章 閑話その2 魂の紡ぎ手
Side XXX
気が進まない。
それが、私の正直な気持ちだった。
やらなければならないことは、分かっている。
そして、そのためにあの、クマサカと組む必要性も理解している。
それでも、心の奥が叫んでいる。
嫌だ、と。
確実に、命を落とす者が出る。
そういう作戦だ。
「でも、必要なこと。これをやらないと、始まらないから」
自分自身に、言い聞かせる。
ゾディアック。
私の所属している組織。
そのトップに立つ者の、究極の目的を達成するための、唯一の手段。
そのためには、ここで巨大バグを発生させる必要がある。
犠牲者が出ること。
ヒーロー科から、逃げ出す者が現れること。
その結果、ヒーロー科には数人しか残らない状態になる。
クマサカの手の者は脱落し、舞が真に信頼できる者だけが残る。
そこが、スタートライン。
「XXX、辛いのなら、作戦から外れてもいいぞ」
リーダーの声が聞こえる。
トップとは、別の人。
トップを指揮官とするならば、リーダーは現場監督だ。
辛い。でも、私はやめたくない。
この作戦に参加し、失われる命を「別のところ」に移す。
それが、私が参加する理由なのだから。
私はそのことを、リーダーに伝えた。
「まあ、そうなるだろうな。私たちの中で一番、責任感が強いのだから」
リーダーが苦笑して、私の言葉に返事をした。
大切な、仲間たち。
でも、どうしても信頼しきることができない。
それは、お互いさまだろう。
私たちは、それほどまでに傷つき、悲惨な思いをしてきたのだから。
「そろそろ時間だ。ジャンナ、用意をしてくれ」
リーダーの言葉に応じ、少女がバグのコアに力を注ぐ。
もう、引き返すことはできない。
私にできることは、魂を導くことだけだ。
巨大バグが、その姿を現す。
スズムシのような形状であった。
「そのまま、グラウンドへ誘導。できるか?」
「了解」
ジャンナには、バグを操る能力がある。
とはいえ、これだけの巨大バグとなれば、通常では不可能。
コアから成長させたからこそ、可能らしい。
戦闘が始まる。
事前に聞かされていた通り、学校側の防衛システムには穴があり、バグが侵入することへの妨げはなかった。
激しい戦いが始まる。
先陣を切ったのは、真紅の機体。
激しい動きで、バグを翻弄する。
その後に、二年生。
隊列を組み、着実に戦っていく。
新入生も、それに加わった。
白い機体が、大きな斬撃を放つ。
それに呼応して、遠距離攻撃が重ねられた。
バグが、大きく羽を震わせる。
後衛の一人、黒い機体が隣の機体を引き倒し、地面に横たわる。
次の瞬間、凄まじい衝撃波が放たれる。
巻き込まれた二人は、木の葉のように宙に舞う。
地面に叩きつけられる。
今。
「アクセス完了。システムノア、リンク確認」
これでいい。
命を失っても、魂は「残る」。
それでも、心は痛む。
さぞ、痛かっただろう。
そんな中、歌が聞こえた。
綺麗な旋律。
流れるような音が、私の中を通り過ぎていく。
それでも、冷静さを保ち続ける。
前衛の一人が、地に伏した。
すぐにリンクを行い、魂を残す。
歌が途切れた。
巨大バグは、鎖とワイヤーで拘束され、身動きが取れない状態になっている。
再び、歌が流れ出す。
思わず、私も口ずさんでしまった。
そして、一言。
「がんばれ」
……このくらいならば、許されると思う。
後は、戦いに集中することにした。
悲惨な戦いが終わる。
さらに倒れた前衛二人を含む、死亡した五人すべての、魂を残すことに成功した。
「お疲れ様、XXX。ゆっくり休んでくれ」
リーダーの言葉に従い、私は戦場を後にした。
私の耳には、あの綺麗な旋律が残っていた。
恐らくまた、会うこともあるだろう。
ただし、敵として。
その事実を、悲しいと感じた。
次回から、第二章になります




